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ノシュール領で過ごす最後の一日、朝の身支度を終えたのを見計らったように手紙が届けられました。差出人はレオ様。


 愛するスイーリ

 スイーリが足りない。

 そばにいるのにもどかしい。

 王都に戻ったら一日私にくれないか。

 二人きりで出かけよう。



「お嬢様 お顔が真っ赤ですよ」

揶揄うようなカリーナの声で我に返りました。


「カリーナ!レオ様が王都に戻ったら二人きりで出かけようって」

「まあ!お嬢様これは念入りに準備をなさいませんと!私にお任せください!」

「ええカリーナお願いね 心強いわ」


「レオ様は私の都合の良い日をとおっしゃっているけれど レオ様の方が何倍もお忙しいわよね なんとお返事差し上げたらいいのかしら」


「アレクシー様にご相談なさってはいかがですか?ご朝食の後お寄りいただくようお伝えして参りましょうか」

「そうね・・・ええお願いするわ」

「かしこまりました お伝えして参ります」




----------

「なるほどな でもレオがお前に合わせると書いて寄こしたのだろう?その通りにしてやるのがいいと思うぜ」


朝食を済ませて今はアレクシー兄様と二人で向き合いお茶をいただいています。昨日からの吹雪が止まず、最後に予定していた観光も取り止めになったため、今日は一日ゆっくりと過ごすことになったのです。急遽午後からノシュール一門の皆様とお茶をご一緒することが決まりましたが、それまでは各自お部屋で思い思いに過ごしていることでしょう。


「そうは言いましても レオ様はとてもお忙しい身ですから・・・」


お茶をゴクっと飲み干し、足を組み替えた兄様は

「あのな・・・んー・・・・・」

珍しく言いよどんでいます。


「お前はさ レオのどこが好きなの?」

「えっ?!」

いきなりなんなのよ、いくら兄様でもそのような話聞かれたくはないわ。


「あーいや その・・・」

頭を乱暴に搔きむしっています。どうしたのかしら?本当にいつもの兄様らしくないわ。


「まず俺が話すわ

 あいつ・・・レオはさ 今とても悩んでいる・・・ような気がする」

「お悩みに?」

「ああ・・・俺なんかより視野も遥かに広いし 知識も豊富で忘れそうになるけれど あいつまだ十三なんだよ いや・・・もしかするとレオからしたらもう十三 なのかもしれないな・・・」


「・・・なあお前から見てレオは王子らしいと思うか?」

「もちろんですわ ご容姿も気品も行動力も判断力もお心遣いも全てが完璧でいらっしゃるわ」

「お おう突然早口になったな うんそうだな その通りだ 俺もそう思っている だけどな・・・」


あー!と言いながら再び頭を掻いています。

「上手く言えないんだけれど あいつはさ完璧すぎるんだよ いつだったか他の奴らも言っていただろう?」

「ええ 周年祭の晩餐のときかしら?」

「そうだなその時も言っていたな」


暫くの沈黙の後、再び兄様が話し出します。

「一国の王子というのも傍から見るほどいいものではないのかもしれないな・・・あいつは将来王になるしかないんだよ 他の何にもなれない」

「・・・・・・・」


「なんて俺が言っていいことじゃないな 忘れてくれ

 でもさ あいつきっとお前にはさ 王子のお相手―ではなくレオっていう一人の人間の恋人って言うのかな 対等でありたいんじゃないかなと思うんだ お前にとっては難しいことだろうと思うけどな」


あ・・・だから先程あのようなことを。

「兄様 私レオ様が王子様だからお慕いしていたわけではありませんわ」

「そうか」

「ええ レオ様だから大好きなんです」

「うん いつかレオにもそう伝えてやってくれ」


「で 最初の話に戻るけどな」

「わかりましたわ 王都に戻った二日後はいかがでしょう?翌日はレオ様もご報告などでお忙しいでしょうし 私も準備の時間が欲しいわ」

「うん それでいい 賢い妹で安心したよ レオのこと頼むな」

「・・・私で務まるのかしら」

「そこは自信持てよ レオが選んだんだお前を」

「ええ 私頑張るわ レオ様のお側にいて恥ずかしくない自分でいたいと思うわ」

「それでこそダールイベックだ」


じゃー、と立ち上がり兄様は思い出したように付け足しました。

「返事 早く書いてやれよ 俺はもう行くから」

「ええ ありがとうございましたアレクシー兄様」

「可愛い妹と未来の主君のためだからなー 俺に話せることならいつでも聞くよ」


兄様に相談してよかったわ。兄様は私の知らないレオ様のお顔をいくつもご存じなのでしょう。この地に来てからは毎朝手合わせもなさっていましたから、二人きりで深い話になることもあったのかもしれません。

私の知るゲームの中のレオ様は、絶対的な王者の風格を纏った強くて逞しくて思慮深く、それでいて優しく温かな完璧な王子様。お悩みになる様子など全く描かれていませんでした。生まれながらのカリスマとして存在していたのです。


今まで気がつこうともしなかったことが恥ずかしいわ。レオ様のあの揺るぎのない光り輝くオーラの陰には、想像もできないほどの努力があったのね。


レオ様のお悩みを私に計り知ることはできませんが、雲の上のように思っていたレオ様も努力を重ね、お悩むこともあると知って、ますます愛おしくなったわ。


「いけない ぼうっとしている場合ではなかったのだわ 早くお返事を認めないと」

「お嬢様 こちらに便箋をご用意しておりますよ」

「ありがとう すぐに書くわ」

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