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愛するスイーリ


そろそろ王都は黄葉が始まっている頃だろう。元気にしているか?

私達は、ノールチェスの本邸を発って二日分南へ下ったところにいる。本邸の辺りは黄葉も終わりかけだったけれど、ここはちょうど見頃を迎えたところだ。


白樺の林が素晴らしい。

若い白樺の木立に太陽の光が差し込む様子は、思わず足を止めたくなるほど美しかった。

王都でも珍しくはない木だし、黄色に色づいたものも毎年見ていると言うのに、やはり自然が与えてくれる美しさは格別だ。

スイーリは今年黄葉を見に行ったか?



ノールチェスの話をしようかな。

ノールチェス領は北部に位置しているが、農業が盛んな地だ。小麦は採れないけれど、雪の降る直前まで何かしらの作物を植えている。最大の農作物は麻だ。ノールチェスの麻織物はしなやかで光沢があり人気だと言う。

ほぼ全ての高位貴族が顧客なんだそうだよ。王宮で使われている大量のテーブルクロスやナフキンの大部分もノールチェス産だと聞いた。きっとダールイベックのものもここで作られているに違いない。

織物工場、染色工場の他にも刺繍を手掛ける職人が数多くいるそうだ。


ところで、スイーリは王宮にも麻畑があることを知っている?私も見に行ったことはないのだけれど。

もしも興味があれば今度連れて行くよ。せっかくなら花が咲いた頃がいいかな。



**********

今日この地では初雪が降った。地面にたどり着いた途端に消えてしまうような儚い雪だったが、またひとつ季節が進んだことを実感させられたよ。今年は夏らしい夏も味わないままだったし、雪も既に見ていたのだけれど、やはり初雪には特別な感情が沸く気がする。

私の母は雪がほぼ降らない国の生まれだからか、毎年初雪を見ると少女のようにはしゃいでいる。祖国で過ごした時間よりも、この国に来てからの時間の方が長いと言うのに、いまだにそうなんだ。

スイーリはどうだ?初雪を見て、何か感じたりはするだろうか。


来年は夏も冬もメルトルッカで迎えるんだよな。真夏の温室のように暑いと言うメルトルッカの夏だ。そんな夏があるとは世界は広いなスイーリ。

冬は・・・きっと私達には余裕だろう。



**********

フェルダール領に着いた。

憶えているだろうか。私がまだ学園生だった時、ロニーの休暇中に十日ほど従者を務めたのがフェルダール公子だった。


今日は一日彼の案内で領地を見て回った。正直驚いたよ。はっきり言って以前会った時の様子では、領地のことなどさほど理解していない印象だったからな。

当時建築中のマーケットに連れて行ったことがあってね、それが自分の領地のことを見つめ直すきっかけになったと言っていた。


フェルダールはステファンマルクで恐らく一番小さな領地だ。これと言って大きな特徴もない。ないのだが、領民にとっては暮らしやすい良い領だと感じた。きっとすべてが平均点を取れているんだろう。

それは良い点でもあり、欠点でもある。

いや欠点と言うのは言い過ぎだな。領民が安定した暮らしを送れているのは良いことだ。


しかし、王都へ、その先へと売り込むだけの尖ったものがない。それは公子も理解しているようだった。明日もフェルダールの町を見て回る。おそらく明日で全ての町を見終えるだろう。




**********

手紙を受け取った。今回もたくさん書いて送ってくれてありがとう。

王宮で学び始めていたんだな。王家の歴史はなかなか大変だろう?似たような名前が繰り返し出てくるからな。私は全て憶えている、と言い切りたいところだけれど、どこまで憶えているか自信がないな。

言ってしまえば、歴史の知識が必要になった時は、必要な時代の本なり記録なりを開けばいいんだ。暗記している必要などないと思わないか?


適当に流してしまえ、とは言えないけれど、邸に戻ってまで頑張る必要はないからな。スイーリ自身の時間も大切にしてほしいと思っている。


ジェネットとも交流しているんだな。彼女にとってもスイーリの存在は心強いだろう。良い関係を築いてくれてありがとう。そしてオルソン卿は騎士団か。彼は第二との合同訓練で優勝したほどの実力者だ。第二の騎士にもいい経験になっていることだろう。


もうじき私達もコルテラ領に向かう。ジェネットに会う機会があれば、私からも職人達の様子を書いて送ると伝えてくれないか。


何年先か、きっと近い将来グリコス産の品がステファンマルクにも届くだろう。スイーリに選んでもらうのもいいな。楽しみだ。



そうそう、重要な話を忘れるところだった。スイーリが野営に興味があったとは知らなかったな。それを叱るのはどちらの兄だ?常日頃アレクシーから小言を言われている身としては、真っ先にその顔が浮かんだよ。あいつは心配性だからな。

一般論として、貴族の令嬢に野営をさせるなど、どうしてもやむを得ない事情でもない限り反対するものだろうとは思う。けれど、スイーリの希望ならば話は別だ。止める理由はない。いつか実現しよう。


けれど、力持ちだというスイーリはとても頼もしいが、スイーリに薪を集めさせたり水を汲みに行かせたりはしないよ。そうだな・・・一緒に飯の支度でもしようか。星を見ながら眠くなるまで話をするのもいいな。

私も楽しみにしてる。必ずいつか。



追伸

トナカイの話はまた今度。


レオ

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