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外に出た途端賑やかな声が聞こえてきた。大きな笑い声も聞こえる。

「ふふ 皆さん今日も楽しそうですね」


『ベンヤミンの顔を見るのが楽しみだな』

こっそりと小声で呟くと、ゲイルとジェフリーが小さく吹き出した。



「あっ!王太子様もいらしたよ」

「王太子様ありがとうございます お先に頂いてました!」

「リーナさん!オリアンさんも早く早く!とっても美味しいのよ!」

先に合流していたベンヤミン達三人は余裕の顔をしていた。どうやら今日は質問攻めにあわずに済んだようだな。


「まあ!パンの差し入れを!ありがとうございます 嬉しいです!」

オリアン夫人が歓声を上げた。

「リーナさんはパンを知っていたのね こんなに美味しいものは初めて食べたわ」

「このジャムも美味しくてねえ いくらでも食べられそうで怖い怖い」

皆差し入れのパンに夢中になっていた。料理人がびっくりするほどたくさん焼いて準備していたのだ。朝のうちにコルペラ夫人が摘んできたベリーでジャムまで用意していた。


「旨いものは力になりますから どっさり焼かせて頂きます」

その言葉に嘘はなかったな。仕入れから下ごしらえ、片付けと通常の料理人の何倍もの仕事量だと言うのに不平も言わず殊勝なことだ。



『市場の他にどんな店がよいだろうかと考えていたのだが パン屋がよさそうだな』

「パン屋!」

「パンが毎日食べられるようになるのですか?」

『どうだ?他には何が欲しい?』


建設中の店舗は王都のマーケットを模している。一棟に複数の店舗が並ぶのだ。野菜を売る市場の他、雑貨屋、そして今パン屋の出店が決まったようだ。


「これを毎日食べられるようになるのかい?夢みたいだねえ」

「ますます頑張って稼がないとねえ」

「パン屋楽しみです!」

「いつできるのですか?」

皆今日はパンで頭がいっぱいのようだな。他の店の要望も聞いておきたかったのだが、まだ時間はある。じっくり考えておいてもらうとするか。


『よい職人を探しておくよ 来年には開店させたいと思っている』

「わあー!」「待ち遠しい!」

工員達と共にオリアン夫人も両手を取り合って喜んでいる。



『皆の織る布は今王都で最も注目されている 来年にはそれが皆の賃金にも反映されるだろう』

そして再び歓声が上がった。




「ありがとうございました」

「またお待ちしておりますよ なんどでもいらして下さい」

「パン美味しかったです」

休憩時間の終わりに合わせて私達も引き上げることにした。


『それではオリアン 次回作も楽しみにしている

 工場長 ここのことはあなたに任せたよ あなたに任せてよかった』

二人は揃って深く頭を下げた。


「私共もこの町に来れたことを大変感謝しております 精一杯ご恩をお返しさせて頂きたいと思います」

「私もこの町がとても好きです 安心してお任せ頂けるよう頑張って参ります」

王都に戻る前に一度立ち寄る、そう約束して工場を後にした。




「皆さんお喜びでしたね」

「なあレオ パン屋のことを想定しての差し入れだったのか?」

『まあ な』

王都では平民でも気軽に買うことができるものだが、パン窯がなくてはどうにもならない。


パンの反応は上々だった。店を開くことは問題ないだろう。

『それまでに職人を探さないとな』

「こうして町が大きくなっていくんだな」

大きく・・・少し大げさな気もするが、住民が増えるという点で言うと間違いでもない。


『そうだな』

「他には何を予定しているんだ?」

『ベンヤミンは何がいいと思う?ビル ビルはどうだ?』

ビルはボレーリンの城下出身だ。東部最大の町だから、王都の民とさほど変わりない暮らしを送ってきたとは思う。それでもビルの意見は貴重だ。きっと私達には気がつかない視点から見えるものもあるだろう。


「そうですね 衣食住と言いますから衣服を扱う店があってもよいかと思います」

「成程なー 仕立屋じゃ時間がかかるもんな」

そうか、今までは不定期に訪れる商人から買うしかなかったのか。自分で仕立てるにしても材料が必要だよな。


『完成した衣服と仕立て用の材料 あとシーツや毛布と言ったものをまとめて扱ってはどうだろう』

複数の店に分割するほどまだこの町は大きくない。今は()()()()()の方が便利なのではないか。


「よいと思います 別々の店にするほどまだ住民は多くありませんから」

ビルの賛成も得たことだし、この方向で進めることにしようか。



『この町に来ている商人がどこから来ているか知りたい』

「お調べ致します」

「その商人に任せるのか?」

『そうだな 雑貨屋は任せたい どこかで店を構えているはずだ ここに支店を出すよう持ち掛けようと思う』

近辺に仕入れ先を持つ商人の方が、何かと都合がよいだろう。職人とは違い、これは王都で人材を探すよりもこちらで声をかけるのが早い。



「食堂は宿に作るんだよな?」

『そうだ』

大抵どこの宿も一階は食堂だ。今建てている宿は翡翠の採掘作業者を想定しているため、長期滞在が前提だ。


この町のもの達に外食と言う概念はない。食堂やレストランといったものが町に一軒もないのだから当然だ。しかし食への興味はある意味本能だと思う。町に食堂が出来れば、必ずそこに人は集まるだろう。そうして次の、さらに次の店が増えていけばいいと思っている。



さて、明日からは周辺の町巡りだ。

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