[71]
学園編が始まります。
試験の結果が出た。入学試験だ。
十五の秋には入学だ、などと当然のように話していたが、全てはこの試験の結果次第だ。
入り口で偶然一緒になったヘルミと結果が貼り出されている掲示板へ向かう。
(何も一番を用意してくれなくてもよかったのに・・・)
私の試験番号は一番だった。探す手間が省けるのはよいが、入学前から特別な扱いを受けていることには少々思うところがあった。
それにしても・・・随分と視線を感じるな。髪型のせいなのか。入学以降に切るべきだったかもしれないな。まあでも既に短くしてしまったのだし、一度決めたことは早く済ませたい方だ。実際気に入っているんだから問題はないな。言いたいやつには言わせておけばいい。
「私随分と恨まれてしまったようですわ」
ヘルミが言葉とは裏腹にニヤリと笑って呟く。
『物騒だな 何をしたんだ?』
「レオ様 先程から視線を感じませんか?」
『ああ 見られているな』
「全てレオ様とお近づきになりたいご令嬢ですわ」
『まさか』
「そのまさかですわ 間違いありません」
『・・・』
「レオ様の身に危険が及ばぬよう 私もしっかりしなければ」
『あのねヘルミ それは普通令嬢が言う台詞ではないよ それにここは学びの場だ 危険はそうそうないさ』
「お言葉ですが甘いですわレオ様 ここは令嬢にとっては戦場 戦いの場なのです」
初めて聞いた。
『ま まずは発表を見るとしようか』
ここは我が国に八校ある王立学園の総本山とでも言うべき本校だ。全ての学園にある三年制の本科に加え、上級コースに当たる専科が三つある。騎士科、芸術科、政治学科の三つだ。私たち本科の受験生に交じって専科の発表を見に来ている年長のものもちらほらと見かける。
専科は本科と違い、不合格者は原則出ない。ので発表を見に来る必要はないのだが、それでも気になるものは気になる、ということなのだろう。
そして本科の発表の一段下、赤い字で書かれたものは地方校への推薦者だ。
推薦と聞くと響きがよく聞こえるが、本校の学力水準には届かなかったものを指す。強行して入学することも可能だが進級できない可能性は高い。
「合格していました」
『私も合格だ』
「おめでとうございますレオ様」
『ヘルミもおめでとう 秋からは同級生だね』
「はい よろしくお願いいたします」
『よろしく』
「おーいたいた 二人一緒に来てたのか」
ベンヤミンが手を振りながら近づいてきた。
「ごきげんようベンヤミン様 入り口でご一緒いたしましたの」
「そうだったんだ まずは二人ともおめでとう」
「ベンヤミン様もおめでとうございます」
『おめでとう』
「この後どうするんだ?」
『私は挨拶に行くよう言われているから 少しだけ顔を出してくる』
「そうか ヘルミは?」
「邸へ戻るだけですわ」
「三人でどこか寄らないか レオ待ってていい?」
『わかった すぐ済ませてくる』
「お待ちしておりますわ」
校舎の中へ入り、学長室を目指す。相変わらず四方からの視線を感じる。まあ私服だしな、校舎の中だと目立つのは仕方ないよな。
ノックをする。中から扉が開いた。学長の秘書が慌てたように敬礼する。
「殿下ようこそおいでくださいました お入りくださいませ」
学長も慌てて立ち上がり駆け寄ってくる。
「殿下 わざわざお運びいただきありがとうございます」
扉を閉め、最敬礼をした。
『次年度よりお世話になります レオ=ステファンマルクです 三年間よろしくお願い申し上げます』
二人がさらに慌て出した。
「殿下 よろしければお掛けください」
「私はお茶の準備を」
『失礼します』
学長と向かい合い長椅子に座る。
『学長 本日はご挨拶とお願いに参りました』
「何なりとお申し付けくださいませ」
『希望は一つだけです 私の特別扱いはなしでお願いします』
「・・・と・お っ し ゃ い ま す と・・・」
顔には明らかに[困惑]と書かれていた。文字が浮き出ているかのようだ。
『言葉通りです 敬称も不要です 名前でお呼びください』
『精一杯励むつもりではありますが 及ばぬ時は公平に落第を付けてください』
「・・・・・
かしこまりました 全ての教員へ徹底させましょう」
『感謝いたします 本校生として最大限努力し 学ばせていただきます』
「ご入学を心よりお待ちしております もちろん全ての生徒に対してですよ」
『はい ありがとうございます』
学長の眼がふっと柔らかくなる。
「昔陛下のクラスを受け持ったことがありました あの頃の陛下にそっくりに成長なさいましたな」
『そうでしたか』
「長くここにおりますから 親子二代でお世話させていただく生徒も多いのでございますよ」
「そうそう 入学式でのご挨拶の準備をお願いいたします 王子殿下へのお願いではありませんよ 主席入学者の義務です」
『・・・謹んでお受けいたします』




