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[407]spin-off

本科にとんでもない女が入学したらしい。

同じ敷地内にいても、ほぼ接触する機会のない本科と専科だが、不思議と噂は流れてくる。俺が知りたいのはヴェンラとレオ様の話だけ、他は全く興味なんて湧かねえってのに、聞こえてくるのは同じ女の話ばかりだ。つまらねえよ、そんな話俺の前ですんなってんだ。



「とうとう俺も見たよ 噂に違わず凄い令嬢だった」

「聞かせてくれよ どこで見たんだ?」

またくだらねえ噂話か。ほんとお貴族ってのは魚干してる浜辺の婆さんどもより噂好きだな。飯ぐらい静かに食えねえのかよ。

俺は聞きたくもねえ噂話を耳にしながら、今日も寮の食堂で晩飯を食っていた。



「今日は弦を買いに行く予定だったから 放課後八番街へ行くことにしていたんだよ それで馬車に向かってる途中でさ 王宮の馬車の前を通りかかったんだ その時だよ」

「早く続きを」


どいつもこいつも、わざと勿体つけて話すのはお貴族特有だな。さっさと用件だけ話しちまえってんだ。お前が何の用でどこへ出掛けたかなんてどうでもいいだろうがよ。



「うん レオ様が馬車に乗り込もうとした時 後ろから走って来て先に飛び乗ったんだよ 例の令嬢が」

「なんだって?まさかレオ様を押しのけたのか?」


「いや ああ少し説明が足りなかった レオ様がダールイベック令嬢に手を貸しておられたんだ 押しのけられたのは令嬢のほうさ」

「三人でご一緒に帰られたということか?」


「そんなわけないだろう 御者がすぐさまどかせていたよ 馬車が走り去った後も暫く騒ぎ立てていたな

 レオ様の真の恋人は私よ とか叫んでいたわ」

「妄想もそこまで行くと暴力に近いな」


「見た目はそれほど悪くないのにさ 色々と残念な子だよ」

「そうなのか?」


「ああ 顔はよく見てないけど ピンク色の髪が可愛くてさ」

「ピンクか それは珍しいな」


それまで辛抱強く、こいつの耳障りで要領の悪い下手な説明を聞き捨てていたが、最後の一言だけが引っかかった。

ピンク色の髪だって?気がつくと俺は立ち上がって、話を続けているやつらの前に走り寄っていた。


「いきなり申し訳ありません お話しが聞こえてしまいまして」


「ビョルケイ先輩 構いませんよ こちらでご一緒しませんか?」


なんだ?こいつ俺のこと知ってたのか。しかも俺より年下のようだな。

「ありがとうございます お言葉に甘えてご一緒させて頂きます」


「敬語は止めて下さい 俺達の方が後輩なんですから」

「すみません この方が話しやすくて ご迷惑でなければこのまま話をさせて下さい」

俺は四年の間、気が弱く真面目なペットリィを演じてきた。今更それを変えるつもりはない。



「わかりました

 ビョルケイ先輩も新入生の令嬢に興味が?」

「ああ・・・興味と言えばそうなりますが少し気になったもので その髪色が・・・」


「ええ 珍しいですよねピンク色をしていました」

「もしかしてふわふわ というかえっと・・・」

「そうです!雲のような綿のような 先輩もご覧になったことがあったのですね」



ヴェンラ、お前のことだったのか!

レオ様に付きまとっている、口が悪くて品もない新入生。後はなんと言っていた?クソ!興味がなくて聞き流していたぜ。


何故だ。レオ様はヴェンラを見ても何も感じなかったのか?運命の二人じゃないのかよ。結ばれるんだろ?結婚するんだろ?なんでだよ?ヴェンラがこんな風に噂されるなんておかしいだろう。

間違ってる、全て間違ってる。どうなってんだ!



「先輩 ビョルケイ先輩どうされましたか?」

ちっ、そうだこいつらのことを忘れてた。どう説明しようか。今ここで知らないふりをしても、いずれ俺達が兄妹だってことは広まるだろう。今ここで認めておいた方がいいんじゃねえか。



「妹です」

「えっ?」


「それは俺の妹だと思います 多分」

「え・・・あの新入生の令嬢が ですか?多分?と言うと?」


うるせえなあ、他人の事情に首突っ込むんじゃねえよ、何で今日初めて会ったお前らにそこまで話してやらなきゃならねえんだよ。これだから貴族は嫌いだってんだ。


「今年の春に父が迎え入れたのです 新たな妻と娘を

 一度だけ会いましたが その娘はピンクの髪をしていました ・・・そうか合格していたのか」

俺は合格すら知らされていなかった風を装う。


向かいの席に座ってる名も知らない野郎達は、気まずそうに眼を逸らした。なんだよ知りたくて聞いてきたんだろ?こうなったら徹底的に利用してやるからな、この話をさっさと広めろよ。


「知らなかった あの酷い噂の新入生がまさか俺の妹だったなんて なんて名前だっただろう・・・名前も憶えていないなんて兄とは言えないな そんな俺が諫めたところで聞いてくれるだろうか」

俺の独白は続く。しっかり聞いているだろうな?お前らの大好きな噂話のネタを提供してやってるんだ。せいぜい役に立てよ。


「すみません 俺は部屋に戻ります」

言うだけ言った。もうこいつらに用はない。

「あ はい おやすみなさいビョルケイ先輩」



部屋に戻り、すぐ便箋を取り出した。


ヴェンラ

噂を聞いた。どうなっているんだ?全部嘘だろう?お前はレオ様と結ばれる運命の女だ。王妃になるんだよな?困っていることがあるなら俺に相談しろ。力になってやる。



書き終えた便箋を封筒に入れて本棚へ向かう。

下から二段目の右から五冊目。その本を抜き取り手紙を挟んで元に戻す。あいつが来るのは明日だったよな、タイミングいいな。


週に二度、部屋の掃除にかこつけて手紙を運ばせている。この本がその隠し場所だ。いくら個室とは言っても何が起こるかわからないからな。不用心に机の上になんざに置かせたりはしないのさ。




数日後、本にヴェンラからの返事が挟んであった。


ペットリィ

みんなでたらめよ。全部あの女のせいなの。邪魔ったらないわ。そしてベンヤミンよ!いつもいつもいつもいつもレオ様の側にいて私の邪魔ばかりするのよ。早くレオ様の目を覚ましてあげなくちゃいけないわ。ペットリィ力になってくれるのよね。どうしたらいいのかさっさと教えてよ。



ベンヤミンて誰だ?ヴェンラの手紙からするとレオ様の取り巻きのことか?そんなもん気にする必要もねえだろう。いずれはヴェンラの取り巻きにもなるんだからよ。


それよりもやはりあの女か。ダールイベック。兄妹揃って鬱陶しいやつらだ。いっそ消しちまうか。レオ様も将軍の手前無下にも出来ずにいるのだろう。本当はヴェンラの手を取りたいのに我慢しているのかもしれない。あの女さえいなくなれば二人の間に障害は何もない。


でもそれはヴェンラの耳に入れる必要はない。俺がこっそり済ませてやればいいことだ。あいつは何も知らずにレオ様の胸に飛び込めばいいんだからよ。


まあそれはじっくり考えるとして、まずはヴェンラに返事だな。



ヴェンラ

お前の苦しみはよくわかった。もう少しの辛抱だ。俺が必ず解決してやる。

だが、お前も少しだけ変えてみるといい。お前は貴族令嬢なんだ。お貴族らしくきどった話し方をしてみろ。それと令嬢らしい恥じらいも見せてみるといいぜ。厚かましいダールイベックの女との違いをレオ様に見せつけてやるためにもな。


書いた手紙を挟んでから、ヴェンラの手紙に火をつける。ヴェンラにも読み終えたらすぐに燃やせと言ってある。くどいが誰にも見つかるわけにはいかねえからよ。



それから暫くヴェンラからの連絡はなかった。上手く行ったってことだな。烏女の目を盗んで逢瀬を楽しんでいることだろう。二人が上手くやってるなら俺から連絡することも何もない。


が、どうやらそれは違ったようだ。



ペットリィ

あの女のせいで寝込んでいたのよ。やっと手紙が書けるようになったわ。

前にあんた毒に詳しいって自慢してたわよね。安全な毒を用意してちょうだい。私が飲むんだから絶対安全なものにしてよ。これでやっとレオ様は私のものになるわ。



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