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「また三年生が来ているぞ」
教室の入り口に女子生徒が集まるようになった。卒業が近づいた三年の女子生徒だ。中を覗いてはいるが何をするということもない。
「何をしたいんだろうな」
ベンヤミンにも見当がつかないらしい。
「レオ様の見納めに来ているのではないですか?」
『なんだよそれ』
「案外トルストイの言うことも間違ってないかもしれませんよ ここを出たらレオ様にお会いする機会はうんと減りますから」
『まさか それはないだろう』
そこまで珍しい存在でもあるまい。
「マルクスは何か知っているんじゃないのか?姉がいるだろう」
ええ まぁ・・・とマルクスは言葉を濁す。
「えー!解ってるなら教えてくれよ 毎日あれでは廊下にも出にくくて困るじゃないか」
『マルクス 知っているなら教えてくれ』
「恐らくレオ様をお誘いに来ているのだと思います」
「誘い?何の誘いだ?」
「あ・・・もしかして・・・」
『舞踏会・・・か?』
「そうです・・・あの・・・うちの姉もお誘いしたいと大それたことを言っていましたから・・・」
「「・・・」」
「僕が同じクラスだから行きにくいとは言ってましたので良かったですが」
卒業生のための舞踏会だ。学園内のホールでの催しだが、女子生徒はそこで初めてパリュールを身に着け、裾の長いドレスを纏う。参加できるのは卒業生と、そのパートナーに指名された在校生のみだ。
『全ての女子生徒が私を誘いに来ているわけではないだろうが 私は今年参加するつもりはないよ』
申し訳ないが、ファーストダンスの相手はもう決めている。このくらいの我儘は通させてほしい。
「そうなのですか 残念がるだろうなぁ 姉曰く他の女子生徒はライバルではないそうなのです 誰かがお誘いできれば舞踏会でレオ様のお姿が拝見できるからと・・・」
「それはそれで なんというか平和的でいいな・・・」
『ベンヤミン その[平和的]の使い方はなんとなく間違っている気がするぞ』
「なんでだよ レオの隣の座をかけて争いが始まるよりいいだろう」
『・・・』
『ともかく私は自分の卒業まで参加するつもりはない』
「そう書いて掲示板に貼るのが一番手っ取り早そうだな」
『絶対に止めろ』
数日後には入り口を塞ぐ女子生徒はいなくなった。マルクスとその姉には感謝しかない。
 




