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北の国へ





 西の国・港町。

 風の柱から港町までなんとか迷わずに辿り着いた翌日。私たちは船着き場にて、北の国・フラウィに行く船を探していた。


 一隻目。


「フラウィに行きたい? ……あー、残念だが、この船は東の国行きなんだよ。すまんな」


 二隻目。


「これはフラウィ行きじゃないよ。フラウィ行きはあっち」


 三隻目。


「フラウィに行きたい? ダメダメ。しばらくはフラウィに行く船は出せないよ」


 三隻目の船の船員からその言葉を聞いたのはちょうど十分前の事。


 "北の国には行かない"とそう言った理由は、この時期の北の国と西の国を繋ぐ海峡には"セント大王イカ"という巨大なイカが深海から餌を求めて浮上してくるらしく、安全面を考えてしばらくの間は北の国に行く船の航行は止めているからだそうだ。セント大王イカ。久しぶりに聞く名前だ。


「どういう事ですの!? 貴方、ここへ来れば北の国に帰れるとおっしゃっていましたわよね!?」

[俺に怒るなよ。まさか俺もこうなるとは思ってなかったんだから]

「セント大王イカ…。そういや居たなそんなん。すっかり忘れとったわ」

「何なんですか? その、セント大王イカって?」

「もの凄く凶暴なイカちゃんや。普段は深海で暮らしてるんやけど、…あー、確か半年に一回やったかな。そんくらいのペースで何故か海上に出てくるんよ」

「北の国に帰れないんじゃ、これからどうしますか?」

「ポータルは使えないの?」

「こんな人の多い所じゃ使えないよ」

「うーん。…まぁ、そんな急いでへんってんなら北の国に行く方法はまだあるんやけど」


 あんま提案したくないな。そう言って、ローデンさんは眉をひそめる。


 言いづらそうに表情を歪めたローデンさんを見て、私とトウマくん、アンジェラは顔を見合わせた。


「他に方法があるんですか?」

「聞きたい? ほんまに?」

「ローデンさん。もったいぶらずに言ってください」

「…、わいはあまり乗り気しないんやけど、そんなに知りたいってんなら、うん」


 本当に言いたくない感じで口ごもるローデンさん。早く言ってくださいと急かすと、少し渋ったあと彼はゆっくりと口を開いて、北の国に行く他の方法を教えてくれた。


 その方法とは。


+


「オボロロロロロ」


 数時間後。船着き場から船に乗って、私たちは東の国・ジハーグを目指す。ローデンさんから聞いた"北の国へ行く他の方法"とは、東の国経由で北の国へ行くというものだった。


 まず、西の国の船着き場から船に乗って東の国へと渡り、そこから北の国行きの船に乗り換えて北の国を目指す。西の国から直接北の国へ行くよりも何倍も時間が掛かってしまうけれど、セント大王イカがいつ深海へ戻るのかわからない今の現状では、確実に北の国へ帰るにはこの方法しかない。

 東の国の港町に到着するまではしばらく掛かる。それまでは船の旅を満喫しようと、手すりに掴まり、私はそこから一面に広がる大海原を見つめていた。隣ではローデンさんとトウマくんが同じく手すりに掴まり、顔を覗かせて海面を見つめている。見ると、ローデンさんの顔色は真っ白になっていた。トウマくん曰く"船酔い"だそうです。


「大丈夫ですか、ローデンさん?」

「うぅ…、わい史上最悪の吐き気が今来とる…。あかん。これは東の国に着く頃には死んどるかもしれん」

「船酔いくらいじゃ死にませんよ。酔い止めは飲んだんですか?」

「万が一のためにってリィに渡されてた酔い止め薬ならさっき飲んだけど…、あまり効果はないように思える」


 トウマくんの言葉にローデンさんは答える。"効果がない"というよりも、こんなに連続して吐き続けていたらその飲んだ薬も全部出ちゃってて、それであまり効果がないんじゃないかと思う。


 話している間でもローデンさんの吐き気は治まらず、ゲロゲロと口から色々なものを吐き出す。眉を下げて私はローデンさんの背中をさすり、それを見ながらトウマくんも眉を下げた。


「アメリアさん、トウマさん」

「「?」」


 そこに、シャスティアがシェルとアンジェラを連れて近付いてくる。


「ローデンさまの容体はいかがですの?」

「見ての通り。全然芳しくない」

「オボロロロロロ」

[その様子じゃ、まともに会話は出来なさそうだな]

「うぅ、…今めっちゃカエルんなりたい」


 …カエル?


「ところで、何しに来たんだ?」

「シェルが貴方たちに話があるんですってよ。とても重要なお話だそうです」

「ん?」


 シャスティアは言う。


 とても重要な話。とは。


「話って?」

[…。残念だが、お前らをこのまま北の国に帰らせるわけにはいかなくなった]

「え?」

「どういう意味だ?」

[少しずつだが、"あいつ"の気配が近付いてきてる]

「あいつ? どなたの事ですの?」

「…あぁ、わかる。わかるでシェル。その気配はわいも薄々感じとるよ……」


 シェルの言葉を聞いて、彼の方に顔を向けるローデンさん。先ほどから胃の中の物をほぼすべて吐き続けているせいか、表情からは色が失われていた。声を出すのも苦しそうだ。


[なんだ。気づいていたのか]

「うぶ。…まぁな。あんまわいらを舐めんといて。わいらはな、炎の柱の封印が解けてしもうた時から今までずーっとあいつの気配を探しとんねん。それはもう他の事度外視でずーっとな。まともに授業も出られんほどや。…なぁ、トウマくん?」

「…ええ」

[なるほど。それなら話は早い]

「ちょっと! 貴方たちだけで話を進めないでくださいませ! 私たちにもわかるように説明してくださいな!」

[わかってる。そう焦るなって。…これは、主たちにも関係がある話だからな。ないがしろにはしねーよ]

「……」


 腕を組んで、シェルは言う。


 ローデンさんの口から出た"炎の柱"という言葉を聞いて、私は眉をひそめた。


[まず主たちに質問。…主たちはサラマンダー"っていう精霊が居ることは知ってるか?]

「サラマンダー?」

「サラマンダーというのは、確か……炎の精霊ですよね?」

[ああ。サラマンダーは地水火風の四大精霊の中でも最も強い力を持ってる精霊だと言われてる。…まぁ、それは勝手に人間たちが言い出した出鱈目だが]

「その炎の精霊がどうかしまして?」

「そのサラマンダーの気配が、今まさに北の国からじんわりと漂ってきとるって事や」

[その通り。だからお前たちを北の国へ行かせるわけにはいかないんだ]

「どうしてですか?」

[サラマンダーが危険な存在だからだ]

「危険?」


 シェルの言葉を聞いて、シャスティアとアンジェラは顔を見合わせて首を傾げる。


 サラマンダーが一体どれほど危険な存在なのかを説明しようと、シェルはそのまま言葉を続けてシャスティアたちに教えようとした。しかし次の瞬間、船全体が大きく揺れてそれは不可能となる。


「!?」

「な、なんですの!?」

「何かぶつかったんでしょうか?」

「うぇっぷ。…うぅ、吐き気が急加速してもうた。こんな時に何にぶつかってんのや…っ」

「…? ねぇ、何あれ?」


 船が揺れた原因は何なのかと疑問に思いながら海を見つめる。すると、海の中に黒い影を見つけた。指を差すと、みんなも海の中に注目する。黒い影は、ゆらゆらと揺らめいていた。船にぶつかったのはあの黒い影なのだろうか。


 そして、その影は此方に向かって少しずつ大きくなっていき、ザバンと勢いよく音を立てて飛び出してくる。飛び出てきたものを見つめて、私たちは目を見開いた。


「な、な、なんなんですのあれ!?」


 海の中から飛び出てきたもの。それは巨大な足だった。白くて、吸盤が無数に付いた巨大な足。それは、うねうねと不規則に動いていた。触手…と言った方がいいかもしれない。


 私たち以外にも船の甲板にはたくさんの人たちが乗っていて、その人たちもその巨大な触手を見つめて目を見開いていた。驚いて悲鳴をあげる人も居れば、逃げ惑う人、恐怖で動くことが出来ない人も居て、その場は大パニックとなる。そして、そのままその巨大な足は甲板に向かって倒れてきた。


「わー!」

「きゃー!」

「怖いよー!!」

「神様仏様精霊様…っ!!」


 船が大きく揺れる。甲板に触手がぶつかると、そこには大きな穴が空いた。そこで再び、海の中から何かが出てくる。


 それはイカだった。触手と同じく、白くて巨大なイカ。何本もの触手と共に現れたそれは"グオオオオッ"と耳をつんざく声をあげる。


[グオオオオッ!!]

「ローデンさん、あれって…!」

「っ、…セント、大王イカ!?」


 そのイカは、本来ならこの辺りの海には出現しないはずのイカだった。


 "セント大王イカ"。北の国と西の国を繋ぐ海峡にしか現れないとされる巨大なイカ。どうしてそれがここに…?


「皆さん避難を! 救命ボートがありますので此方に!!」


 甲板にやって来た船員が乗客の避難を誘導する。声に従って甲板に居た人たちは、私たちを残して次々と彼のもとへ慌てて足を動かした。


[グオオオオッ!]

「おい! お前の管轄ここじゃないやろ! 出てくるとこ間違ってんで!!」

「ちょ、ちょっとこれ、私たちも避難した方がいいのではなくて!?」

[いや、もう遅い。見てみろ]

「?」


 シェルの言葉を聞いて、シャスティアは辺りを見渡す。見ると、いつの間にかセント大王イカの触手が私たちを囲んでいた。触手から放たれる生臭い匂いが鼻を掠める。


「これは…!」

[どうやらこのイカの狙いは俺たちみたいだ]

「俺たち? どうして?」

[……]


 眉をひそめて、シェルはセント大王イカを睨み付ける。セント大王イカの両目は赤く光っていた。



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