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[403]spin-off

嘘だろう?


王都まで発表を見に行くことは出来なかったが、絶対に合格している自信はあった。

今目の前にある封筒に入っていたのは、合格通知を始めとした諸々の手続き書類。そこには[E-11]と書いてあった。Eクラスー一番下じゃねぇか。

王都の学園は一クラスが二十名だ。[E-11]ってことは九十一番目。下から数えた方が早い。


ちくしょう。

自分より頭のいいやつに会ったことのなかった俺は、この結果が受け入れられなかった。

でも俺はガキの頃から優秀な教師に習ってきた貴族の野郎どもとは違う。自分の力だけで受かったんだ。同じ土俵に立てばどっちが上かはっきりするだろう。すぐに抜かしてやるよ、卒業するとき頂点に立っているのは俺だ。



〈おう坊主 今日は機嫌が悪いな〉

〈うるせえ 別に悪かねえよ それよりよ買ってきてくれたんだろ?早くくれよ〉

〈ああ感謝しろよ 俺達でも手に入れるのは簡単じゃないんだぜ〉

もったいつけやがって。金なら充分払ってやっただろ。持ってきてんならさっさと渡せよ。

俺は以前貰った本に載っていた物をいくつか買ってくるよう頼んでいた。最初は取り合ってくれなかったが、何度も粘り強く頼み込んで、ようやく首を縦に振らせたのだ。


〈ありがと〉

〈おうよ けど坊主よ こんなもん何に使うんだ?〉

〈まだ決まってない 絶対誰にも言うなよ 親父にもだ〉

〈言わねえよ 俺達は約束はしっかり守るんだ〉

〈うん 知ってる〉


〈おじさん達に会うのもこれが最後かな〉

なんだかんだ言いながらも俺はこいつらのことが好きだったから、別れの挨拶くらいはちゃんとしておこうと思った。

〈なんだよ?どっか行くのか?〉

〈王都へ行くんだ 学園に通うんだぜ〉

〈本当か?そいつはすげーや 坊主は頭がいいんだな〉

何故だかわからないが、親父に褒められた時よりもずっと嬉しかった。


〈パルード語の授業でも取ってやろうかな 俺がパルード語を話せるって知ったらどれだけ驚くか見ものだぜ〉

俺はそのつもりだったし、一人で身につけたと知ったらさぞかし驚いて、学園中の教師だのお貴族の生徒だのも俺のことを尊敬するだろうと思っていたのに、大笑いされた。

〈やめとけやめとけ 学園てのはお貴族様が通うところなんだろ?〉

〈なんでだよ 貴族の野郎どもを見返してやれるじゃねーか〉

〈俺達と話すような汚え言葉じゃよう お貴族様は泡吹いてひっくり返っちまうぜ〉

〈そうそう 坊主が恥かくだけだ 悪いことは言わない やめておけ〉


・・・ちっとも気がついていなかった。俺が知ってるパルード語は汚えのか?言われてみれば本で読む言葉とは、ちょっとばかし違うかも知れねえな。

〈お前らのせいじゃねーか ちくしょう〉

〈何言ってんだ 俺達のおかげで話せるようになったんだろが 感謝しろや〉

〈うるせえ 何が感謝だよ〉

悪態をつきながらも、段々それも悪くないなと思い始めていた。誰にも知られていない俺の武器。そうだ、パルード語は俺の秘密の武器だ。


〈へへへ そうだな感謝するよ〉

〈おう 素直なとこもあるじゃねえか〉





入学式の時、壇上で挨拶したやつの名前はしっかりと覚えた。六年の間そいつを倒すことだけを考えてきたからな。

アレクシー=ダールイベック。背はそれほど高くない。多分俺より低いだろう。黒髪にやけに整った顔が忌々しい。公爵家、王家の次に高い位の家柄。生まれた時から全てを持って生まれてきた男。何一つ不自由も苦労もしていないくせに。身分に甘えて暮らしていればよいものを主席なんか取りやがって。どれだけ奪えば気が済むんだ。俺は絶対認めない。いつか必ずお前を跪かせてやる。




----------

ようやく気がついた。わかったよ。俺は天才でもなんでもなかった。自分が特別な人間ではないと二年で気がつけただけ、俺はまだ見どころがあると思わねえか?


二年間寝る間も惜しんで努力したが、Dクラスに上がるのが精一杯だった。いやお貴族様だって俺より下に二十人いるんだぜ、学園に来るまでろくな勉強もしてこれなかった俺が、Dクラスに上がれただけでも立派だろう、誰か俺を褒めろよ。


ダールイベックの野郎はその間ずっと[A-1]だった。

あーもうご立派、ご立派、素晴らしいよ完敗だ。家柄が良くて、顔も頭も良くて、女にモテて。足りないものなんて一つもねーよな。もう張り合うのも馬鹿らしくなってきた。


そのダールイベックの野郎が、今日新入生と話しているところを見かけた。

一目でわかった。あれがレオ様だ。

男に対して美しいと思ったのはこれが初めてだ。ダールイベックの野郎が萎びた芋に見えるほど、レオ様の顔は美しく整っている。完璧だ。


学園には二百人近い男子学生がいるが、この中で王子は誰だ?と聞いたなら、百人が、いや千人が全員正しくレオ様を指すだろう。それくらい周囲を圧倒する力を放っていた。

うん、あれならば問題ない。ヴェンラと並ぶに相応しい。あの現実離れした美しい男に釣り合うのはヴェンラしかいない。



そうか。三年になってダールイベックの野郎がいきなり髪を短くしてきた理由がようやくわかった。漁師のような髪を初めて見た時は、俺のことを馬鹿にしているのかと腹が立ったが、レオ様の真似をしていただけなんだな。ふん、お前のは漁師と変わらんが、レオ様はどんな姿もお似合いになる。格だよ格。格が違いすぎるんだよ。身の程を知れよ。





俺が騎士科を目指していることが、よりにもよってダールイベックの耳に入ってしまった。それ以来やけに馴れ馴れしく話しかけてきやがる。俺はお前と仲良しこよしするつもりなんてねーんだよ。

「俺は無理だと思います どんなに努力してもDクラスが限界ですから」

さっさと立ち去りたくて、心にもない卑屈な言葉を口にしてみるも、俺の心情など気にかける必要もないお貴族様野郎は、神経を逆撫でするようなことを言い続ける。

「そんな理由で諦める必要ないぞ ランドルッツ卿はきっと推薦してくれるはずだ」


そんな理由?二年間俺がどれだけ努力したと思ってんだ?それをそんな理由だと?殴りかかりたい衝動を必死で抑える。

「Aクラスの方にはわからないでしょうね」

俺に許される精一杯の皮肉だ。学園内では平等などときれいごとを言ってはいても、それは建前。相手は公爵令息で俺は平民。ダールイベックが気分を害せば俺一人退学にすることなど容易いだろう。


「お前なぁー アレクシーがなんの努力もせず学年首位を取り続けているとでも思っているのか?」

うるせえよ名前も知らない取り巻き野郎が。


「いや いいんだ 呼び止めて悪かったな でも俺はペットリィと一緒に騎士科へ進みたいと思ってるぜ」

はいはい、美しいねえ。その疑うことを知らない清らかな心には涙が出るよ。

「ありがとうございますダールイベック様」

「アレクシーでいいぞ 同じ学園生なんだ そんなに気を使うな」

「そうは参りません 領主様のご令息なのですから」

お前と仲良くなるつもりはねえんだって!いい加減気づけよ鈍感野郎め。


「ペットリィはダールイベック領の出なのか?」

「はい 南端のしがない漁師町です」

俺のことなどこれっぽっちも興味がないくせに、なんだってんだ。お前の家の施しで生きているとでも言わせたいのか?俺の住んでたのはご領主様など一度も来たことがねえ田舎町だよ。それが知れて満足か?


「そうだったのか 俺は王都で育ったから領地のことに詳しくなくて恥ずかしいよ 今度ペットリィの故郷の話を聞かせてくれ」

「魚を獲って食い繋ぐだけのつまらない町です ダールイベック様をご満足させるような話ができるとも思えません」

「なかなか手厳しいな そんなに故郷が嫌いか?」

「いえ そう言う訳では・・・」


何故だ。咄嗟に嫌いだと言えなかった。あんな魚くせえ町、卒業したら二度と戻るつもりはないクソ田舎。

その時俺の心の中に浮かんでいたのは、真っ白なドレスに身を包み弾けるような笑顔を見せるヴェンラだった。

ヴェンラ、今どうしてる?会いたいよ。

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