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宴は続いていた。

一人でホールに戻ると、ベンヤミンとデニス、それにソフィアとオースブリング嬢が談笑しているところだった。

『ベンヤミンはいつもここにいるな』

「あれっ?レオ一人? ああイクセルはさ引っ張りだこなわけよ」


ああそうだったのか。

『悪い 今まで気がつかなかった』

打ち合わせと言うのもこのことだったのだな。


「種明かししちまうとさ 祝宴の前からアレクシーと話していたんだよ 俺達が壁になってやろうってさ」

「予想よりも難敵が現れたようだしな」

デニスの率直すぎる言葉には苦笑いしてしまった。確かにあれは敵かもしれないな。


『いつまでも面倒をかけて済まないな』

今となっては笑い話かもしれないが、去年はビョルケイ嬢に振り回されたものな。あの時も常に私の前に立ちはだかってくれたのがベンヤミンだった。


「どうってことないぜ」

「ベンヤミン しくじった直後にその言葉はないな レオ先程は済まなかった」

デニスが詫びているのはジェネットのことか。デニスが謝ることはない。頭を下げるものがいるとすれば、それは一人だけだ。


『やめてくれ デニスが詫びることではないだろう』

あれでも相手は一国の王女だからな。強く出られないことは重々承知している。いやそれ以前にこれは自分で解決すべきことだ。



「スイーリ様はまだお休みでございますか?」

ソフィアが扉の方をちらと気にしている。


『いや 疲れた様子だったから先に帰るよう言ったんだ』

「今日はパレードもございましたから」

「そうか スイーリも慣れないことが続いて疲れていたんだな」

そうだったな。早朝から支度をして、初対面だった他国の王族との食事会もこなしたんだ。相当疲れてもいるだろう。明日は元気な笑顔を見せてくれるといいのだが。




「レオ 昼間はありがとう 少しお邪魔してもいいかな」

ダンスを一曲終えたクラウドが、ワインを片手にやってきた。


『ああクラウド ちょうどよかった 私の友人を紹介させてくれ

 ノシュール公爵家のデニスとベンヤミンだ こちらはデニスの婚約者オースブリング嬢 そしてこちらはボレーリン嬢だ』


「初めまして クラウディオ=フェヒール・ウーツです」

『メルトルッカの王子殿下だ』

順に名乗り握手を交わしていく。


『クラウド こちらのベンヤミン=ノシュール卿がメルトルッカへの留学を予定している友人だ』

「そうでしたか ノシュール卿お待ちしています」

「クラウディオ殿下 どうぞベンヤミンとお呼び下さい」


「ありがとうベンヤミン 私のこともクラウドと」

「恐縮です クラウド殿下」


「レオ スイーリさんは休憩かな?」

『いや 今夜は早めに帰ったんだ』

「そうでしたか ダンスを申し込もうと思っていたけれどそれは残念」

『済まないな』

「ううん 明日に楽しみが出来ましたから ね」



スイーリに付いていたビルとアレクシーがこちらへ向かってくる。

「殿下 お送りして参りました」

『感謝する 二人も紹介しよう

 クラウド こちらはアレクシー=ダールイベック卿 スイーリの兄だ そしてこちらがヴィルヘルム=ハパラ・リンドフォーシュ卿 私と共に留学予定のもう一人の友人だ』


「あなたはスイーリさんの兄君でしたか レオの護衛騎士だね?」

アレクシーがクラウドの差し出した手を握り返した。

「クラウディオ殿下 ご挨拶申し上げます レオ王太子殿下の護衛騎士 アレクシー=ダールイベックです」


続いてビルとクラウドが握手を交わす。

「ハパラ・リンドフォーシュ卿 留学を心から歓迎します」

「光栄でございます クラウディオ殿下」


クラウドを囲むように八人で会話を続ける。

「クラウディオ殿下と王太子殿下は すっかり打ち解けられたようでございますね」

「そう見えますか?そうだと嬉しいな どう?レオ」

屈託のない笑顔を見せるクラウドを見ていると、自然に笑みがこぼれる。


『クラウドは久しぶりに会った友人のような感じがするよ』

「嬉しい言葉だね うんとても嬉しい」

近づいてきたグラスにグラスを合わせた。


「今回私がレオの叙任式に参加出来て良かったと思っているよ レオと友人になれたと言ったら祖父も父も喜ぶでしょう」

率直に言って、こんなにもステファンマルクに心を寄せて下さるメルトルッカ王家のことが、理解できかねている。私の知る限りメルトルッカとステファンマルクが深く友好を結んだという記録はない。

彼らがここまで好意的な理由はなんなのだろう。二年後、拝謁が叶った際にはお聞かせ頂くことができるだろうか。


『クラウド 留学を受け入れて下さり大変感謝しているともお伝え頂けるか?』

「喜んで レオの友人や婚約者もメルトルッカに興味を持ってくれている とも付け加えないとね」



去り際にクラウドが耳元で囁いた。

〈レオ わかっているよね レオが最も若い王太子だと言うことを それが何を意味するのか 周囲がレオをどのような目で見ているのか・・・私ではさほど力にはなれないと思う けれど協力は惜しまないよ〉


『クラウド?』

返事を聞くことなくクラウドは立ち去った。「また明日の夜お会いしましょう」と言葉を残して。




「レオ殿下 少しの間で結構です お時間を頂けますか?」

見計らったようにクリストファー=グリコス、グリコスの王太子が妻と第二王女を伴ってきた。


『はい構いませんクリストファー殿下 ステファンマルクの夜会はお楽しみ頂けていますか?』

「規模の大きさに圧倒されております」


・・・話が続かない。こちらから話す話題もなければ、弾ませたい相手でもないからだ。


「殿下 少々お話を」

ちらちらと私の周囲にいる友人に視線をやっている。聞かれたくない話でもするつもりなのだろう。

『はい どうぞお聞かせ下さい』


誰も動く気がないことを悟ると、小さく息を吐き出しクリストファーは話し始めた。

「私共の娘が殿下のお心を乱しているのではと 少々心配しております」

何故私がジェネットに心乱されなければならないんだ?思い違いも甚だしい。心の中に微塵も存在などしていないが。


『ご心配無用です それにしてもジェネット殿下は随分と奔放にお育ちですね』

デニスもベンヤミンも、アレクシーも。皆固唾を呑んで私達の会話を見守っている。


「お恥ずかしい限りです 欲しがるものを与え続け少々我儘に育ったかもしれません」

『そうでしたか』


少々少々うるさいな。少々どころか相当しつこいぞ。


「あの子はいつもあの調子なのでございます 狙った獲物は決して逃さない性格でして」

・・・・・


『そうですか クララ妃殿下 ―私を獲物だと』

「申し訳ございません!」

クララよりも前にクリストファーが慌てて頭を下げた。


「申し訳ございません!失言でございました」

一呼吸遅れてクララも深々と頭を下げる。



『構いませんよ グリコスの本心が伺えてよかったです』

「お赦し下さい 言葉を誤りました」

本当にうっかり出た言葉らしく、夫婦揃って青い顔から汗を垂らしている。まあ本心なのだろうけどな。



『お気になさらず

 良い夜をお過ごし下さい』

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