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珍しくレオ様からお茶会のお誘いが届きました。
紹介したい方がおられるとのことで、場所も王宮の庭と書かれてありました。八月最後の日曜日、数日後に学園への入学を控えられたお忙しい時期です。この時期にご紹介いただく方とはいったいどなたなのでしょう。
「お前も聞いていないのか 誰なんだろうな?」
アレクシー兄様もどなたかご存じないようです。
「でも まーレオが直接送ってきたんだ 重要な人物には違いないだろう 俺も行くよ」
「そうですね」
短い夏も盛りを過ぎ、吹く風に秋の気配が感じられる日曜の午後、兄様と私は王宮へ参りました。
お庭へと案内されると、そこではレオ様と長身の男性が楽しそうに談笑しておられます。
こちらへ気がついたレオ様が会話を止めて笑顔で近づいてこられました。えっあの男性は・・・
『アレクシー スイーリよく来てくれたね
紹介するよ 私の従兄のフェデリーコだ
フレッド 友人のダールイベック兄妹 アレクシーとスイーリだ』
レオ様のお従兄。国王陛下にご兄弟はいらっしゃいませんから、フェデリーコ様は王妃殿下の甥御様ということになります。
「はじめまして フェデリーコと言います フレッドと呼んでください」
そうご挨拶いただいたフェデリーコ様は何やらレオ様に囁かれました。なんとおっしゃっているのかわからないわ。レオ様のお返事も全くわかりません。でも私の名前が聞こえたような・・・
少しお顔を赤くしたレオ様をニヤリと一瞥し、フェデリーコ様は私に
「あなたがレオの恋人だね」
「はっ!はじめまして スイーリ=ダールイベックと申します」
「アレクシー よろしく!」
「よろしくお願いいたします フェデリーコ殿下」
フェデリーコ様は兄様と握手を交わされました。
そこへデニス様、ベンヤミン様、ソフィア様~皆さまが揃われました。
『改めて紹介する フェデリーコ=パルード 私の従兄だ
九月から二年間の予定で我が国へ留学に来た 専攻はチェロ 芸術科への留学だ 歳は来月で十九になる』
続いてレオ様が私たちをフェデリーコ様へご紹介してくださいます。
フェデリーコ殿下・・・私は彼を知っています。
長身痩躯、癖の強い黒髪を肩先まで伸ばした野性味あふれる容貌とは裏腹に、音楽を愛する温厚なお人柄で、仔犬のような癒し系キャラ―だったはずです。でもおかしいわ、フレッドはレオ様が三年生つまりゲームの開始時期に合わせて留学してくるはず・・・ここでも予想外の改変が起こったということなのですね。
ふと視線を上げるとレオ様が私を見ていました。
さりげなくそばに寄られて、耳元でそっと尋ねられました。
『フレッドを知っていた?』
私は小さく頷き小声で「はい」とだけお答えしました。
『そうか』
見上げたお顔には挑むような笑みが。
『フレッドはステファンマルク語が話せるから 皆気楽に話しかけてやってくれ』
「ああレオ 私は難しい言葉はまだわからないよ」
『問題ないと思うが もし困ることがあれば私を呼んでくれ』
『芸術科との交流がメインになるだろうが 時々私たちの茶会へ招いてもいいかな』
「もちろんだよーフェデリーコ殿下 パルードのお話しを聞かせていただけませんか?」
「私もお聞きしたいです フェデリーコ殿下」
フェデリーコ様はイクセル様やアンナ様と小さなテーブルを囲んでお話しを始められました。
色とりどりの派手な花柄のブラウスをお召のフェデリーコ様、黒髪に琥珀色の瞳をお持ちで、レオ様とは全く雰囲気が違います。お従兄だと言われても信じられないほどだわ。パルード王家は黒髪の方が多いのかしら、王妃様のお兄様が王太子殿下でフェデリーコ様のお父様でしたわね。そうして拝見いたしますと、どことなく目元が王妃様に似ているかもしれません。
『随分とフレッドが気になるみたいだね』
はい、とアイスティーを渡してくださりながらレオ様が少し意地悪そうな笑顔で囁きました。
「ちが・・・!ありがとうございます 違います私は・・・」
『冗談 気にしてないよ』
「この時期にお会いするとは思いませんでしたので」
『・・・そうか』
「レオ―」アイスティーを片手にベンヤミン様、そしてヘルミ様も同じテーブルにいらっしゃいました。
「代表の挨拶はもう完成したか?」
『今はそういうことを忘れるための場だ』
「・・・頑張れよ」
「ご挨拶 ですか?」
「あ スイーリは聞いてなかったのか レオは主席入学だから新入生代表の挨拶をするんだよ」
「まぁ!」
聞きたい!聞きたいわ!どうしてビデオがないのよ!どうして私は一つ年下なの?
『三人同じクラスでよかったな』
「私Aクラスに残れるよう頑張りますわ スイーリ様 スイーリ様がご入学されるまでレオ様のことは私がしっかりお守りいたしますからご安心してくださいね」
「ヘルミ様~」
ありがとうございます~!と抱きついてしまいたいところですが、ここは抑えてあくまでも令嬢らしく振舞わなくては。
『あのねヘルミ・・・ 前にも言ったけれどそんな心配は不要だよ 令嬢に守ってもらうなどと』
「いいえ!」
レオ様を遮りヘルミ様が力強く拳を握って見せます。
「以前も申し上げました通り 学園は令嬢にとっての戦場なのです レオ様に万一のことがあれば私スイーリ様に顔向けできなくなりますわ」
「ヘルミ様 なんて力強いお言葉かしら よろしくお願いいたします」
「『・・・・・』」
『ベンヤミン 私は何と言えばいい?』
「はい もちろんベンヤミン様のこともお守りいたします ソフィア様ともしっかり話し合いましたから」
「あ・・・そうなの・・・」
「お二人はご安心して学業に専念してくださいませ」
「はい・・・」
『ありがとうございます・・・』
 




