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帰る ※トウマ視点





 修理した機械馬に乗ってチュウオウタワーへとやって来た俺たちは、そこで"管理人"と呼ばれる一人の少年から通行料として何故か姿を変えられ、どういうわけかそのままの状態でチュウオウタワーを登る事になってしまった。


+


「はぁ、…はぁ…」


 ひたすら長い階段を登り、12階を目指す俺とアメリアとパンプキンさん。パンプキンさんに背中を押されながらだけどなんとか5階までは登ってきた。


 6階に上がるための階段付近で息を整えて、膝に手を置く。頭の上には小さなアメリアが居て、彼女は落っこちないようにしっかりと俺の髪を掴んでいた。


[大丈夫かい、トウマ?]

「ん、…ああ。うん。なんとか。…でも、ちょっと待って。…すごい今足にキテる…っ」


 パンプキンさんに聞かれて息も絶え絶えに応えて頷く。普段の俺なら、階段を登るだけではこんなに息は切れない。たった5階。たった5階登っただけなのに、なんで今こんなに息が切れてるんだろうか。


 いや、まぁ、だいたい理由はわかってる。身体がいつもよりも重いからだ。


[アメリアも、大丈夫かい?]

『…』


 喋れないのか、アメリアは何も言わない。その代わりに身体を使って彼女はパンプキンさんに伝えたい事を伝えていた。


 頭の上に乗っているから俺からは彼女が何をやっているかなんてわからない。


「扉があるのは12階だから、…まだ半分あるのか」


 遥か上にある12階を見つめて息を吐く。


 1階から階段を登って2階に上がれば、そこから先は吹き抜けになっていた。見上げるとそこには無数の様々な形の扉があり、俺たちはそれらを見ながら一段一段階段を登ってきた。


「…はぁ」


 5階でこんなに息が切れてるんだから、12階に到達した時にはたぶん酸欠で倒れてそうな気がする。


「なぁ、パンプキンさん。聞いてもいいか?」

[何かな?]

「俺たちの姿はどうして変わったんだ?」

[それは、あの鏡にその姿が映ったからだよ]

「…それがよくわからないんだけど」

[あの鏡は、映した人の"本当"を映し出す鏡。あの鏡に映ったのは君たちの本来の姿なんだ]

「本来の姿?」


 自分の手を見つめて考える。

 あの鏡に映った俺が、本来の俺の姿?


 俺の姿は、主さんに時間を止めてもらっているから時が経ってもずっと変わらないままだけど、…そうか、もし主さんに時間を止めてもらっていなければ、俺は普通に歳を取って普通に成長する。そう考えると鏡に映ったあの姿…というか今の俺は、時間を止められていない場合の成長した俺の姿になってるって事なのか。


「なら、アメリアは? アメリアはどうしてこの姿に?」

[あの鏡に映ったのがその姿なら、それが彼女の本来の姿なのだろう]

『……、』

「…それと、もう一つ。どうしてこのタワーを抜けるのに、偽りじゃいけないんだ?」


 偽り。が、果たして何なのかわからないけど。一応気になっているので聞いてみる。


 すると、パンプキンさんは階段を登って6階に上がった。ついていくと、パンプキンさんは手を伸ばして"あれをご覧なさい"と何かを指差す。そこには一体のロボットが居た。二足歩行の白いロボットだ。


「あれは、」

[ここまでの道中で、度々ワタシたちの視界に入ってきていたロボットだよ。…試しに、この苗を投げてみようか]


 そう言って、パンプキンさんは懐から鉢苗を一つ取り出す。それをロボット目掛けて思いっきり投げると、ロボットは瞬時に自分に向かってくる鉢苗に気付いて素早い動きでそれを撃ち落とした。あまりに一瞬の出来事に、俺は目を見開いて息を飲む。今何が起こったんだ。


「なんだ今の…」

『……、』

[あのロボットには、視界に入った対象が偽りの物だった場合にのみああやって攻撃するようプログラムがされているんだ。あの苗は鏡に映していない偽りの苗だったから問答無用でロボットに消去されたんだよ]

「……」


 だから、ここを進むためには"本当の姿"じゃないといけないのさ。ははは、と笑いながらパンプキンさんは言った。


 全然笑い事じゃない。


+


 そして、どうにかこうにか12階まで登ってきた。予想していた通り12階に来る頃には俺の息は限界寸前で、もうすぐで倒れてしまいそうだった。


 頭の上で、心配そうにアメリアが俺の頭をポンポンと叩いている。大丈夫だと伝えたいけど、そんな余裕は生憎と今はなかった。誰でもいいので水をください。


[ここが12階。この階層に、君たちが入るべき扉があるはずだ]

「っ、…はぁ。はぁ。と、扉に、何か特徴とか、目印になってるようなものとかないのか?」

[特にはない。けれど、君たちの世界の扉は他の扉と比べて形が珍しいからすぐに見つかるよ]

「はぁ」


 辺りを見渡し、扉を探す。他の扉と比べて珍しい形の扉。この12階にも他の階と同じように様々な形の扉が無数にあって、この中で俺たちが入るべき扉を見つけるのはなかなか難しい作業のような気がした。


 パンプキンさんはどんどん歩みを進めて扉を一つ一つ丁寧に見つめていく。正解の扉がどんなものなのかわからない俺たちにとっては、ただただパンプキンさんについていくしかなかった。そして、何十個目かの扉を見ていったパンプキンさんが、とある扉の前で足を止める。


[…あ。二人ともあったよ。この扉だ]


 パンプキンさんの目の前にある扉を見つめる。一見して、普通のよくあるタイプの扉だ。パンプキンさんはドアノブに手をかけて扉を開く。開くと、中は真っ暗闇だった。それを見て、俺たちは首を傾げる。


「何もないけど?」

『?』

[顔を覗かせて下を見てごらん]

「下?」


 言われた通り、顔を覗かせて下を見てみる。すると、目線の先には小さな四角い穴があった。人が一人入れそうなサイズの四角い小さな穴。その穴からは微量だけど風が吹いてきていた。それと、なんだか少し穴が揺れている気がする。


「あの穴は?」

[あの穴は君たちの世界に繋がっている穴だよ。ここから飛び降りてあの穴を通れば君たちは帰るべき所に帰る事が出来る]


 パンプキンさんは言う。


 頭の上に居るアメリアが、身体をふるふると震わせていた。…うん。一旦扉を閉めよう。


[? どうしたんだい? 行かないのかい?]

「…いや。行かないというか。…少し、心の準備が必要かなって」

『……』


 特にアメリア。

 さっきから頭の上で震えっぱなしだ。怖がっているのだろう。


[大丈夫。ここの扉を通った者はタワーの加護に守られるから地面に激突しても死ぬような事はない。だいぶ痛みはあるだろうけどね]

『っ!?』

[なに。ただの紐無しのバンジージャンプをするんだと思ってくれればいい]

「……、」


 パンプキンさんは言う。


 もう少し優しさに包んで言葉を言ってくれないものか。それだと俺も怖いよ。


『……~っ、』


 アメリアの震えが止まらない。


 アメリアを頭の上から離れさせ、俺は彼女を安心させようと口元を緩ませた。


「大丈夫だよ、アメリア。俺も一緒だから」

『……』


 どっちかって言うと、俺も今アメリアと同じように恐怖を感じている。表には出していないけど、心臓とかバクバクしてるし、許されるなら正直今すぐパンプキンさんに八つ当たりしたい気分だ。


 だけどアメリアが不安になっている手前、俺まで不安に押し負けていたらとてもじゃないけど扉の先に行くなんて事は出来ない。どうにかして恐怖を取り除いてあげないと。


「パンプキンさん。扉の先に行ったら、俺たちは元の姿に戻るんだよな?」

[うん。戻るよ]

「だったらそんなに不安がる事ないよ、アメリア」

『?』

「アメリアには精霊が居るだろ? 扉の先に行って、元の姿に戻ったらすぐにリヴィスを呼んで手助けしてもらえばいい。水の力があればたぶん地面には激突せずに降りられるだろ?」

『!』

「俺も俺で魔法を使ってなんとかするからさ。だから大丈夫。早く帰って、ローデンさんたちを捜そう」

『……』


 アメリアは俺を見つめる。


 彼女は今、何を思っているのだろう。


『!!!』


 そして数秒後、彼女は両手をパタパタと動かして俺の手を叩いた。震えも止まっている。その様子から、どうやら俺の言葉に力をもらったようだ。


[大丈夫かい?]


 パンプキンさんが聞いてくる。その言葉に頷くと、パンプキンさんは再び扉を開けた。前に出て、俺は再び扉の先にある小さな穴を見つめる。


 怖くないと言ったら嘘になる。"怖い"ってはっきりと大きな声で言えたら少しは楽なんだろうけど、だけどアメリアが居る前でそんな弱音は吐きたくない。


「…準備はいい? アメリア」

『……』


 聞くと、アメリアは頷く。


 深呼吸をして、俺は心を落ち着かせた。大丈夫。大丈夫。俺は大丈夫。俺は今から鳥だ。俺は今から大空へ羽ばたく。大丈夫。怖さなんてない。


「行くぞ」

『っ、』

「…パンプキンさん。ここまでついてきてくれてありがとう」

[……、君たちのこれからの未来に幸運を]


 言いながら胸に手を当てて、パンプキンさんは頭を下げる。それを見て俺は口元を緩ませ、意を決してアメリアと一緒に飛び降りた。一瞬だけど、ふわっとした感覚が身体全体に襲い掛かる。


 風の音なのか、ゴゴゴゴという音がうるさいくらいに至るところから聞こえてくる。そして数秒間の暗闇のあと、四角い穴を通過して見えたのは、一面に広がる空と森だった。



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