異世界に転生してしまいました
「アメリアー!いつまで寝てるの!早く起きなさい!」
「んー…。……、っ!?」
ガバッと勢いよく飛び起きる。
キョロキョロと周りを確認して近くに誰も居ないという事がわかれば、私は大きな溜め息を吐いて肩を落とした。…良かった、夢だった。
「……はぁ」
嫌にはっきりとしていてリアルな夢だった。
街が燃えていて。逃げ惑う人たちが居て。その中心に私と"彼"が居て。"彼"はそれを見て笑っていた。
「…………、」
額に汗が浮かんでいる。
あの夢は、一体何だったのだろう。
「アメリアー! 起きてるのー!?」
「! はーい! 今起きましたー!」
お母様の声にハッとする。汗を拭いながら慌ててベッドから降りて、扉を開けてお母様の声に応えた。私の声が聞こえたようで、それ以降はお母様の声はしなくなる。
「はぁ。最悪な目覚めだ……」
扉を閉めて項垂れる。
私の名前はアメリア・ラインハーツ。
奇妙な偶然が重なった前世での奇妙な事故によって、この世界"マジュリア・ルーア"に転生してしまった今年17歳になったばかりの女の子だ。
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テーブルの上に置いてあった鏡でパッと寝癖の付いた朱色の髪を整え、一階のリビングへ行く。そこでは私の今世のお母様であるシュリア・ラインハーツさんが朝食のパンを焼いていた。
「アメリア!今何時だと思ってるの?早くしないと遅刻するでしょう?」
「あぅ…。ご、ごめんなさいお母様。明日からは気を付けるから」
「…はぁ。貴女それ昨日も言ってなかった?」
「き、気のせいだよ。気のせい」
眉を下げて笑いながら、怒鳴るお母様に謝る。
白いテーブルの上に置かれた焼きたてのパンと目玉焼きを口いっぱいに頬張り、手のひらをくるんと回して今日の魔導新聞を出現させた。
「アメリア。はいこれお弁当」
「ありがとうお母様」
もぐもぐと目玉焼きとベーコンを食べて、受け取ったお弁当を鞄の中に詰める。
新聞を読みながら玄関口まで歩いていき、サッと読み終えたそれを靴箱の上に乱雑に置いたら私はお母様に"いってきます"と振り返って伝えて外に出た。
今回も遅刻をしないようにしたいのだけれど、それは時間的にもう無理かもしれない。
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この世界について、少しだけ説明します。
この世界の名前は"マジュリア・ルーア"。この世界は剣と魔法と魔物が至るところに存在している世界で、この世界には東西南北それぞれに海を挟んで一つずつ国が存在している。
私が住んでいるのは北の国"フラウィ"という緑いっぱいの自然と暖かな気候が特徴的なおだやかな国で、私はそんな世界に転生してしまった可哀想な女の子だった。
しかも私はこの世界では"救世主みたいな存在"らしい。何故そんな事を知っているのか。それは教えて貰ったからだ。私…、ううん。アメリア・ラインハーツさんご本人に。
いや、アメリアは私なんだけれどこれは本当の話。今の私のこの現状を教えてくれたのはアメリアさん自身なのだ。
そして、アメリアさんは言っていた。
「私はアメリア。今から死んで貴女に生まれ変わる。だから貴女も死んで私に生まれ変わって。そして、私の代わりに世界を救いなさい」
って。
そうして私は彼女の不思議な力によって強引に殺されてしまい、身も心もアメリアとなってしまったのだ。
どういう事なんだろう…。って転生した直後は思ったよ。
転生したショックなのか、前世での記憶は名前以外すべて綺麗さっぱりわすれてしまったけれど、転生してしまったのは仕方がないので、私はこの世界で"アメリア・ラインハーツ"としての第二の人生を歩んでいた。
うん。なんていう異世界転生なんでしょう。
[アメリアさまー]
「ん?」
学校までの道のりを走り続ける。
するとそこで空から声が聞こえてきた。
[アメリアさまー、やっと見つけましたー]
足を止めて見上げると、空から羽の生えた男の子がパタパタと飛んでくる。
私の顔を見て、彼は表情を緩ませてにっこりと笑った。
彼の名前はプクプ・プーク。妖精族の男の子で手のひらサイズの身長しかない緑の髪を持った可愛い男の子だ。最初に彼の名前を呼んだ時に舌を噛んでしまったのは良い思い出。
「おはようプクプ。どうしたの?」
[おはようございますアメリアさま。お迎えに来ました]
「お迎え?」
[はい。アメリアさまがなかなか来ないから迎えに行けって言われたんです]
「? 迎えに行けって、誰に?」
[そんなの決まってるじゃないですか。アイシクルさまですよ]
「……あー。なるほど」
プクプのの口から出た名前に肩を落とす。
パッと自然に頭に浮かんだ顔に、私は眉尻を下げた。
アイシクル・ディー。
彼は両親が決めた将来の私の結婚相手…謂わば"婚約者"という立ち位置の男の子なのだけれど私は彼が凄く苦手だった。
アイシクルは由緒正しき貴族の名家・ディー家の二番目のご子息で、頭脳明晰、学校の女の子たちにも凄く人気があり、剣と魔法の腕も上級並み。黙っていれば私も彼は格好いい男の子だと思うよ。黙っていればね。
[アイシクルさまはアメリアさまの事を心配してましたよ。なかなか来ないって]
「心配なんてしてないと思う」
きっと今頃からかう相手が居なくて暇を持て余してますよ。そう思って小さく息を吐く。
するとそこで突然、大きな爆発音が聞こえてきた。
なかなかの大きな音に吃驚して何事かと音のした方へ顔を向けると、遠くで黒々とした煙が空に向かって昇っていくのが見えた。
[な、なんですかあの煙!? 森の方から上がってます!!]
音が聞こえた方向には森がある。この国の名前と同じ名前が付けられた"フラウィの森"という森だ。私は普段からあの森には出入りしていて、ちょっとした遊び場として利用していた。
「………!」
森を見つめて、ハッとする。
ちょっと待って。確かあの方向には…。
「プクプは先に学校に行ってて!」
[え? あ、アメリアさま!]
眉をひそめて、爆発した場所に向かって走り出す。そんな私を見てプクプは目を見開いて大きな声で私の名前を叫んだ。