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スイーリへ


手紙を受け取ったよ。遅くなってしまったけれど、選考合格おめでとう。

スイーリの言うように、来年私達は同級生になるんだな。一度学生生活から離れてまた戻るのは、少しこそばゆくも感じるが、二年間精一杯楽しもう。メルトルッカも出来る限り見て回りたいしね。


さて、現実の話に戻るとしようか。

我々は今日アルヴェーン領に入った。本邸に着くまでにはあと二日かかる。ヘルミは既に到着している頃だろう。

ところでスイーリは、アルヴェーン領のすぐ隣に王家の別荘があることを知っている?


何時の代の王かは忘れてしまったけれど、ここを気に入った王が建てたらしい。

と言うところまでは聞いていたのだが、私も実際に見るのは今回が初めてだ。陛下もおそらく一度も訪れたことがなかったと思う。私が生まれる前のことはわからないけれどね。



見たままを書くよ。

湖の中にぽっかりと浮かぶように佇む姿は、童話の中に出てくる城そのものだった。

知っての通り、ステファンマルクで"城"と定義されているのは王宮、ダールイベック、ノシュール、ボレーリンの四城だけだが、ここの別荘を見れば誰もが城だと言うに違いない。


アルヴェーンにはこの美しい風景を描く画家が多いそうで、今日はその町に泊っている。湖を見渡せる町で、旅の画家たちのための宿も多い。

気に入った絵が見つかったから送るよ。そしていつか一緒に来よう。

城はその時の楽しみに残しておくことにしているんだ。今回はこの対岸の町から眺めるだけにしておく。


今の季節に合った初夏の絵を選んだのだけれど、その他の季節を描いた作品も数多く並んでいた。春も、秋も冬も、全ての季節が美しい。特に冬の幻想的な雰囲気も素晴らしかった。何度も来よう。

この絵の通りの景色を二人で眺めたいと思った。



**********

本邸に到着した。今夜はヘルミも交えて楽しいひと時を過ごしたよ。手紙も受け取った、ありがとう。


私もスイーリからの手紙を読むときは、目の前にスイーリがいて読んで聞かせてくれているような感覚になる。その日にスイーリが見たもの、感じた空気、そして食べた味が伝わってくるようだ。


スイーリが楽しみにしてくれていると思うと、こうして手紙を書く時間がさらに大切に思えるよ。

きっと今もスイーリは私に宛てた手紙を書いているのだろう、私達は同じ時間を共有しているんだね。



ヴェンラのことを気にかけてくれて感謝する。

Dクラスに上がっていたのか。それは以前のクラスで一番になったという意味でもある。短い時間の中で、自分自身をここまで改革できた彼女はとても強い人間だと思う。


悔い改めてゼロからやり直したことも素晴らしいが、そのきっかけを作ったのはスイーリ貴女だ。私はそのことがとても誇らしいよ。



**********

これを書いている今日は6月の最終日。けれど、今スイーリがこの手紙を読んでいるのは二週間ほど先だろう。卒業を迎える頃だね。


スイーリ卒業おめでとう。

良い思い出も、そうではない思い出もたくさん残った三年間だったと思う。


なんとかの一つ覚えと言われそうだが、卒業式の朝に間に合うよう花を贈る。

そうだ、迎えの馬車は邸で一番大きい馬車にすることを勧めるよ。スイーリの座る場所がなくなってしまうからな。



卒業を迎えた令嬢達にとって、この日は三年間で最も慌ただしい一日だろうと思う。卒業の余韻に浸る暇もなく、夜会の準備に取り掛かるのだろうからな。


スイーリが初めて選んだドレスの話も楽しみにしている。本当はこの目で見たかったけれどね。


卒業後は社交の誘いも膨大になるだろう。

王宮へ通う日も増えると聞いた。スイーリならば大丈夫だ!とは言わない。

辛いと思うこともあるだろう。失敗することがあるのも当然だ、人間なのだからね。これは半分は自分のことを言っている。


だからと言うわけではないけれど、スイーリも全てを完璧にこなそうとは思わなくていい。

無理な時は休め。それが結果的に近道になることもある。

一歩ずつ、時には半歩ずつ、時間をかけて進んで行こう。二人でね。



最後にもう一度、卒業おめでとうスイーリ。

明日からの貴女の未来がますます輝かしいものとなることを願って。



追伸 書き忘れていた。

誕生日に贈ったネックレスとイアリングはスイーリのものだよ。私に気を遣わずどんどん使ってほしい。私が贈ったものが貴女をより輝かせているのだと思うと、たまらなく嬉しいからな。

独占欲なんてそんなものだよ。


レオ

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