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翌朝五時。
昨夜侍従から聞かされたときは、あまりに興奮して[今夜は眠れないかも!]と意気込んだが、実際にはベッドに横になった瞬間眠りに落ちていたようだ。あれだけのことが起こった一日だ。この稚い身体を思えばよく持った方だったのかもしれない。
『おじゃまします・・・』
そう、早速今日から剣の鍛錬が始まるのだ。鍛錬の時間は五時半から六時半までの僅か一時間。少しの時間も無駄にはできないため、先に来て準備運動を済ませようと思ったわけだ。芽夏は寝起きがすこぶる良く、目覚めて三秒で全覚醒することが自慢だったが、そのスキルはこの身体になっても健在のようだ。高揚した気分を抑えつつ手足を解し始める。
鍛錬は騎士団の室内訓練場を借りて行う。冬の間は騎士たちも特別な雪中訓練時以外はこの訓練場を使うので、一日中熱気に溢れていると聞く。早朝と深夜を除いては。
中では既に数名のものが土煙を上げている。恐らく見習いか新人騎士だろう。新人の頃は朝か深夜かわからない時間から鍛錬したとヴィルホが言っていたことを思い出す。すごい体力だよ。
熱心に打ち合っているらしく、こちらへ気がつくものはいないことにほっとする。そのまま邪魔にならない位置で軽く走ることにした。
暫くの後、少しだけ息を切らせたヴィルホが入ってくる。
「殿下申し訳ありません お迎えに上がりましたら既にこちらだと聞きまして」
『師匠お早うございます!本日よりよろしくお願いいたします!』
ヴィルホの言葉を無視して深々と礼をする。
「殿下そのような・・・おやめください」
『ヴィルホ 私は父上に剣の稽古を願い出て そのために選ばれたのがヴィルホだ
教えを乞うのに頭を下げるのは当然だろう?』
「しかし・・・」
『さあ!この場所を使わせてもらえるのはたった一時間だ 早速お願いします 師匠!』
「不肖ながら私ヴィルホ=ダールイベック 本日より殿下の剣術指南役勤めさせていただきます」
「それと・・・どうか師匠だけはご勘弁くださいますよう」
『わかりました先生!』
斯くしてステファンマルク国第二騎士団小隊長との個人鍛錬が始まった。