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愛するレオ様
ついさっきお見送りしたばかりですのに、なんだか何日も経ってしまったかのように感じています。
不思議ですね。
今日学園では視察団の話でもちきりでした。
「あと一年早く生まれていれば参加したかった」と仰っている方が何人もいらっしゃったのですよ。
レオ様!視察のお話しをまとめて本にするのはいかがでしょう?きっと多くの方が希望されると思います。私も買いますね。一番に並んで初版本を手に入れますね。一冊では足りないわ、三冊は買います。
レオ様のご本のことを考え始めたら、止まらなくなってしまいました。
レオ様は、お手紙はささやかな日記で構わないと仰ってくださったけれど、私の妄想を書くようにとは仰っていませんでしたものね。気を付けなくては。
今日は放課後にソフィア様とカフェに寄りました。ヘルミ様も来て下さって久しぶりに三人でたくさんお話ししたのですよ。
そこでもやっぱり最初の話題は、今日の出発式のことでした。
アルヴェーン領にお立ち寄りになる時期に合わせて、ヘルミ様は本邸にお戻りになるそうです。その時はレオ様に直接お手紙を届けて下さるって約束して下さいました。
まだまだ先の話でしたね。アルヴェーン領に向かわれるのは六月の中旬でしたね。日程表を何度も何度も見ましたので、今ではほとんど暗記してしまいました。
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今日はレノーイ様にお会いしました。
レノーイ様はお若い頃、数年かけてメルトルッカを周られたのですね。レオ様にもその時のお話しを何度かされたことがあったとか。
メルトルッカよりも遥かに広い国土を持つステファンマルクを見て回る決意をされたレオ様のことを、ひたすら感心しておられました。もう少し若ければ荷馬車に潜り込んででもついて行っただろうなんて仰っていたのですよ。
「自分の目で見ることほど確かなことはないですから」
ご自身の体験からそう仰るレノーイ様のお言葉は、大変説得力がありました。
やはりレオ様には是非ともご本を出していただきたいです。ご検討くださいますか?
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今日の午後はどんよりとしたお天気でした。せっかく春めいてきたと言うのに、冬に戻ってしまったような空を見て少しうんざりしていたのですけれど、邸に着いた直後大雨になりました。
今も叩きつけるような雨が降り続いています。明日の朝には晴れるといいのですが。
この雨はレオ様がいらっしゃる町の方角から来たのですね。そのことに気がついた途端ちょっぴり嬉しくなってしまいました。同じ雨をレオ様も見ておられたのですね。
雨に濡れたりなさっていませんように。
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最近イクセル様の元気がありません。言葉数も減ったように思いますし、時々はため息もつかれるのです。レオ様、理由がお分かりになりますか?
ソフィア様も私も見当がつかず、お声がけしていいものか数日迷っております。
でも私達は長い時間を一緒に過ごしてきたお友達なのですもの。何かお困りでしたら手を差し伸べるのが友情なのでは!と、勇気を出すことにしました。
明日、ソフィア様と二人でお聞きしてみます。
もしも私達には荷が重い内容でしたら、レオ様のお知恵をお借りしてもよろしいですか?
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レオ様!イクセル様の悩みがわかりました。
もうじき発表になる剣術大会のことでお悩みだったのです。去年のイクセル様は素晴らしい成績を残されましたから、もしも今年初戦で敗退してしまったらどうしようかと、ずっと考え込んでおられたのだとか。
イクセル様は大真面目なのでしょうけれど、こんな時レオ様やベンヤミン様が仰りそうな言葉が次々と浮かんできてしまい、後からこっそりと笑ってしまいました。ソフィア様も一緒に。
レオ様は「悩むのは勝ちたいと思っている証拠だろう」って仰るような気がします。「鍛錬したいなら付き合う」とも仰るかしら。アレクシー兄様でしたら問答無用で鍛錬場までイクセル様を引きずっていきそうですね。
どうですか?当たっていますか?
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学園から戻ると、レオ様からのお手紙が届いていました。ああまっすぐ帰ってきてよかった。着替えるのももどかしくて、急いで封を切りました。
レオ様がご覧になっている風景を、手紙を通して見ています。
雪の中を羊は駆け回るのかしら。モコモコなのですもの、きっと寒くはないのでしょうね。そのモコモコの毛をすっかり刈られてしまった羊は、急に心もとなくなって外には出たくなくなってしまうかしら。私だったらまだ刈られていない仲間にくっついて離れないかもしれません。
レオ様のお手紙は一文字だってつまらないことはありません。羊から刈り取られた毛が、美しい織物になるまでの工程は、とても興味深く読みました。冬にはウールで仕立てたドレスもありますから、きっと今までに何度となく袖を通してきているのだと思います。
これからも視察の話をお聞かせ下さいね。レオ様がご覧になったもの、驚いたり感心したりしたことを私も知りたいのです。
フェルトのお話しでひとつ思い出したことがあります。
ティーポットのカバーをフェルトで作ってみるのはいかがでしょう?ウトリオ領でフェルトは絨毯にすることが多いとのことですが、ポットのカバーやトリベットなどは少ない材料でも作ることが出来ます。絨毯と並行して取り扱えば、貴族にも需要が高まるのではと思いました。
寒い季節は特に紅茶がすぐ冷めてしまいますから、カバーは喜ばれるはずです。私も欲しくなりました。
お返事を頂くまでに時間もかかりますので、先にイメージしたものをお伝えしますね。
別の紙に少し詳しく書いてみました。拙い絵も添えています。
今頃は次の視察地に着いた頃ですね。この手紙は明日お送りいたします。
早くレオ様の許へ届きますように。
スイーリ




