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チュウオウタワーの管理人 ※?視点






 チュウオウタワーに、人がやって来た。

 ここに人がやって来るのは久しぶりだ。


+


「こんにちは、お姉さんたち」

「「!」」


 チュウオウタワー・1Fフロア。

 上層階へ向かうための階段から少し離れた出入り口用自動ドアを通って入ってきたのは、二人の人間と一人の妖精だった。声を掛けると、彼女たちは吃驚した様子で僕の方に顔を向ける。


 人間のうち、一人は朱色の髪の女の人。もう一人は黒色の髪の男の人。もう一人の妖精の方は知っていた。二人の付き添いで来ているのか、その妖精は僕の姿を見ると"こんにちは"と言って頭を下げる。かぼちゃ頭の妖精・パンプキンさん。一度見たら絶対に忘れない見た目をした妖精さんで、身長がとても高い男の妖精さんだ。


「ようこそ、チュウオウタワーへ」

「お、男の子?」

[彼はこのチュウオウタワーの管理人だよ。名前は"イオ"]

「お姉さんたち、見掛けない顔だね。もしかして"迷い人"?」

「迷い人?」

[そうだよ。彼女たちはこの国に迷い込んでしまった迷い人だ。だから、元の場所に帰してあげたいんだけど。…扉はあるかな?]


 そう言って、パンプキンさんはお姉さんたちの前に出る。パンプキンさんの話を聞いて、僕はお姉さんたちの顔を交互に見つめた。


 お姉さんたちの身体に纏わり付いている魔力結晶の色は、二人とも違っていた。お姉さんのは青色で、お兄さんのは白に近い水色。どっちもキラキラしていてとても綺麗な汚れのない色をしていた。


「扉ならたくさんあるけど、…お姉さんたち、何処に帰るの?」

「何処にって?」

[彼女たちが帰るべき場所は、四つの柱が存在している世界だよ]

「四つの柱? …ああ、あそこか。そこに帰るのなら12階だね!」


 パンプキンさんに聞いて、ポンッと手を叩く。そんな僕を見つめて、お姉さんたちは顔を見合わせた。


 四つの柱が存在する世界は、今のところ一つしかない。"数ある世界"の中でもお姉さんたちが帰るべき世界は他の所に比べて目印があり分わかりやすかった。


「12階?」

「うん。12階。あそこにある階段から行けるよ」

[ワタシがご案内しましょう。正しい扉に入らなければ間違えて別の世界に行ってしまいますからね]

「別の世界?」

「ここにあるたくさんの扉の先には、同じくたくさんの世界があるんだ。このチュウオウタワーはね、"世界と世界を繋ぐ架け橋"になってるんだよ」

「「…はぁ?」」

「んー、まぁ、これはお姉さんたちには関係ない話だからすぐに忘れてくれてもいいよ。ごめん。話を戻すね」


 眉を下げて僕は笑う。お姉さんたちはちんぷんかんぷんな表情を浮かべていた。本当に、これはお姉さんたちには関係のない話だ。文章の最後に"この話はまた別の機会に"っていう文言も付かないようなまったく無意味な、無駄な話。パンプキンさんもその話はしない方が良いと首を振っている。


「お姉さんたち。12階に行きたいのなら、通行料を払ってね」

「通行料?」

「え、お金取るんですか? …あー、と、生憎と私たち今持ち合わせが無くて」

「お金なんていらないよ。僕が言ってる通行料ってのは、お姉さんたち自身の事なんだ」

「私たち……?」


 お姉さんたちは顔を見合わせる。


 話をするよりも見てもらった方が早いと感じた僕は、指をパチンと鳴らしてお姉さんたちの前に透明な鏡を出現させた。お姉さんたちの身体の全部がすっぽりと余裕で入る姿見だ。その鏡の中には当然だけれどお姉さんたちの姿が映っている。しかし一つだけ違う事があった。それは。


「なんだこれ……!?」


 お兄さんが叫ぶ。鏡に映っているのはお姉さんたち自身。けれどそれはまったく違う姿をしていた。

 お兄さんの鏡に映っているのは、お兄さんの"もしも"が映し出された姿。お姉さんの鏡に映っているのは、白くて丸い、人型クッキーを立体化したような姿。お姉さんたちはそこに映るものを見つめて目を見開いていた。


 もう一度指を鳴らす。すると鏡はカタカタと動き出してお姉さんたちを飲み込んだ。お姉さんたちを飲み込んだ鏡は小刻みにその場でカタカタと動き続けていて、そして数秒後、鏡はお姉さんたちを吐き出した。鏡から出てきたお姉さんたちは、鏡に映っていたままの姿で僕の前に現れる。


「っ、…な、なんだ、今の? …って、あれ。なんか声が」


 何が起こったかわからず、お兄さんは眉をひそめる。へぇ。お兄さんは見た目もそうだけど声も少し変わるんだね。


『…!?!?』


 お姉さんの方は、自分の姿を見て驚いているみたい。真っ白な見た目で、目も口も鼻もないから表情が全然わからないけれど、動きを見ればなんとなく驚いているんだなとわかる。


「なるほど。それがお姉さんたちの"本当"なんだね」


 僕は言う。


 僕の言葉を聞いて、お兄さんは眉をひそめたまま僕の方に顔を向けた。


「本当って?」

「そのままの意味だよ。そして、それがお姉さんたちの通行料だ」

「…どういう意味なのかさっぱりわからん」

[あの鏡は、自分の本当の姿が映る鏡。このチュウオウタワーを進むためには、偽りではいけないという事だよ]

「……」


 偽り。と聞いて、お兄さんは心当たりがあるのか自身の胸に手を添える。詮索するつもりはないから考えないけれど、お兄さんが"あの姿"だったのには何か理由があるのかな。


『!!!』


 お兄さんの足元でお姉さんが飛び跳ねる。お姉さんの見た目はだいぶ変わっていた。


 さっきも言ったけれど、お姉さんの今の姿は"白くて丸い、人型クッキーを立体化したような姿"。身長はだいたい10~15センチくらい。小さなぬいぐるみ並みのサイズになっているのかな。


[おや、アメリア。随分と可愛らしい姿になったね]

「え? これアメリア?」

『!!!』


 両手を限界まで高く上げて、お姉さんは必死に飛び跳ねる。何か伝えたいのだろうが、お兄さんたちには伝わらなかった。


 なんだか面白い人たちだ。

 ここまで見た目が大きく変わる人が居るなんて驚きだよ。


「ありがとうお姉さんたち。通行料払ってくれたから12階まで上がっていいよ」

「…いや、上がっていいよと言われても。君は俺たちに何したんだ?」

「? 何もしてないよ? ただ、鏡にお兄さんたちの姿を映しただけ」

「鏡に映しただけって…。それだけでこんなに姿が変わるか? 特にアメリア」

『……』

「うーん。お姉さんの姿にはちょっと驚いたけど、それがお姉さんの本当だから…」

「その"本当"ってのはなんなんだ? 通行料がこれってどういう意味だよ?」

「あー、…えーと」

[トウマ、あまり深く聞くと沼だよ。…さぁ、ワタシが扉まで案内するから。行こう]


 お兄さんの質問攻めに、眉を下げて困惑する。そんな僕を見かねてなのかパンプキンさんはお兄さんを宥めて、彼を上層階へ続く階段まで強引に連れていった。


 それを見たお姉さんは慌てて彼らに付いていくけれど、上手く走れないのか途中で転んでパンプキンさんに助けられるまでその場でジタバタしていた。


「……、」


 階段を登っていくお姉さんたちを見つめて、肩を落とし息を吐く。


 パンプキンさんに管理人って言われたけれど、僕は管理人らしい事は一つもしていない。僕はただここに居るだけで、タワーの管理はタワー自身がやってるからね。


「…さて、ご飯食べよう」


 そして僕は、踵を返して管理人室へと戻っていった。


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