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「殿下!お早うございます!」

夜勤の騎士が慌てて近寄ってきた。

『お早う ランツ卿』


「ダールイベック卿を呼んで参ります」

『あ いやいい』

アレクシーが来るまで、あと一時間はある。


『少し走ってくる ダールイベック卿が迎えに来るまでには戻るよ』

「ではご一緒致します」と言うランツ卿と共に裏庭に出た。


さて、と。

本宮二周にするか。それならランツ卿がついてくる必要もない。

『本宮を二周したら戻る』

「承知しました」


腕や脚をほぐしていると、隣でランツ卿も同じように体を回し始めた。

『ついてこなくていいぞ?庭にも夜勤の騎士はいるだろう』

「いえ ご一緒させて下さい」

『夜勤明けだ 無理はするなよ』

「はい!ご配慮ありがとうございます!」


よし、じゃ行くか。



走る時は常に無心だ。歩数だけを数えて淡々と走る。本宮の外周は数えきれないほど走った。この体格になってからは一周がほぼ八千だ。




~~~

はぁー。


ふぅー。

鈍ってたな。いつから走ってなかったっけ。

庭に出たときは肌寒かったのに、走り終えた今は汗が止まらない。ここまで汗を流すのは久しぶりだ。


「殿下 汗を拭くものと水をお持ちしました」

『ああ 助かる ありがとう』

グラスに水を注いで渡してくれたのはランツ卿だ。


「お恥ずかしいですが 早々に脱落致しました」

そうだった、ついてくると言ってたな。全く気配を感じなかったから忘れていた。

『気に することは ない 夜通し 任務に 就いていたの だからな』

はぁ。まだ息が切れてる。



「殿下がペースを上げられたときは自分の目を疑いました」

『走ることだけは 続けて きたからな』

これも趣味と言えば趣味なのだろう。


『さて 戻るか そろそろダールイベック卿 が 来る頃だろう』

「そうですね」



間に合わなかったか。階段を上ったところで、少し前を歩いているアレクシーを見つけた。

『お早う ダールイベック卿』

「お早う・・ございます殿下」

廊下を歩いていたアレクシーが振り向きざまに困惑している。


『少し散歩してきた 行こうか』

「散歩というお顔ではございませんね」

そんな呆れたような目で見るなよ。


『ランツ卿早くから済まなかったな ありがとう』

「いいえ いってらっしゃいませ」


二人になったところで早速アレクシーがやいやい言い始めた。

「全くこんな時期に朝から何やってるんだ 何時に起きたんだ?」

『早くに目が覚めたんだよ』

「答えになっていないぞ 昨夜だって遅かっただろう」

夜会は早めに抜けた。特別遅かったとは思わないが、それでも普段のアレクシーならとっくに寝ている時間だものな。


『わかったよ 次から走るのは夜にする』

「違う!睡眠を取れと言ってるんだ」

心配してくれていることはわかる。ありがたいことだとも思う。けどなあアレクシー。



『走るとさ 空っぽにできるんだよ』

「え?」

『前に言わなかったか?私は走る時歩数を数える』

「ああ 知ってる」

『ただ数だけを数えていると 頭の中を空にできるんだ』

「うん」


だんだんアレクシーの勢いも弱まってきた。もうお説教も終わってくれるだろう。

『あと三日だ それまで大目に見ろ』



少しの間アレクシーからの返事はなかった。

「・・・変な話だよな レオのための祝宴なのにさ」

『それは違うだろう これはステファンマルクの力を誇示する場なのさ 叙任式も私もその余興にすぎない』

アレクシーがそのことに気がついていないわけがない。私への気遣いなら無用だ。


『何せ獲物らしいからな』

その言葉でアレクシーの表情が厳しくなった。


「あれは酷かったよな 俺も声を上げそうになったよ この親にしてこの子ありとはよく言ったものだな」

『礼儀を尽くす必要がなくなったんだ 寧ろ感謝しているぞ?』

アレクシーが遠慮がちの笑みを見せる。


『狩られるのがいつも獲物側だと思っては大間違いだ これ以上私の周囲を荒らすようなら喉元を食い破ってやる』

「・・・ジェネット殿下も狙う獲物を間違えたな」

ジェネット個人の野望なのか、それとも王太子・・国の意向なのか。




「レオも変わったな」

『そうか?』

「変わったって言っていいのか・・・

 顔つきも数年前とは違ってきたような気もしないでもない」

煮え切らない言い方だな。アレクシーにしては珍しい。


『本質はそうそう変わらんさ』

「・・・そうだったのかもな」





鍛錬を終えて風呂と朝食を済ませた頃、ゲイルが報告に来た。

「おはようございます 昨夜のご報告に上がりました」

『ああ どうだった?』

「はい― 」

・・・・・



『そうか』


さて、どうしようか。



『ハルヴァリー卿 今から本宮へ行く』

「承知致しました」

『ダールイベック卿を借りてもいいか?昼食に同席してもらいたい』

「かしこまりました 申し伝えます」

早速実行する時が来たな。どうやって喰い千切ってやろうか。



『ビル 侍女を一人呼んでもらえるか?』

「すぐ呼んで参ります」


『ロニー 会食用のホールに用意を頼む 給仕は本宮のものにしてほしい』

「承知致しました 人数は三名でお間違えございませんか?」

ロニーの瞳には僅かだが確かに怒りが見えた。

『ああ 三名だ』




ビルと共に入ってきた侍女に伝言を言付けた。

『十一時を回ったら今の伝言を伝えに行ってほしい 騎士を一人連れて行くといい どの宮に滞在しているか全ての騎士が把握している』

「はい 承りました」



本宮では真っ直ぐ資料室へ向かい、いくつかの資料を取り出して図書館へ持ち込んだ。そこでも数冊の本を選び窓際に並ぶ机の上に重ねる。

『昼までここにいる 時間になったらダールイベック卿が迎えに来てくれ』

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