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「お おい どうしちゃったんだよソフィア 何も二人の前でそんな―」

「お二人に聞いて頂くため 今お話ししているのです」




少し遡ろう。


今日は久しぶりのデートで、スイーリと八番街に来ていた。

視察から戻って以降スイーリと会うのは殆どが鳶尾宮だったから、こうして外でデートするのはクリスマスコンサートの日以来だと思う。


『どうした?なんだか楽しそうだね』

最初に入ったカフェで注文を終えると、スイーリはニコニコと笑い始めた。


「レオ様には打ち明けますね この後お願いがあるんです」


「~~~」

『わかった』


スイーリからの打明け話は思いもよらぬことだったけれど、それは納得だ。

『協力するよ』

「ふふ ドキドキしますね」


普段よりゆっくり目に紅茶を飲んで、時間をつぶす。

「そろそろ でしょうか」


スイーリの合図で店を出た。腕を取り、通りを歩く。

少し進むと向こうからベンヤミンとソフィアが歩いてくるのが見えた。

『すごいな 完璧なタイミングじゃないか』

「私もびっくりしました 完璧でしたね」

話に夢中になっている風を装いながら、ゆっくりと二人に向かって歩いていく。


お互いが気がつく距離まで近づくと、ベンヤミンが最初に声をかけてきた。

「おおー!二人も来てたんだな」


「まあ!ベンヤミン様 ソフィア様」

スイーリの下手な演技に笑いそうになりながら、なんとか()()を装う。


「レオ様 スイーリ様 お二人はどちらへ?」

「特に決めてはいないんです」

詳しい()()を聞いていないので、会話はスイーリに任せることにした。


「俺達は今から昼飯に―」

「ご一緒いたしませんか?」

被せるよう続けたソフィアに、ベンヤミンは少し驚いたような顔をしている。確かにいつものソフィアらしくはないからな。


「ええ是非!レオ様?」

両手をぱちんと合わせて見上げるスイーリに頷く。

『四人で入ろうか 店は決まっている?』


「おう 行こうぜ モンドリアンに行こうと思ってたんだ いい?」

『ああ 行こうか』


店に着くと、個室に案内された。きっとこれも予定通りなんだろうとニヤニヤしそうになるところを必死に抑える。


飯の間は当たり障りのない話題で盛り上がった。

「そうなんだ レオとスイーリは久々の八番街だったのか 邪魔して悪かったな」

「とんでもありません ご一緒できて嬉しかったのですよ」


スイーリ、やはりどこかぎこちないぞ。でもその抜群の笑顔があればベンヤミンが不審がることはないだろうけれど。



食後の紅茶と菓子が並べられたところでついに、部屋の中は私達四人だけになった。

ここから先、私とスイーリは傍観者だ。二人の邪魔にならぬよう、ただ自然に静かに。


難しいな・・・。束の間の静寂がとても居心地悪い。

そう思っているのは私だけか?


カップに手を伸ばそうか迷っていると、ようやくソフィアが口を開いた。


「ベンヤミン様は私と結婚なさるおつもりはあるのでしょうか?」



カップをひっくり返しそうになるほどベンヤミンが慌てている。飲んでいる時じゃなくてよかったな、ソフィアに感謝しろよ。


「ソ ソフィア?!」

「はい」


「いや その ソフィア?」

「はい お返事をお願いいたします」



ここで冒頭に続くわけだ。慌てたベンヤミンは目も当てられないほどの狼狽えぶりだ。


「いや それは・・・あの 俺だっ・・・レオ?」

『私に振るな』


顔を背けたまま突っぱねる。目を見たら笑ってしまいそうだったからだ。


長い沈黙が続く。ベンヤミンの気持ちはわかっているつもりだ。ソフィアは?この沈黙の間何を考えている?



「俺 三男だからさ


今の俺じゃ

ソフィアを幸せに

できない

思って


これでも頑張ってる

いつか爵位を貰ったら


結婚してほしい


そう言うつもりだった


今の俺じゃ



まだ」


ぽつり、またぽつりと、絞り出すように言葉を続けていくベンヤミンだったが、とうとうそれも止まってしまった。



「結婚して下さるおつもりはある ということですね」

普段通りのソフィアらしい穏やかな声だと言うのに、なんとも言えぬ迫力がある。


「うん でも―」

「でもは結構です」


完全に尻に敷かれている。そりゃソフィアにしてみれば用意周到でこの場を迎えたわけで、どう切り返すかいくつも考えてきたのだろうけれど、それにしてもベンヤミン、お前情けないぞ。



「ベンヤミン様が三男でいらっしゃることは 初めてお会いした日から存じ上げております」

「はい」


「そのことと私の幸せと どう関係が?」

「・・・」



「なんのお約束もないまま二年も待てと仰るのですか?」

ソフィアの声に少し涙が滲んでいる気がする。


ハッとしたベンヤミンが慌てて立ち上がった。

「ごめん 俺の考えが間違ってた そうだよな 二年あったら他のやつと結婚しちまうかもしれないんだ なんで待っててくれるて決めつけてたんだ俺

他のやつに渡したくない ダメだ!俺ソフィアと結婚したい 結婚してくれますか」


必死の形相のベンヤミンとは裏腹に、ソフィアはぽかんとしている。魂が抜け落ちてしまったみたいな顔だ。



二人の思っていることは、多分かみ合っていないのだろうけれど、ソフィアの望む言葉を引き出せたから、とりあえずは成功、なのか?


あまりの居心地の悪さに、助けを求めるような視線をスイーリに送る。スイーリも同じように困った笑顔を返してきた。そっと今すぐ立ち去りたいなスイーリ。



「プロポーズと

 プロポーズとお受け取りしてよろしいのですね?」


「うん あ いや!待って こんな格好悪いままじゃだめだ もう一回やり直しさせて?」

ストンと落ちるように椅子に座り直したベンヤミンが、手を振りながら言い訳する。


「いいえ もう聞いてしまいましたから こちらこそよろしくお願いいたします お受け致しますベンヤミン様」

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