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スイーリへ


今日も朝から雪だった。午後には薄い光も射していたが、この時間になってまた雪が降り始めている。こちらはそろそろ根雪になりそうだ。

王都も雪の日が増えていることだろう。風邪をひいていないか?


コルテラでの滞在も今日でちょうど一週間だ。

連日家具職人の工房を訪れているわけだけれど、彼らも仕事に一切の妥協がない。


これはグリコスの職人らから聞いた話だが、彼らの研修最初の課題は木材の見分け方だったそうだ。

コルテラでは木材を独自にランク付けしていて、それを徹底的に教えこまれたと言う。二つの木片を並べられたけれど、私には全くわからなかったよ。正解を聞いた後でもやはり違いはよくわからなかった。


今ではもちろん彼ら全員がその課題をクリアして家具作り、とりわけ彫刻を中心とした装飾を学んでいる。

上に木材がランク付けされていると書いたね。研修生は例外なく最上の素材から取り組むんだそうだ。


「失敗したら薪にすればいい 木材はどのような姿になっても利用できる」

とは言われても本来薪になどなるはずのないものだから、と皆大変緊張したと言っていたよ。


それは至極自然な感想だと思う。私には想像でしかないけれど、一番希少で価値のあると言われたものを、練習に使えと言われて喜々となれる人間はそう多くはないだろうから。


その緊張感が良い方向へ向かうのかは、職人の性格にもよるとは思う。が、他国へ技術を学びに行きたいと手を挙げたもの達だ。その辺りは心配なさそうだよ。


研修は早くても五年はかかるらしい。それでもコルテラで一から修行に就くものは、独り立ちするまでに十年近くかかるというから、彼らは既に優秀で有望な弟子、ということみたいだ。そうだよな、国では一人前の職人だったもの達だ。



なんだかジェネットへ送る手紙と同じような内容になってしまった。

ここからは、少しだけ別の話を書こう。


コルテラでは端材も大切に扱われている。最終的な行き先は薪なのかもしれないが、その他の行き先もあるんだ。加工に失敗した木材は、別の工房で役立っていた。


そこで美しい箱を紹介されたので、手紙と一緒に送るよ。コルテラの家具と同じ技術で磨かれて装飾されたものだ。他にもスプーンや器を作っている工房もあった。コルテラ産らしい光沢のある素晴らしい品だったよ。これらをマーケットで扱う予定だと言っていた。きっとコルテラの器を見たら、木工製品への印象が変わるはずだ。



**********

いくつものりんご農家の町を経て、ユハーナ本邸についた。

りんごはステファンマルクの幅広い地域で栽培されているが、その中でもコルテラからユハーナにかけては一大産地と言えるよな。


そんなわけで、ここ数日はりんごをよく食べている。

まずここらで飲み物と言ったらシードルだ。デザートのような甘いものから辛いもの、高級なものから手軽なものまで、驚くほど種類が豊富だ。


シードルの需要が高まりつつあって、今まで以上にいくつもの領地が手掛けるようになったと聞いてはいるが、ユハーナは別格と言えそうだ。


スイーリが好みそうな甘いシードルを持ち帰るよ。ブルーノにも何本か預けてみようと思ってる。新しい菓子が生まれることを期待しよう。




このあとはセルベールへ向かう。視察の最終目的地だ。

セルベールから王都へは三日とかからないそうなので、旅先からの手紙はこれが最後になるだろう。明日以降書いた手紙は直接渡すよ。

予定通り、十四日には帰れると思う。皆もコンサートを楽しみにしているからな。


運河の開通の話も届いたよ。すぐに使い始めてほしかったのだが、スイーリと開通の瞬間を見届けられるのも悪くないな。開通式の朝、迎えに行く。一緒に行こう。




最後に―

ごめん。


私の中では過去のことと割り切れていたことも、スイーリの中ではいまだ重く残っていたんだな。

それだけじゃないのかもしれない。私は今王都を離れているから、日々変わる景色の中で、思い出す暇もなかったんだろう。けれど、スイーリにとっては毎日過ごしている景色の中での出来事だったんだ。


すこぶる健康に過ごしているから心配しないで。もちろん私以外も皆元気にやっている。あのアレクシーから小言を言われてないんだ。どう?安心できるだろう?

スイーリもくれぐれも身体を大切に。十四日に会えることを楽しみにしている。


レオ

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