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「レオ様申し訳ございませんでした とんでもない失態を」


クラウドとの昼食会の後、スイーリを部屋まで送る間も彼女は謝り通しだった。

『スイーリ もう謝るのは終いだ 次謝ったら口を塞いでしまうよ』


堂々と口づけする理由を貰えるのなら、謝ってくれるのも悪くないなと笑いかける。多分これは、ロニーが決してスイーリには見せるなと言った類の笑みだろう。スイーリは二度大きく瞬きをしたかと思うと、これでもかと目を見開いた。

「はい!あの はい!」


『なんだ 謝ってくれないのか残念』

慌てるスイーリの横で笑っているうちに到着した。



『後で迎えに来る』

「ありがとうございます お待ちしております」


スイーリと別れて一度鳶尾宮へ戻るため、いつものように庭から続く路を歩く。今日は庭も静かだ。

「レオ様 先程裁縫室から連絡がありました 完成した式服が届いているそうです」

『そうか』

「ダールイベック様の侍女にも伝達済みでございます」

『わかった』


ロニーの後ろにいる四人の白服騎士にも伝える。

『今夜は紺になった』

「承知致しました」

私と同じ色の式服は着ないと、四人だけのルールを決めたらしい。気にせず好きな色を着てもらって構わないんだけれどな。



夜会まではまだ時間がある。一度執務室に寄ることにした。

執務エリアは静まり返っていた。皆休暇中だからな。今日働いているものはいないだろう。



部屋に入り上着を脱ぐ。受け取ったビルが丁寧にブラシをかけている。

『ビル ロニーも暫く休憩にしてくれ 二人が戻るまではここにいる』

それでも二人は譲り合い、なかなか休もうとしない。


『ロニーは自分の執務室 ビルは私室に戻るのは手間だろうから 近くの空いてる部屋で休んで構わない 時間が来たら呼びに来てくれ』

そう言って追い出した。別に一人になりたかったわけではない。こうでもしないと休憩も取らないからな。ビルはロニーの影響を受けすぎだな。全くこれじゃロニーが増えただけじゃないか。



一人になったところで、やっと机に向かった。

視察前に片付けておきたい案件がまだいくつか残っている。


代官のコルペラは二日後、一足先に町へ戻ると言っていたな。コルペラから届いていた要望は全て処理済みだ。

秋以降本格的に着手予定の、二十三の直轄地の概要を一枚手に取る。

リンドフォーシュ卿をはじめとする担当の官僚が提出したものだ。まだ二十三全ては揃っていない。


結構抜けてるんだよなー。繰り返すが、直轄地の管理は代官による差が大きい。

北方の直轄地を除いて、基本的に一度任命された代官は引退までその地を担当する。少々ズボラな程度では配置換えにはならないのだ。


大きな声では言えないが、誰が任命したんだよと言いたくなるような地も中にはある。

代官は変えられなくても、こちら側の官僚は変えられるからな。相性の良くないところはどんどん変えて行くつもりだ。






扉を叩く音が聞こえた。この音はロニーだ。そろそろ時間のようだな。ペンを置いてインク瓶の蓋を閉めた。

「レオ様 お迎えに参りました」

『今行く』

長椅子に転がしておいた剣を持ち、上着は・・・手に持った。一度脱いだら着る気になれないんだよ。


「お持ち致します」

ビルが上着を受け取った。

『悪いなビル 重いだろう』

昨日の朝、初めて持った時は驚いていたものな。


「軽やかにお召しになるレオ様に驚きました」

『ビルは優しいな それに比べロニーは酷いものだ』

半眼でロニーの方を見たらクツクツと笑っていた。なにが嬉しいんだよ、褒めてないからな。




着替えのために私室へ戻る。ドレスルームには真新しい紺色の式服が用意されていた。

『本当に三日で仕上がったな』

「はい いつもながらの丁寧な仕事でした ご安心してご着用下さいませ」


シャツを着替える。袖を留めるのはスイーリから贈られたボタンだ。

ウエストコートを着てボタンを留める。上着を羽織ったところでロニーが溜息を漏らした。

「素晴らしい技術でございますね ご令嬢が手掛ける刺繍と言えばハンカチか せいぜいテーブルクロスまでだと思っておりました」


そうだよな。これは間違いなく令嬢の趣味の範疇を超えている。

思うにスイーリは探究心がとても強い。向上心もあり、いい意味で知識にどん欲だ。それが趣味にも存分に発揮されたのだと思う。発揮しすぎな気もするけれど。

『スイーリは例え公爵家に生まれていなかったとしても 充分身を立てることが出来ただろうな』


そんな彼女を見ていると、自分も負けていられないと発奮させられる。

スイーリが男に生まれていたら、私達はいい友人になっていただろうな。




いやいや何を言ってるんだ。男じゃなくてよかったよ。

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