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睡蓮の洞窟 1




 私たちの足元に突然現れた魔法陣。ローデンさん曰く、あれは"転送法陣(てんそうほうじん)"という魔法陣なんだそうです。


 現在、私たちが居るのは"睡蓮(すいれん)の洞窟"という場所。ここは、水を司る精霊・ウンディーネが住んでいると噂されている洞窟だった。辺りを見渡せば何処を見ても凸凹した石壁と大きな湖。湖に浮かぶ白い睡蓮の花がとても綺麗だ。そしてちょっと涼しい。


「ローデンさんは、以前にもここに来た事があるんですか?」


 洞窟の奥へと足を進めながら、前を歩くローデンさんに聞く。


「いんや。話に聞いてたってだけで、実際に来たんは初めてや。…ただ、ここに住む精霊にはしょっちゅう会うてたけどな」

「ここに住んでる精霊っていえば、…ウンディーネですね」

「せや。水の精霊ウンディーネ。けど、わいらは(あざな)の方で呼んでたな」

「あざな…?」

「簡単に言うと別名やな。ウンディーネなんて大層な名前やと色々面倒やから」

「別名って、自分で付けたのか?」

「いんや。わいの友達が付けたんや」

「ふーん」

「…で、今からそのウンディーネに会いに行くんだよな?」

「せや。この洞窟には出口もなければ入り口もない。だから、ウンディーネに頼んで、出口を作ってもらう必要があるんや」


 魔法陣によってこの場所に転送されてすぐ、私たちがまず最初にやった事は、お互いの無事の確認と出口の捜索だった。


 しかし、いくら探してもこの洞窟には出口なんてものはなく、どうしようかと思っていたところ、ローデンさんから「奥に居るウンディーネに会いに行こう」との言葉で、今現在私たちはこうして歩いている。


「ここや」


 洞窟の最奥。辿り着いた場所には巨大な扉があった。扉には魔法陣が刻まれている。


 この扉の奥に、ウンディーネが居るのだろうか。


「……!」


 扉に近付くと、手首に嵌めていた腕輪が光る。


 腕輪の光と魔法陣が反応し合い、ゆっくりと扉が開いた。完全に扉が開くと、中の様子がはっきりと見える。


「「……」」


 扉を超えて、辺りを見渡す。


 ここにもたくさんの睡蓮の花と湖があった。おそらくだけれど、天井付近から流れる滝の水が洞窟内全体の湖を作っているのだろう。


「綺麗な場所……」

「…………」


 しゃがみこんで、流れてくる睡蓮の花を見つめる。満開に咲いているものから咲きかけのものまで様々だ。


「アメリアちゃん、こっち来てみ」

「?」


 呼ばれて、私とアイシクルはローデンさんに近付く。彼の傍には台座があった。台座の上には藍色の球が少しだけ浮いた状態で置かれていて、私はそれを見て首を傾げる。


 球は、キラキラと輝いていた。


「なんだこれ?」

「これが水の精霊や」

「…え? この球が?」

「球やない。これは"精神鏡(せいしんきょう)"。簡単に言うと、精霊の魂みたいなもんや」


 精霊の魂……。


(きょう)がまだこの状態っちゅー事は、まだリヴィスは眠りこけてるんやな。……起こすんは忍びないけど、緊急事態やから、まぁ、許してくれるやろ」


 言いながら、ローデンさんは首の後ろに手を置いて眉を下げる。


「アメリアちゃん、ちょいとこの鏡に触れてみてくれんか?」

「え、私がですか?」

「わいが触ってもええけど、この場合はアメリアちゃんが適任なんよ」

「……」


 適任って、どういう意味だろうか。


 頭の上に"?"を浮かべて、言われた通りに球(精神鏡)に触れる。すると次の瞬間、腕輪と鏡が同時に光を放った。


「な、何だ…!?」

「そのまんま。手動かさんといて」

「…っ、」


 だんだんと光が強くなり、目も当てられないくらいに(まばゆ)く光を放つそれにぎゅっと目を閉じる。


 しばらくして恐る恐る目を開けると光は収まっていて、目の前には鏡…ではなく、足があった。ん? と、思いながら顔を上げていくと、そこには女の人の顔が。



[……]

「……あ、」



 女の人は私を見下ろしている。

 バッチリと目が合って、私は彼女を見て呆然とした。


 えと、ここには鏡があったはずでは…?


[ワタシを起こしたのは、貴女ですか?]

「……えっ、?」


 女の人が聞いてくる。


 腰まで伸びた藍色の髪がゆらゆらと揺れていて、水色を基調とした衣服は"着ている"というより"張り付いてる"ような感じに見えた。肌も、私たちと同じ肌色だけれど所々透けている。


「あ、と、えっと…、お、お休み中だったのならごめんなさい。その、私たちは」

[…。そちらに居るのは?]

「"こっちでは"初めましてやな。わいはローデン。よろしゅう」

[…、なるほど。"時の番人"ですか。随分と久しぶりな気がしますね]

「そうか? わいの感覚では、姉ちゃんと会うのはついこないだぶりなんやが」

「…?」


 随分とフレンドリーなローデンさん。何の話をしているのか。


 女の人は、ローデンさんの言葉を聞いて息を吐く。


[ワタシを起こしたのは貴女たちですか? 何故?]

「あー、…実はな」


 かくかくしかじか。


「っちゅー訳で、帰りの魔法陣を作ってもらいたいんや」

[……そうですか]


 話を聞いて、女の人は頷く。


[迷い込んだのは、貴女たちと…その青年だけですか?]

「?」

「そうや」

[……]

「…? どうしたん?」

[……、いえ。何でもありません]


 ……?


  今、アイシクルを睨み付けた?


「…ふむ。まぁ、ええか。それじゃあ、早速頼むわ」

[わかりました。…、…いえ。少しお待ちください]

「?」

「どないしたん?」

[…気配がします。悪しきものがこの近くに]

「…何やと?」


 女の人は言う。彼女の言葉を聞いて、ローデンさんは眉をひそめて辺りを見渡した。悪しきものってなんだろう。思っていると、私たちの背後で聞き慣れない音が響き渡る。


 振り向くと、そこには不思議な生き物が数匹。それらは牙を剥き出しにして私たちをじっと睨み付けていた。



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