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「なあレオ ずっと聞こうと思っていたんだけどさ」

視察も順調に進み、昨日はここから一番遠い町まで出向いて、そこで一泊した。

一日ぶりに公邸に戻って来たところで、ベンヤミンが遠慮がちに尋ねる。

『なんだ?』


「なんだかここに戻ってくる度 機嫌が悪そうな気がしてさ」

しまったな。そんなに態度に出ていたのか。

『悪い 後で話す 部屋に来てくれるか』

「わかった」




~~~

「え?邸の外観が気に食わないって?」

『くだらない理由で驚いたか?』

ベンヤミンが茶を飲んでいる時に言わなくてよかったな。口から噴き出す勢いで驚かれた。


「くだらないってよりさ レオがそんなこと言うの珍しいからさ ほらロニーもビルもすげーびっくりした顔しているぜ」

確かに二人も目が点になっているな。


「そうですね 私も珍しいと思いました」

ビルとベンヤミンがうんうん頷きあっている。


「理由に思い当たるものがございます」

「おお!すごいなロニー!ロニーに聞けばレオのことなんでもわかりそうだぜ」

「光栄ではございますが とんでもございません」

「聞かせてくれよ どんな心当たりがあるんだ?」


ロニーが視線をよこしたので頷いた。ロニーの答えは私も興味がある。

「レオ様はこの邸が模倣されたものだとお考えなのではないでしょうか」

流石だなロニー。その通りだ。


『よくわかったな』

おおー!と唸るような声を出したのはベンヤミンとビル。


「・・・あ!そうか!ああー!言われたらそうだわ!」

大きな声で納得したベンヤミンが膝を叩く。


「ビルは見たことないよな?ダールイベックの本邸だよ 本物とは比べ物にならないんだけどさ いやー確かに色は真似ているな」


この邸の木造の壁は黒く塗られ、屋根には灰色の石が貼られている。

「ダールイベックの城は真っ黒いんだ 黒い石で出来ていてさ 屋根は銀色に光っていて めちゃくちゃかっこいいんだぜ ビルもメルトルッカへ行くとき見れるから楽しみにしてろよ」

「はい!とても見てみたいです」


「そっかー ビョルケイは本邸を見て憧れたんだろうな で この邸はビョルケイにとっての城ってわけか」

偶然ではないだろう。ウルッポは何度も城下町を訪れている。あの城を見上げる度にいつか自分もと願っていたに違いない。


『紛い物は紛い物だ』

何故こんなにも不愉快なんだろうな。あの美しい城を真似たから?その程度のことで態度に現れるほど苛立っていたのか?それとも真似たのがウルッポだったからなのか?



「まあ さ 以前は個人の邸だったから何色だろうが構わなかっただろうけどさ 今はもう公邸なんだ 公邸が城の紛い物ってのはどうなんだろうな?塗り替えたらいいんじゃないか?」

塗り替えろと言おうと思ったことはあった。でも我儘を言っているようで気が引けたんだよ。本邸を知っているベンヤミンでさえ、言われるまで気がつかなかったんだ。


「私もノシュール様に賛成でございます」

意外にもロニーが賛成に回った。


「ビョルケイの町という印象を払拭するためにも よいことではないでしょうか」

確かに今、この町の象徴的な建物は絹織物工場とこの邸と言えるだろう。印象を変えて住民が訪れやすくすることは、悪いことでもなさそうだ。


「住民に何色がいいか聞いてみたらいいんじゃないか?町のための建物でもあるんだからさ」

「良いですね」

『ああ そうしよう』

住民が少ないからこそ出来ることがある、ベンヤミンの提案はその手本のようだった。



『早速今夜の食事の席で話してみるか』

「レオ 俺がコルペラ卿に話すよ 任せてほしい」




~~~

「成程!それは素晴らしい案ですね 何色か候補の色を絞って投票を募りましょうか」

ベンヤミンの提案にコルペラ卿は二つ返事で賛同した。

「それは全てコルペラ卿にお任せします まあないとは思いますが黒に票が集まったら厄介ですもんね」

言ったベンヤミンと卿が笑っている。


「はい 黒だけは選択から外すつもりです いやーノシュール卿に仰って頂けて非常に助かりました ありがとうございます」

コルペラ卿も黒く塗られた外観には驚いたそうだ。個性的な邸も存在する王都でさえ、壁を黒く塗っている邸は見たことがないものな。


『決まったら連絡してくれ 塗料と職人を手配する』

「承知致しました それと殿下 ホールも床と壁の張替えを進めたいと思います」

『そうか』

赴任以来空気の入れ替えを続けてきたと言っているのに、未だに悪臭が漂っているのだから余程深く染みついているのだろう。さっさと張り替えるのが正解だ。


「それでご相談なのですが 張替えが完了しましたら 宿舎の完成まで騎士団の方々にお使い頂くのはどうでしょうか」

卿から言い出してくれて手間が省けた。野営が出来るのもあと数ヵ月だ。ここのホールならば広さも充分だろう。


『それも手配しよう 必要なものを書き出しておいてくれ 騎士団には卿から直接話をつけてほしい』

「かしこまりました 明日までにまとめます」

この町で過ごすのもあと一日だ。明日は午後からコルペラ卿と視察の結果を話し合うことになっている。その時に分隊長にも確認を取っておこう。




『ベンヤミン悪かったな』

「どうってことないぜ こういう時のために俺がいるんだからさ」

塗り替えの提案の時、ベンヤミンは一度も私の名を出さなかった。


今回はたまたまコルペラ卿も同意見だからよかったものの、衝突することも充分考えられた。

「レオはもっと俺を使ったらいいと思うぜ レオが常に矢面に立つ必要はないんだ」

『感謝する』


頭を二、三度掻いたベンヤミンは、笑いながら付け加えた。

「なんてかっこつけてみたけどさ 俺がそうしたいのよ 実績作りってやつ?小さなことからコツコツとさ」


ベンヤミンらしいな、ありがとう。ここはベンヤミンの心意気に敬意を表して、気がつかないふりをしておくよ。

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