真ん中の国・チュウオウ
[ここ、"真ん中の国"。真ん中の国。名前。チュウオウ。チュウオウ]
「真ん中の国?」
コロタマが言った。
コロタマのその言葉に、私とトウマくんは顔を見合わせて首を傾げる。"真ん中の国・チュウオウ"。聞いた事のない国の名前だ。チュウオウという名前は、コロタマが付けたらしい。
[チュウオウ。チュウオウ。僕たちが作った国。大陸。作った。作った]
「作ったって?」
「コロタマ。今それ関係ないから話さなくていい」
コロタマの話を聞きながら、箸で掴んだ卵焼きを口に入れる。現在私とトウマくんはスイさんたちと一緒に部屋から少し離れたリビングにて少し遅い昼食をいただいていた。
昼食のメニューは、ご飯と味噌汁と卵焼き。だいぶ珍しい組み合わせ…というか、非常に"和"を感じさせるメニューだった。それらが人数分並んだテーブルを見ていたトウマくんはなんだか嬉しそうにしていて、話を聞いている間でもパクパクと箸を止めずに食べている。卵焼きはスイさんの得意料理なんだそうだ。
「そうか。君たちはそれでここにやって来てしまったんだね。コロタマ、セント大王イカのデータは出せる?」
[ぬ? ちょっと待って。…ピピピピ。検索中。検索中。…ピ! 一件ヒット。…セント大王イカ。この世界に生息する巨大なイカ類の生き物。体長は最低でも10メートル以上はあり、気性が荒く、怒らせると超危険。普段は深海に住んでいるが、時々、高級な餌を求めて浮上してくる。第一級危険生物として扱われている。焼くと美味しい。主な活動範囲は、北の海峡。北の海峡]
「…なるほど。それは怖いな」
「でもどうして、北の海峡にしか現れないはずのセント大王イカがあんな所に居たのかな?」
「さぁ…?」
首を傾げて、頭の上に"?"を浮かべる。
深海から上がってくる時に、進行方向を間違えてしまったのかな。
「セント大王イカがどうしてあんなとこに居たのかは気になるけど、それよりまずは俺たちの事だ。この国から出て、ローデンさんたちを捜さないと」
「…うん。そうだね」
[ろうでん?]
「俺たちの仲間だよ。船を壊された時にはぐれてしまった仲間の一人なんだ」
[ピピピピ。ろうでん。ろうでん。仲間。仲間。ピピピピ。検索中。検索中……。ぬ?]
「スイさん、知っていれば教えてください。この国の何処かに船に乗れる港町はありませんか?」
「…。この国にそんなものはないよ」
「え?」
「この国に港町はないよ。あるのはチュウオウタワーだけ」
「チュウオウタワー?」
スイさんは言う。
チュウオウタワーとは。
「それって、何処にあるんですか?」
聞くと、スイさんは背後にある本棚から地図を取り出す。食べ終わった昼食のお皿をキッチンに持っていって、地図をテーブルの上に広げた。地図の左端には赤い点があり、この赤い点が現在の私たちの位置を示しているのだそうだ。赤い点の少し上には細い字で"静かな森"と書かれている。
「ここが俺たちが今居る場所。そして、ここから西にずっと向かっていくとあるのがチュウオウタワー」
スイさんの指が、赤い点から右に進んで真ん中辺りで止まる。そこには塔の絵が描かれていた。この塔が、スイさんの言っていた"チュウオウタワー"という場所なんだそうで、この国から他の国へ行くためには必ずこの塔を抜けて行かなければならないのだそうだ。
「でも、ここからチュウオウタワーへは結構距離があるから、歩いて行くのは無理」
「どれくらいあるんですか?」
[この小屋からチュウオウタワーまでの距離は約15キロメートル。15キロメートル]
「15キロ!?」
遠い!
「15キロ…。とてもじゃないけど歩いて行ける距離じゃないな」
「スイさん、この辺りに馬車とかは走ってないんですか?」
「残念だけど、この国に馬車なんてものもない。この国は完全に世界から"切り離してる"からね」
「…? どういう意味ですか?」
「さて。どういう意味だろう?」
「?」
「チュウオウタワーに行きたいのなら、馬車はないけど小屋の裏に機械馬があるからそれを貸してあげる」
「え?」
スイさんが言った。
きかいば?
+
「ここだよ」
スイさんの案内で、私たちは小屋の裏側へと向かう。小屋の外に出て空を見上げると、空の色は真っ白だった。これは曇りというわけではなく、スイさん曰く"結界魔法の影響で色が白く変化して見えている"という事らしい。一日中ずっと空が白い色だから、今が朝なのか昼なのか夜なのか時々わからなくなるのが最近の彼の悩みなんだそうだ。どうして結界なんて張っているのかはわからないけれど、先ほどスイさんが言った"世界から切り離してる"という言葉と関係があるのだろう。
「この中にあるんだ。ちょっと待ってて。持ってくるから」
小屋の裏側には小さな物置小屋があった。扉を開けて、スイさんは中に入っていく。そしてしばらく待っていると、スイさんはゆっくりとした足取りで戻ってきた。古びた布に覆われた大きな何かと一緒に戻ってきたスイさんを見て、私たちは首を傾げる。彼が持ってきたのは乗り物のようだった。
「スイさん、これは?」
「随分前に乗ったっきりだからまだ動くかどうかわからないけど」
そう言って、スイさんは布を剥ぎ取る。すると、ぴょんぴょんと飛び跳ねてコロタマが反応した。"機械の乗り物。機械の乗り物"と繰り返し言いながら、ドンと音を立ててそれに飛び乗る。その乗り物は、所々汚れていた。…錆び付いている、と言ってもいいかもしれない。
その乗り物を、私は見た事があった。トウマくんもそれは同じのようで、その乗り物を見つめて吃驚している。
「これは、バイクか?」
[機械の乗り物! 機械の乗り物! 爆速! 爆速!]
「スイさん、これをどこで?」
「友人からの贈り物なんだ。移動に便利だからって。必要ないって言ったんだけど」
「スイさんの友達?」
[友達。友達。仲間。仲間]
「…でもこれ、随分汚れてますね」
「相当古いものだからね。ちょっと動かしてみよう」
スイさんは、機械馬のハンドル部分に付いている赤いスイッチを押す。カチッとスイッチを押すと、機械馬全体が大きく震えてブルルと音を立てた。
しかし、その音と機械馬の震えはすぐに止まってしまって、あれ? と、スイさんは首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「うーん。どうやらエンジンの調子が悪いみたいだ」
「え?」
「コロタマ、ちょっとエンジンの様子を見てくれる?」
[ぬ? わかった]
スイさんに言われ、コロタマは目を閉じてピピピピとその場で小刻みに回る。しばらくするとコロタマは目を開けて、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
[エンジン。エンジン。イカれてる。イカれてる。対処法。新品に交換。新品に交換]
「…そっか。ありがとう」
[ピピッ]
「エンジンが故障って、じゃあこれ、すぐには動かないんですか?」
「そうみたい。でも、街に行けば機械馬の部品が売ってるから、買ってくれば大丈夫。また動く」
[街! 街!]
「ごめん。チュウオウタワーに行くにはもうちょっと待って」
「「……」」
スイさんの言葉に、私とトウマくんは顔を見合わせる。
この国を出るためにはチュウオウタワーへ行かないといけない。そのためには15キロもの距離を移動しなければならなくて、でも15キロなんて距離を徒歩で行くのは絶対に無理。それならば、多少時間は掛かっても機械馬の修理を待って、新しいエンジンに取り換えた機械馬でチュウオウタワーへ行く方が断然良い。そう思って、私とトウマくんは頷いた。
「修理にはどれくらい掛かるんですか?」
「? …そうだな。エンジンの他にも壊れてる所がありそうだし、…洗浄もしないとだから、一週間くらいあればなんとか」
「一週間ですか」
[アメリアの傷も治す。治す。一週間あれば完治。完治]
「ん?」
コロタマに言われて、ハッとする。
そういえば、私の傷も治さないといけなかった。
「一週間か。…仕方ない。それまではちょっとした休息期間だな」
「そうだね」
[一週間、アメリアと一緒。トウマと一緒。嬉しい。嬉しい]
顎に手を添えて、トウマくんは言う。
ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねるコロタマを見て、私は口元を緩ませて笑った。




