表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
382/445

[382]

「あの後さ」


ベンヤミンの一生に一度のプロポーズを見届けた翌朝、「五分でいいからレオと二人で話させて?」とベンヤミンの執務室に引っ張り込まれた。当初から()()()()()()()()扱いの部屋のことだ。



無事プロポーズの言葉を引き出した後、二人とは別れた。

「ソフィアから聞いたよ すげーカッコ悪いとこ見せちまったな」


なんとも言えず、沈黙のまま次の言葉を待つ。

「あの後さ ソフィアとパッロヴァロアに行ったんだ」

『そうか』


パッロヴァロアはステファンマルクで一二を競う高級宝飾店で、私もここでスイーリにネックレスとイアリングを贈っている。



てっきりソフィアの気迫に圧されての衝動的な行動かと思いきや、その後に続くベンヤミンの言葉には驚かされた。


「俺さ 決めてたんだよ ソフィアに贈る石」

『うん?』


「レオのさ 婚約指輪を決めた理由がすごくいいなって思って 俺もダイヤモンド贈ろうと思ったんだよ それでパッロヴァロアに頼んでいたんだ 緑色のダイヤモンドを探してほしいってさ」


『そうだったのか?見つかりそうか?』

「あ 昨日ソフィアと見てきたよ 随分前に連絡貰っていたからな 俺は一度見てたんだ」

なんと視察に行く前に依頼をしていたらしい。ベンヤミンも準備は万全だったんだな。



「ソフィア泣いちまってさ むちゃくちゃ喜んでた それで全部種明かしされて謝られたってわけ」

『よかったな おめでとう』


「うん ありがとな レオとスイーリにも迷惑かけたな でさ

あの後やっぱ格好つかないなって思ってもう一回プロポーズしたよ 指輪はなかったけどな」

『そうか』



「ソフィアを送った帰り クルーム卿にも挨拶してきた 反対されると思ってたんだけどさ なんて言われたと思う?」

そうベンヤミンが言うということは、反対はされなかったのだろう。


返事に迷っていると、ベンヤミンが頭を掻きながら続けた。

「[遅い]だってさ」


ふっと力が抜けた。

「今日婚約契約書を交わしに行ってくる」

『急だな 早く上がっていいからな』

急なのは仕方ない。なにせ三日後には王都を離れるのだから。


「いや大丈夫 クルーム卿も父上も王宮にいるしさ」

『それもそうだな』



ベンヤミンが今一番気にかかっている婚約指輪は、今日ボレーリン邸にパッロヴァロアが出向いて、デザインを決めることになったそうだ。

「本当は自分で渡したいけど 俺がメルトルッカに行っている間につけていてもらいたいしさ 完成したらすぐ届けてほしいって頼んだよ」

『うん』


「でさ!ここからが本題」

まだ何か出てくるのか?既に本題らしき大ごとがいくつも飛び出したと思うのだが。そして五分はとうに過ぎた。


『うん?』

「昼の休憩時間に八番街行ってきていい?小さいものでいいんだ 今日渡せる指輪を探してきたい」


気持ちはわかるよベンヤミン。誰だって一度しかない婚約指輪を渡す瞬間を、自分以外の誰かに任せたくはないよな。体裁だけでいいから守りたいというベンヤミンを、友として応援しないわけにいかない。


今すぐ行けと言いたいけれど、この時間に開けている店はない。

『どの店に行くかは決めているのか?』

「クーレンミッキに行こうと思ってる あの店なら何かありそうだろう?」


確かにクーレンミッキならば完成したアクセサリーを数多く並べている。

『わかった 任せろ』


ベンヤミンの執務室を出て、そのまま自分の執務室に入る。後ろから慌てたベンヤミンもついて来ている。

「え?何?任せろって何?」


一枚の手紙を書き上げて封筒に収める。印を押してからエディに渡した。

『至急と伝えてほしい』


手紙を扱う部署は、王都内に限り鳶尾にも置かれた。それまで本宮を経由していて時間がかかっていたのが、これでかなり短縮されたのだ。急ぎだからと従者に直接走らせる必要もなくなった。


「かしこまりました 出して参ります」

エディが向かったところで、ベンヤミンがようやく近づいてきた。


『十一時に指輪を見に行くから緑色の石で用意しておくよう手紙を送った』

ベンヤミンは呆気に取られている。

ノシュールの名でも充分足りるだろうが、私の名も足せば多少の無理は叶うだろう。


『使えるものは使えよベンヤミン 私は結構使える方だと思うぞ』

「ありがとうレオ レオはこういうやり方しないと思っていたから驚いて」


普段はしないさ。

『遅れずに行けよ 向こうは夢中で用意して待っているだろうからな』

「うん 遠慮なくレオの助けを借りるよ」



~~~

『と言うことがあってね 二人は今日正式に婚約したようだよ』

サロンでコーヒーの時間を愉しんでいる時、スイーリに話して聞かせたところ彼女はぽとりと涙を落とした。


「よかったです ベンヤミン様が決心して下さって ソフィア様はずっと不安そうにしていらっしゃいましたから」

『そうだったんだね』


私はベンヤミンの立場しか知らなかった。あいつが悩み努力していることを知っていたし、それを単純に応援していた。でもソフィアは。


「私 メルトルッカからたくさんお手紙を出そうと思います ベンヤミン様ももちろんソフィア様に送るとは思いますが ご本人では書かないこともきっとありますもの」

『うん』



婚約の祝いに皆で集まる時間もないけれど、二人の関係が大きく進んだことを喜びたい。

スイーリを送り届ける馬車での話題も、二人のことを祝う会話が続いていた。


『明日と明後日は王宮に来る用事もなかったよな 時間があればソフィアとも会っておいで』

「はい 明日ソフィア様とお会いする約束なんです 今日のこともしっかり聞いてきますね」

『そうか 私からの祝いの言葉も伝えてくれる?』

「ええ もちろん!お任せくださいね」


ソフィアはダールイベックの港まで見送りに来ると言っていたから、直接話す機会もまだあるが、佳いことは少しでも早く伝えたい。



『残り二日しかないけれど ゆっくり過ごしてほしい 木曜の朝迎えに来るよ』

次に会うのは出発の日だ。

「ありがとうございます お待ちしておりますね レオ様も健やかにお過ごしください」

『うん おやすみスイーリ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ