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デニス=ノシュールからの手紙


レオ

視察は順調か?ベンヤミンのやつは、四月に一度近況を伝える手紙を寄越したきりだ。

便りのないのは何とやらとは言うものの、もう少し・・・いや、これはレオに言うことじゃなかったな。


先日専科を卒業したよ。五年間の学園生活もとうとう終わりだ。

本科の卒業と違って、専科はあっさりとしたものだった。二年過ごした寮も引き払って、今は邸に戻ってきている。ケヴ兄もベンヤミンもいなくて静かなものだ。静かすぎるほどだよ。


八月にオースブリングへ移ることになった。

今から後継者としてオースブリングの事業を学んではどうかと、声をかけられたんだ。

ノシュールとは違う部分も多いだろうから、一から学び直すつもりで行ってくるよ。


クリスマスには一度帰ってくる予定だ。レオ達にも会いたいからな。できるだけ視察団の帰還には間に合せたいと思っている。クリスマスコンサートも聴きに行きたいしな。


結婚式の日取りも決まった。来年の二月一日だ。厳冬の折ではあるが、運河のおかげで安全に行き来ができるようになったから、是非とも参加してほしい。

正式な招待状はオースブリングに行ってから出すよ。鳶尾宮宛てに送っておく。



気になっているかもしれないから、俺の今後のことを少し書こうと思う。

一年かけて後継者教育を受けた後は、ノシュールの学園を手伝うことになった。ノシュール校に専科はないんだけどさ、官僚志望の学生に向けた専科に準ずる科を来年新設することが決まって、俺はそこを任されることになったんだ。


俺の同期や、レオ達の学年のやつにも何人か声がかかっていて、若い教師が中心になりそうだよ。


ノシュールは何代にも渡り、歴代の国王にお仕えしてきた。文官のトップを輩出し続けてきた自負と責任もあって、領地で優秀な官僚を育てたいという願いがあったんだ。夢、と言った方がいいかな。


それがようやく実現に向けて一歩進んだんだ。その足跡を俺が残すことができるのかと思うと、感慨深いな。

俺達が育てる官僚の卵は、いずれレオを支える存在となる。とてもやりがいのある仕事だ。

期待して待っていてくれ。



デニス=ノシュール



**********

リスト=コルペラからの手紙


拝啓

盛暑の候、王太子殿下におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。


はじめに、工事の進捗報告をさせていただきます。

宿、宿舎共に内装の終盤に差し掛かりました。順調に進めば来月中には完成とのことでございます。


市場は先月ご報告申し上げました通り、無事完成いたしました。お手配いただきましたパン職人一家は入居済みでございます。本日パン窯の設置が終わっております。


ゼネラルストアの店長は、近日中に転居予定と聞いております。

現在は荷運びの最中でございます。



続きまして、開墾並びに農業報告でございます。

A地区の伐採進捗は三割、こちらも予定変更はなく年内の五割を目標としております。

B地区は火入れ準備中、C地区は来年以降着手予定でございます。

B地区への路整備進捗は八割ほど。来春の工場着工には問題ないと思われます。


ビートを始めとした農作物は順調に生育しております。



最後に織物工場の件でご報告がございます。

染色長より倉庫新設の要望がございましたので、工場横の土地を整備したところ、地中から木箱が見つかりました。それほど古いものではないようでございます。前工場主ビョルケイのものと思われますので、開封せず簡単に土を落とした状態のまま王都宛にお送りいたしました。


私でも持ち上げられる程度の重さでございました。軽く揺すってみたところ、中で動く気配もございません。しかし空箱ではないことは確かなようでございます。


王太子殿下のお戻りまで現状のまま保管するよう、一筆添えております。



二十五番直轄地代官 リスト=コルペラ




コルペラからの報告は、即ロニーと護衛の四名に共有した。

『コルペラ卿の判断で 未開封のまま王都に送ったとある 戻り次第確認するがその際立ち会ってほしい』

「承知致しました」


「一体何を埋めていたのでしょうね」

「最初は金貨でも隠していたかと思いましたが 代官一人で持ち上げたとなると違いますね」

「俺は翡翠かと思ったんですが 邸に堂々と飾ってましたし それも違いますかね」

ロニーとゲイル、ジェフリーが思いつくまま中身を予想していくものの、どれも決め手に欠けるようだ。


『どの道今はどうすることもできないからな 開けたら解決することだ』

「そうですね 気にはなりますが今まで地中に埋まっていたわけですし 数ヵ月放置するくらい問題ないものなのでしょう」

アレクシーの言葉には全員が納得だ。万が一傷むような品が入っていた場合、それはとうの昔に朽ち果ててしまっているだろうからな。今更慌てたところで手遅れというわけだ。



「殿下は何か予想するものがございますか?」

今まで口を開かなかったヨアヒムが、やや躊躇いがちに尋ねた。心なしか顔色がよくない気がする。私と同じことを考えているからかもしれない。



『ある

恐らくヨアヒムが考えているものと同じだ』


その場にいる全員が、はっと息を呑んだ。


『一度このことは忘れよう 今ここでどれだけ考えようが答えは出ない』

とは言ったものの、一度知ってしまったことを完全に頭の中から追い出すことは簡単ではないよな。かくいう私も、残りの視察期間中、何かの折に思い出しては考え込むことを繰り返していた。

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