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怪奇! パンプキンさん! 2





 翌日。機械馬の修理のため、新しいエンジンとその他必要な部品をいくつか買いに街へと出掛けたスイさんとトウマくんは、それから二時間後に両手に紙袋を抱えて小屋へと戻ってきた。機械馬の修理にはトウマくんも手伝う事となり、彼らは小屋に帰ってくるとそのまま機械馬修理の作業を開始した。


 トウマくんたちが機械馬の修理をしている間、私は何をするのかというと野菜の収穫作業。昨日の夕食時にスイさんに頼まれて、小屋の近くにある畑へとやって来ている。ちなみに、私の着ていた衣服はまだ干してある状態だ。あの服で畑作業は出来ないからね。


「ねぇ、コロタマ。ここにある野菜って何なの?」

[ピピ。ここにある野菜は、トマト、ナス、トウモロコシ、スイカ、きゅうりの五種類だよ]

「五種類? へぇ、結構育ててるんだね」

[自給自足の精神。自給自足の精神。今回アメリアに収穫してもらうのはトウモロコシときゅうり。トウモロコシときゅうり。まずはトウモロコシの収穫からだよ]

「トウモロコシね。わかった!」


 がんばれー。とのコロタマの応援を聞きながら、私は畑の中に足を踏み入れ、トウモロコシのゾーンにて、手に持っていたかごの中に収穫したトウモロコシたちを入れていく。収穫したトウモロコシはとても大きくて、育て方が良いのかとても美味しそうだった。


「うーん。こんなにいっぱいあるんじゃ収穫作業が大変だよ…」

[アメリア。手伝ってくれて感謝。感謝。スイも喜んでる。喜んでる]

「…スイさん、これだけの野菜を育てるのきっと苦労したんだろうな」


 今でこそ元気に育っている野菜たちだけれど、ここまで育てるためには相当な苦労と努力が必要だったんじゃないかと思う。師匠の屋敷で一緒に住んでいた頃はわからなかった事だが、ひょっとしたらスイさんって凄い努力家なんじゃないだろうか。立派に育ってる野菜を見ただけでは判断しきれないけれど。


[アメリア。アメリア。トウモロコシ。トウモロコシ、ここに入れて。入れて!]

「ん?」


 自分の身体を開いて、コロタマはぴょんぴょん飛び跳ねる。なんだかそれは異様な光景だけれど、見慣れてしまった此方の身としてはあまり驚きはしない。


 私は言われた通り、かごに入れたトウモロコシをコロタマの中に移す。二つほど移したところで、パカッと身体が閉じられ、コロタマはその場でくるくると回り始めた。何をしているんだろうかと見ていると、しばらくしてからピピッと音を出して再びぴょんぴょんと飛び跳ねる。


[トウモロコシ。夏の野菜。糖度良好。品質良好。新鮮! 新鮮! 今年も良く育った! 育った! スイに見せてくる! アメリアは次はきゅうりの収穫。きゅうりの収穫]


 嬉しそうに言うと、コロタマはそのまま私から離れていき、猛スピードでスイさんとトウマくんの居る機械馬小屋へと転がっていく。あんな超スピードで転がっていって、中のトウモロコシはぐちゃぐちゃになったりしないのだろうか。少し経って"うぎゃあ!?"とトウマくんの声が聞こえたけれど気にしないでおこう。


「…さて」


 トウモロコシの収穫もだいたい終わったので、次はコロタマの指示通りにきゅうりの収穫をします。きゅうりのゾーンはトウモロコシゾーンの隣にある。収穫すると、きゅうりもきゅうりでトウモロコシと同じくとても美味しそうだった。


「ん?」


 きゅうりを収穫して、かごに入れる。その繰り返しの作業でテキパキと手を動かしていると、ふと何処かから誰かの視線を感じた。顔をあげてキョロキョロと辺りを見渡すけれど私の周りには当然誰も居ない。


 気のせいかな。と思いつつ、再びきゅうりに手を伸ばす。するとそれはいきなり私の前に姿を現していた。視線を合わせるように立っていたそれを見て、私は一瞬だけ身体を硬直させる。


[こんにちは]

「…、」


 低い声で呟き、"それ"は私を見ていた。


 "それ"の姿を見るのは二度目で、"それ"の正体がわかると、私は大声をあげてその場に尻餅を付く。


「うわあああぁぁああぁっ!?」


 私の悲鳴を聞いて、機械馬小屋からスイさんたちが走ってきた。コロタマが私のもとに戻ってきて、ピピピと音を鳴らす。


「アメリア、どうしたんだ!?」

「! ト、トトト、トウマくん!」


 プチパニック。


 トウモロコシときゅうりの入ったかごを地面に落としたまま、私はトウマくんのもとへ走っていった。"それ"から見えないように彼の背に隠れ、ふるふると身を震わせる。


「えっ、アメリア?」

「で、で、出た! 出た! パンッ、パン…ッ!」

「パン?」


 恐怖で口が回らず、トウマくんに伝わらない。そんな私を見てトウマくんは首を傾げ、畑のある方向に顔を向けた。


 そこに居た"それ"は、オレンジの顔を此方に向けてゆっくりと近付いてくる。マントを羽織ったかぼちゃ頭の男の人?。トウマくんも"それ"の姿には見覚えがあるはずだ。彼の腕にしがみついて、そっと顔を覗かせる。あのオレンジの顔。忘れるわけがない。


「!」


 トウマくんも気付いたようで、"それ"を見て彼は目を見開いた。"それ"は数年前、私たちの通う学校に現れたオレンジの怪物。パンプキンさんだった。


 七不思議の一つとして、私たちの間で噂されていたパンプキンさん。トウマくんを追い掛けて私たちの教室を半壊させたパンプキンさんが、何でこんな所に居るのか。


[パンプキンさん! パンプキンさん!]

[こんにちは、コロタマ]


 パンプキンさんの周りをコロタマはコロコロと転がり回っている。その状態で私たちのもとまで歩いてきたパンプキンさんは、じっと私とトウマくんの顔を見つめたあと、スイさんの方に顔を向けた。


[こんにちは、スイ。そちらのお嬢さんたちはお客さんかな?]

「うん。お客さん。トウマとアメリア」

[トウマとアメリア…。そうか、君たちはあの時の]

「彼らと会った事があるのか?」

[以前に一度だけ。…その時の印象で彼らの中でワタシはトラウマになってしまったようだけれど]

「…、君の顔は慣れてないと怖いからね。仕方ないよ」


 普通に会話してる。


「ス、スイさん…。パンプキンさんとし、知り合いなんですか?」


 トウマくんの腕にしがみついたまま、私はスイさんに聞く。その問いにスイさんは頷いて、彼はこの国に住む妖精なんだと教えてくれた。


「…よ、妖精?」

[妖精に見えないのは自覚しているから、なんとでも思ってくれて構わないよ]


 パンプキンさんが私たちの方に顔を向ける。あの時のような威圧感はないみたいだ。けれど、ずっとその顔を見続けていると恐怖で足がすくんでしまう。オレンジのかぼちゃに穴が三つ空いていれば、それだけで恐怖の対象になるよね。


 見ると、トウマくんも眉を下げていた。私たちを含めたクラスメイト全員にトラウマを植え付けたパンプキンさんの脅威はそう簡単には拭えない。そんなパンプキンさんが妖精だなんて信じられないんですけど。プクプとは大違いだ。


[驚かせてしまってごめんよ。まさかあんなに驚くとは思ってなくて…」

「! …い、いえ…っ、いえっ」

[…あぁ、そうだ。トウマくん。カードは大事にしてるかい?」

「え? カード…? あ、ああ。あの時貰った。…、まぁ、一応。使い道は未だにわからないけど」

[そうか。それならいい。時が来るまで大切にするんだよ]

「……」


 トウマくんは眉をひそめて、パンプキンさんを見つめる。そしてパンプキンさんはスイさんの方に顔を戻して頭を下げ、彼に何かを渡すと私たちに背を向けて霧のようにスゥッと消えていった。パンプキンさんが消えたのを確認して、私は深い溜め息と共に盛大に肩を落とす。


[パンプキンさんバイバイ。バイバイ]

「はあぁ、吃驚した」

「…はは、まさかこんなとこでパンプキンさんに会うとはな。もう二度と会わないものだと思ってた」

「スイさん、パンプキンさんは何を渡してきたんですか?」

「時計」

「時計?」

「…パンプキンさんはね、度々こうして森の中で拾ったものを俺の所に持ってくるんだ」

[壊れた時計。直す。直す]

「直す? スイさんが?」

[うん。直して街に持っていくんだ。そうすれば質屋で買い取ってくれるから]

[質屋。質屋]

「そういうわけだから、トウマ。少しの間だけ一人での修理になるけど…」

「あ、はい。大丈夫です。言われた通りにやればいいんですよね?」

「うん。なるべく早く終わらせるから」


 そう言って、スイさんはコロタマと一緒に私たちから離れていく。去り際、スイさんは私たちに"パンプキンさんとは仲良くして欲しい"と言った。


 根は優しい人なんだそうで、その見た目から勘違いされやすいんだそうです。いや、"仲良くして欲しい"と言われましても…。


「「……」」


 スイさんには悪いけれど、とりあえずもう二度とパンプキンさんとは会いたくない。私とトウマくんは顔を見合わせて眉を下げながら力なく笑った。


 けれど、"二度ある事は三度ある"ということわざがあるように、私たちのその願いも虚しくパンプキンさんとはこれから先何度も出会う事となる。


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