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一体レオとスイーリはどうなってるんだ!身体の中見てみたいと何度も思ったよな。


事前に聞いていたけれどさ、メルトルッカの夏、あれは異様だ。俺はメルトルッカが世界一暑い国だと言われても信じるね。それくらい夏は暑くて長くて辛かった。夏で唯一マシなことと言えば夜があることだけだったぜ。


真夏の温室とはクラウド殿下も上手いこと言ったもんだ。

ロニーは入ったことあるよな?蒸し蒸しして息苦しくて、入った途端に逃げ出したくなるだろう?俺は元々温室があまり得意じゃないんだ。


「そうでしたね 夏になる前の温室にご案内したことがございましたが 最初に出てこられたのがノシュール様でした その時は飽きたからだと思っておりましたが なるほど湿度が苦手でいらっしゃいましたか」


そうだよ湿度!あれは人間をダメにするね。

ってことで、あんな状況でもピンピンしてたレオとスイーリは人間じゃないな。


『無茶苦茶言うな』



けどさ、二人が元気だったことは確かだろう?

最初の頃はレオも口数が減って、バテてるみたいだったのにあっという間に順応しちまってさ。一体全体どうなってるんだよ。騎士ですらへとへとに弱ってたじゃないか。


『知らん 慣れたものは慣れたとしか』


って具合でさ、何度聞いても「知らん わからん」だもんな。

真夏の早朝に涼しそうな顔してレオが走っているのを、恨めしそうに見ていた騎士の顔、俺絶対忘れないわ。


『その時間によく起きていたな ベンヤミンは朝が苦手じゃなかったか?』


気がつくのそこじゃないだろう!俺は寝苦しくて目が覚めてたんだよ。まあおかげで朝にしか来ない鳥も見れたけれどな。


『よかったじゃないか』



もうレオは話に加わらないでくれる?ねえロニー聞いて。

「はい 大変興味深く聞いておりますよ」


ステファンマルクだとさ、夏の休暇は節目みたいなものでさ、嬉しいとか待ち遠しいとか言った感情よりも、次の段階へ進む準備期間みたいな意味合いもあるよな。けどさ、メルトルッカの休暇は心底待ち遠しいんだよ。指折り数えて休みを待つなんて経験初めてしたぜ。


「休暇には旅行にお出かけになりましたものね」


うん、メルトルッカにも少しはマシな地域があってさ、避暑地ってやつ?夏はそこに行ってたんだ。暑いには違いないけど、朝晩はぐっと涼しくて過ごしやすかったなー。


最初の年は王家の避暑地に連れて行ってもらってさ、そこで半月くらい過ごしたんだ。王宮と変わらない豪奢なところでさ。


『すぐに飽きたな』


もーレオはすぐそういうこと言うから!


『お前も退屈そうにしていたじゃないか』


退屈ってほどではなかったけどさ、まあ王宮から離れた気はあまりしなかったかな。それでせっかくだからメルトルッカを見て回りたいって言うレオと残りの休暇は旅して回ったってわけ。

あっロニー、なに笑ってるんだよ。いや隠してもわかるよ?今笑ってたよな?



「いえ失礼いたしました」


メルトルッカではパンを食える場所が意外に少なかった。特に旅行中はまず見かけなかったな。レオは米が合うみたいでさ、毎日いろんな米料理を旨そうに食ってたっけ。


『ああ 旨かったな 初めて食べる料理も多かった』


ほんとレオはいろんなことに順応するのが早すぎて羨ましいぜ。どこででも生きていけそうだよな。

俺はパンが食いたかった!暑さと天秤にかけられさえしなければ年中王都に残っていたかったぜ。


『ベンヤミンがそこまでパン好きとは知らなかった 悪いことしたな』


いやいやそれはレオの責任じゃないし。それを言うなら俺自身も知らなかったんだよ。なくなって初めて気がつくってやつ?

それにさ、どの国も王都と地方では様々な違いがあるんだなって思い知らされたよ。そういうことだよな? ステファンマルクだってさ、レオの直轄地に行った時町の人々はパンを見たことすらなかったじゃないか。それはもちろん平民と貴族の違いもあるよ?でも王都なら下町にもパン屋はあるもんな。


『そうだな ベンヤミンの言いたいことはわかる』



「それでノシュール様 冬はいかがでしたか?」


おお!よく聞いてくれたな!冬はさ、いや冬も驚きなんだよ。何せ雪が降らないんだ。

降らないと聞いて知ってはいても、実際に雪のないクリスマスを迎えた朝は複雑な気持ちになったな。


「そうですね やはり私もピンときませんね」


だろう?年が明けて暫くして、ようやく雪が降るんだ。それもちらちらと降っては、あっという間に止んでしまう。あれを雪とは呼べないな。当然積もりもしないんだぜ。


「過ごしやすそうではありますね」


まあなー。それはそうなんだけれどさ。でも俺は多少の不便はあっても、冬は雪に閉ざされるこの国が好きだぜ。その分春が来た時の喜びはひとしおだからな。


けどさ、聞いてくれよロニー。そんな冬でもメルトルッカの人間は大騒ぎなんだぜ。毎日寒い寒いと駆けずり回ってさ、今度は温泉のある療養地に向かうんだ。メルトルッカの王族ってのは夏も冬も王都を留守にするんだぜ、びっくりだよな。



「確かにそれはステファンマルクとは大きく異なりますね」


『冬も夏と変わらず旅ができるのはよかったな』

それ!雪がないから夏と同じように馬車が走るからな。冬って感じはしないけどさ。冬の旅はよかったな。


「様々な地を見て回られたのですね」


そうなんだよ。メルトルッカはさ、面積で言うとダールイベックよりも小さいだろう?五回の休暇でだいたい一周できたんだぜ。


「レノーイ様にはお会いできなかったようでございますね」


うん、レノーイ様からは何度かレオ宛に手紙も届いたそうだけど、俺達からは連絡のしようがなくてさ、旅先で偶然会えるかなーなんて考えたりもしたけれど、そう上手くはいかなかった。ロニー宛には連絡してきたのか?


「はい 先にレオ様から頂いていた内容と同じものでしたが 鳶尾宮に部屋をいただけることになったとご連絡いただきました いつお戻りいただいても大丈夫なように整えております」


そうだったんだな。レノーイ様がもう一度ステファンマルクにお戻りになるというのも驚きだったけれど、本当にレオのことを大事に思っておられるみたいだな。いつも息子のようだと言っておられたのも、案外本気だったんだろうなと思ったよ。

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