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〈ようこそレオ 皆さん この日をどれだけ心待ちにしていたか ようこそメルトルッカへ〉
水晶宮では大勢の使用人を従えたクラウドが出迎えに立っていた。
《出迎えありがとうクラウド 二年間世話になります》
スイーリ、ベンヤミン、ビル、と順番に挨拶を交わしていく。
〈最初に何人か紹介します〉
クラウドの背後に控えていた使用人のうち、数人を紹介された。
〈では早速部屋に案内させるよ 今日は陛下が皆さんを招待しているので応じてほしい 後で案内を送ります〉
《ありがたく招待に与ります》
従者や侍女、騎士に至るまで全てのものに案内がついた。
エディとシモン、そして専属の四人の騎士は案内を辞退してその場に残った。そして私のところに来た案内は―
〈行こうかレオ 案内するよ〉
まさか王族自らが案内に立つとは思っていなかった。驚いていると私以上に困惑した顔がそこかしこに見える。
〈この宮をね 私が直接紹介したかったんだよ さあついて来てください〉
メルトルッカの強い日差しがキラキラと反射する白亜の外観も充分美しいと思ったが、一歩中に入るとそれ以上の衝撃だった。
《素晴らしいな》
〈ありがとう レオはこの宮を気に入ると思っていたよ〉
天井と壁が明るい空の色で塗られている。それだけではなく、天井も壁も聖堂のように精巧な彫刻がぎっしりと施されているのだ。彫刻の部分は真っ白に輝いていて、どこを見ても全くくすみがない。
見渡す限り青と白が続いている宮は、見ているだけで爽やかな風が通り抜けていくような感じがした。
広く取られた階段をスイーリ達が上っているのが見える。床と同じ鏡のように磨き抜かれた白い大理石の段が続いている。
〈二階へ行こうか レオの部屋は一番奥だよ〉
クラウドの案内で入った部屋は、間違いなくこの宮の主の部屋だ。
三方向に窓が取られていて、どの面からも美しい庭が見渡せる。
壁は一段階抑えた空色に塗られていた。例えるなら春の早朝のような色、かな。
素晴らしい部屋には違いないものの、少しだけ違和感も感じていた。何と言えばいいのだろう。内装と調度品が少しチグハグな気がしないわけでもないのだ。
〈どうかな?〉
ニコニコと笑みを浮かべて尋ねるクラウドに悟られぬよう、こちらも笑顔で答える。
《ここまで素晴らしい部屋を用意してもらえるとは 今とても驚いているよ ありがとうクラウド》
満足そうに頷くとクラウドは、部屋の説明を始めた。
〈メルトルッカの壁は彫刻を施すのが一般的だ 通路を見たよね あのように彫刻を際立たせるように色を塗るんだよ この部屋も元はそうだった〉
《そうか 確かに素晴らしい彫刻の数々に度肝を抜かれたよ まるで聖堂のようだと思ったんだ》
〈ありがとう嬉しいよ けれどね それではレオが落ち着かないのではないかと思って ここは塗らせたんだよ 彫刻を壊すことはできないからね〉
その後も次々と驚くことをクラウドは言ってのけた。
〈調度品はどうかな レオの部屋になるべく近いものを探してみたのだけれど〉
まさかと思ったことが事実だった。私のために家具も入れ替えていたのだ。
違和感の正体はそれだった。優美でいかにも女性のための部屋だと言うのに、置かれている椅子やら机やらは、どこかそれには物足りないのだ。
だが、それは女性のためならばと言う話。私にとっては申し分のないものだった。
〈この宮はね 長いこと使われていなかった けれど常に手入れはしていたから不自由はしないはずだよ 万が一不備が見つかった時は知らせてほしい すぐに直させるからね〉
《そこまで気を使ってくれるとは 感謝を通り越して申し訳ないくらいだ》
〈レオが気に入ってくれたのなら 私達はそれ以上に嬉しいよ
レオ 貴方はメルトルッカが初めて迎えるステファンマルクの貴人で 同時に初めての他国王家からの留学生だ 私達の喜びはこの部屋だけではとても表せないほどなのだよ〉
これほどステファンマルクに好意を寄せる国が他にあるだろうか。現在最も近しい親戚関係にあるパルードでもここまでではない気がする。
《ありがとうクラウド 二年間精一杯学ぶよ それが今私が一番やるべきことだと思う》
〈うん メルトルッカをレオ達により深く知ってもらえることが私達の喜びだ〉
〈足りないものがあればいつでも言ってほしい 物であれ人であれ 出来る限り力になるよ〉
《わかった 私にも力になれることがあれば話してほしい》
クラウドはニコりと笑って右手を差し出した。
〈うん それでは近いうちに宮に招待していいかな 式の前に妃を紹介したいんだ〉
《光栄だ 喜んで》




