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学園編が始まります。
試験の結果が出た。入学試験だ。
15の秋には入学だ、などと当然のように話していたが、全てはこの試験の結果次第だ。
入り口で偶然一緒になったヘルミと結果が貼り出されている掲示板へ向かう。
ー何も1番を用意してくれなくてもよかったのに。
私の試験番号は1番だった。探す手間が省けるのはよいが、入学前から特別な扱いを受けていることには少々思うところがあった。
それにしても、随分と視線を感じるな。髪型のせいなのか。入学以降に切るべきだったかもしれないな。まあでも既に短くしてしまったのだし、一度決めたことは早く済ませたい方だ。実際気に入っているんだから問題はないな。言いたいやつには言わせておけばいい。
「私、随分と恨まれてしまったようですわ」
隣を歩いているヘルミが、言葉とは裏腹にニヤリと笑って呟く。
『物騒だな、何をしたんだ?』
「レオ様、先程から視線を感じませんか?」
ヘルミも感じていたんだ。周囲を歩いているのは同じ試験を受けたものらのはずだよな?
『ああ、見られているな』
「全てレオ様とお近づきになりたいご令嬢ですわ」
そんなことはないだろう。周囲には同じくらいの数の男も歩いていることだし。てっきり冗談だと思い、軽く返事を返した。
『まさか』
「そのまさかですわ。間違いありません」
ヘルミはやけに自信たっぷりに言い切った。どう返したらいいのかうまい言葉が見当たらない。
「レオ様の身に危険が及ばぬよう、私もしっかりしなければ」
ヘルミは右手をギュッと握ってみせた。私に向かってと言うよりは、1人決意を固めたような表情だ。それを見た私の心情をどうか理解してほしい。
『あのねヘルミ、それは普通令嬢が言う台詞ではないよ。それにここは学びの場だ。危険はそうそうないさ』
極めて常識的なことを言ったと思う。例えばアレクシーやデニスがそれを言われたとしても、同じように答えると思うんだ。だがヘルミの考えは揺るがなかった。
「お言葉ですが甘いですわレオ様。ここは令嬢にとっては戦場、戦いの場なのです」
初めて聞いた。
『ま、まずは発表を見るとしようか』
ここは我が国に8校ある王立学園の総本山とでも言うべき本校だ。全ての学園にある3年制の本科に加え、上級コースに当たる専科が3つある。騎士科、芸術科、政治学科の3つだ。私たち本科の受験生に交じって専科の発表を見に来ている年長のものもちらほらと見かける。
専科は本科と違い、不合格者は原則出ない。ので発表を見に来る必要はないのだが、それでも気になるものは気になる、ということなのだろう。
そして本科の発表の一段下、赤い字で書かれたものは地方校への推薦者だ。
推薦と聞くと響きがよく聞こえるが、本校の学力水準には届かなかったものを指す。強行して入学することも可能だが進級できない可能性が高いらしい。
「合格していました」
ほっと安堵のため息をついたヘルミが、無事自分の番号を見つけたようだ。
『私も合格だ』
左上に[1]とあった。
「おめでとうございますレオ様」
『ヘルミもおめでとう、秋からは同級生だね』
こうして発表を確認して、改めて学生生活が始まることを実感した。
「はい、よろしくお願いいたします」
『よろしく』
そんな挨拶を交わしていたところに、後ろから近づいてくる足音が聞こえた。
「おーいたいた。2人一緒に来てたのか」
ベンヤミンだ。タイミングがいい。同じ時間に発表を見に来ていたんだな。
「ごきげんようベンヤミン様。入り口でご一緒いたしましたの」
「そうだったんだ、まずは2人ともおめでとう」
ベンヤミンには合格が前提だったらしい。結果を聞かれることもなく祝いの言葉が飛んできた。
「ベンヤミン様もおめでとうございます」
『おめでとう』
他の受験者たちから少し離れたところで立ち話を続ける。
「この後どうするんだ?」
『私は挨拶に行くよう言われているから、少しだけ顔を出してくる』
学園長に挨拶をしてくるように、と言われてきたのだ。
「そうか、ヘルミは?」
「邸へ戻るだけですわ」
じゃーさ!とベンヤミンが続けた。
「3人でどこか寄らないか。レオ待ってていい?」
『わかった、すぐ済ませてくる』
「お待ちしておりますわ」
2人は近くのベンチで待っていてもらうことにして、私は校舎の中へ入り、学園長室を目指した。相変わらず四方からの視線を感じる。まあ私服だしな、校舎の中だと目立つのは仕方ないよな。
ノックをする。中から扉が開いた。扉の先で学園長の秘書が慌てたように敬礼する。
「殿下ようこそおいでくださいました。お入りくださいませ」
学園長も慌てて立ち上がり駆け寄ってくる。
「殿下、わざわざお運びいただきありがとうございます」
扉を閉め、私も最敬礼をした。
『次年度よりお世話になります、レオ=ステファンマルクです。3年間よろしくお願い申し上げます』
すると2人がさらに慌て出した。なんでだろうな?今年私が試験を受けたことは当然知っているだろうに。
「殿下、よろしければお掛けください」
「私はお茶の準備を」
『失礼します』
学園長と向かい合い長椅子に座る。
『学園長、本日はご挨拶とお願いに参りました』
挨拶のついでと言ってはなんだが、どうしても伝えておきたいこともあったんだ。
「何なりとお申し付けくださいませ」
学園長がゴクリと唾を飲みこんだ音が聞こえた。私の要望は決して難しいものではないから安心して聞いてほしい。
『希望は1つだけです。私の特別扱いはなしでお願いします』
「ーと・お っ し ゃ い ま す とー」
顔には明らかに[困惑]と書かれていた。文字が浮き出ているかのようだ。
『言葉通りです。敬称も不要です。名前でお呼びください』
『精一杯励むつもりではありますが 、及ばぬ時は公平に落第を付けてください』
少しの間沈黙が流れた。けれどほんの少しだけ。
「かしこまりました。全ての教員へ徹底させましょう」
ニコりと笑みを浮かべた学園長が、しっかりと約束してくれた。
『感謝いたします。本校生として最大限努力し、学ばせていただきます』
「ご入学を心よりお待ちしております 。もちろん全ての生徒に対してですよ」
『はい、ありがとうございます』
この言葉はありがたく受け取らせて頂こうと思う。
学園長の眼がふっと柔らかくなった。
「昔、陛下のクラスを受け持ったことがありました。あの頃の陛下にそっくりに成長なさいましたな」
『そうでしたか』
陛下はこの学園長から教えをいただいていたのか。今も教鞭をとっているのかはわからないが、父と同じ学び舎へ通うということが、少しこそばゆく感じた。
「長くここにおりますから 、親子二代でお世話させていただく生徒も多いのでございますよ」
そうなんだ。きっとノシュール公爵やダールイベック公爵らにも同じ思いを感じているんだろうな。
と、ここで現実に引き戻された。
「そうそう、入学式でのご挨拶の準備をお願いいたします。王子殿下への気遣いではありませんよ。主席入学者の義務です」
あー
『はい、謹んでお受けいたします』




