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「話の前に一つ申し上げたいことがございます 私ドミニクス=オルソンが忠誠をお誓いしております御方は グリコス第一王女ジェネット=グリコス殿下ただ御一人でございます」

『承知した』


例え王家に不利な内容であっても、ジェネットの名誉を守ることを優先する、ということだ。

彼を信じよう。友が最も信頼を置くものでもあるのだから。



「ステファンマルクからお戻りになった姫様は 出発前とはお人が変わったかのように・・・いえ以前の姫様にお戻りになったかのように明るくなられました」



オルソン卿は、王太子一家の帰国から使節団出発までの出来事を包み隠さず語った。


ジェネットが国王と会話した翌日から、明らかに王宮に変化が起こったと言う。

手始めにジェネットには新たに女性の護衛騎士がつけられた。その護衛はオルソン卿が立ち入ることの出来ない、例えば着替えの時間などあらゆる場面にも同行しているそうだ。

「姫様を監視する目的でございましょう 特に私とはその日以降直接会話が出来る状態ではございませんでした」


彼は騎士であるため、使節団結成について詳細は聞かされていないとのこと。だが近衛騎士である自分が使節団同行騎士に任ぜられたのは不自然だと感じたそうだ。

グリコスの内情がわからずとも、確かに不自然だと言える。他に同行出来る騎士などいくらでもいるだろうからな。



『よく話してくれた 感謝する

知っていたら教えてほしい ジェネット殿下の望みは聞いているか?』

「はい 帰国された直後に伺いました ステファンマルクへ文官として研修に行くつもりだと仰っておいででした」


『そうか』

それか。

彼女が口にした文官の研修という言葉だけを切り取って、この使節団が結成されたのだな。


王が愛する孫娘の幸せを願い断念させたのならば、他国の人間である私が口を挟めることは何もない。

だが、どうしてもそうは思えないのだ。


『彼女の婚礼はもう済んだのか?』

帰国後降嫁するということは聞いたものの、具体的な時期は聞いていなかった。届いた手紙や状況から、まだ結婚はしていないとは思うのだが。


オルソン卿は目を伏せ、静かに続けた。

「いいえ 使節団の帰国後に執り行う予定でございます」



『わかった


卿の望みはなんだ?私にどうしてほしい?』


反射的に顔を上げたオルソン卿は、僅かな間だったが呆気にとられたような、ぽかんと気の抜けたような顔をしていた。

『全てに応えることは難しいかもしれないとだけ先に言っておく だが私が友の助けになるのならば喜んで協力しよう』



「ありがとうございます」

即座に顔を引き締めると、絞り出すような言葉が発せられた。俯き握った拳を見つめ、その拳は小さく震えている。

『今でなくて構わない 考えがまとまったらいつでも訪ねてきてほしい』


「私の」

再び顔を上げたオルソン卿が、弱々しい声を出す。

「私の願いは ただ一つでございます

姫様の望みが叶うこと このためだけに私が在ります」



ジェネットの望み。それはたった今聞いた、ステファンマルクへの研修と受け取っていいのだろうか。

『全力を尽くすと約束する』


卿は立ち上がると、改めて膝をつき頭を下げた。

「感謝の言葉も浮かびません 混迷するグリコスのためにお手をお煩わせ致しますことお許し下さいませ

今は何もお返しできることがございません しかし必ずやこのご恩に報いたいと存じます」

『礼は不要だオルソン卿 その言葉は結果を出してから改めて頂くことにしよう』



執務室を出ていくオルソン卿の背中に、もう一度声をかけた。

『明日の晩夜会がある 使節団五十二名の出席をお待ち申し上げる』


ややあって彼は強く頷いた。

「身に余るご招待に与ります 直ちに大使へ申し伝えます」

『ああ』



扉が閉まったことを確認して、ロニーが振り返った。

「夜会の準備を進めるよう指示を出して参ります」

『華やかに頼む』


その言葉に皆がニヤリと笑った。

「承知致しました 叙任式の夜会に匹敵するものをご用意致します」

『任せる』



「レオ 視察団の滞在している宮への連絡はいいのか?」

ベンヤミンは挑むような目をして口角を上げた。

『そうだな クランツ卿主催で晩餐を開くよう伝えよう 最大限もてなすようにとも付け加えてくれ』

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