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今日は本宮で長時間の謁見だ。王都に集結したほぼ全ての貴族家と会うことになっている。

既に王都の街中はお祭り一色で、九割以上の官僚も二週間先までの休暇に入った。



本宮へ行く前に、今私はサロンへ向かっているところだ。

そこには、一足先に祝いを届けに来たという仲間達が揃っていた。

「ちょっと早いけどおめでとうレオ!」

「祝いの言葉は何回言ってもいいよな おめでとうレオ」

「また後から会うけどな その時はその時ってことで!レオおめでとう」

『ありがとう』


「レオ様おめでとうございます お時間を頂きありがとうございます」

「おめでとうございます 謁見時はお話しすることが難しいでしょうから こうしてお会い出来て光栄です」

「レオ様 直接お祝いをお伝えする機会をありがとうございます」

『こちらこそ 皆ありがとう』



「レオ こっちこっち」イクセルに連れられて奥の長椅子に座らせられた。

「渡す順番も決めたんだよ くじ引きでね」

得意げなイクセルが場を取り仕切っている。

「じゃあアレクシーからだね!」


「おう 一番は俺だ」

アレクシーが艶やかに黒光りする美しい鞘に入った剣を両手で差し出した。


ずしりと重い。

受け取った剣を鞘から抜いて目の前にかざした。鈍色に光る剣身が綺麗だ。

『ありがとうアレクシー これはバックソードか?』

「そうだ レオはレイピアよりこっちの方が合ってると思ってさ 長さもレオに合わせてある」

祝いで贈るには無骨な剣だ。貴族が好む美しいヒルトではなく、あくまで実戦向きなところは私の好みを知り尽くしているアレクシーらしい選択だ。


「鞘も見てくれ 本当に贈りたかったのはそっちの方なんだ」

それは見たことのない材質だった。艶やかで輝いているのに触ると温かみを感じる。金銀や宝石で飾らずとも十分すぎるほどに美しい。剣も然ることながら、これもよく私のことを理解しているなと嬉しく思った。

『手触りもいいな 初めて見る』


「ウルシと言うんだ 東の国の技術だ これは黒漆って言うらしいぜ レオが気に入りそうだなと思ってさ」

『ああ とても気に入った ありがとう 大事にする』



「次はデニスだよ」

イクセルの進行役はまだ続いていたらしい。名前を呼ばれたデニスが従者から箱を受け取っている。


「成年王族入りおめでとうレオ」

『ありがとうデニス』

「俺からはこれだ 少し重いから気を付けてくれ」

そう言われて受け取った箱は、確かに見た目より重たかった。言われていなければ慌てていたかもしれない。


『これは・・・

 あ!望遠鏡か!』

以前ベンヤミンが読んでいた本で見たような気がする。本物を見るのは初めてだ。


「正解 木星も見えるそうだ たまには星でも見上げてゆっくりしてほしいと思ってさ」

『ありがとう嬉しいよ 大切に使う』



「次はアンナちゃんだね」

「はい 私は珍しいものではないのですが 時計をご用意致しました」

エクレフス家と言えば時計と誰もが答えられるほど、エクレフスは質の良い時計を作ることで有名だ。私が長年私室で使い続けている時計もエクレフスの職人の作だ。


アンナの侍女とビルがその時計を運んできた。

「許可を頂きまして 振り子と文字盤にレオ様の印章を彫らせて頂きました」

わぁー!と令嬢達から歓声が上がった。

金色の文字盤と振り子にイヌワシとLの飾り文字が彫られている。装飾も見事で歓声が上がるのも納得だ。


『素晴らしい時計だ ありがとうアンナ 執務室で使わせてもらおう』

「お使い頂けて光栄でございますわ ありがとうございますレオ様」



「そしてね 次は僕からだよ ちょっと大きいからね レオこっちに来てくれる?」

手招きするイクセルの方へ行くと、そこには一台のテーブルが置かれていた。

『これは・・?コンソートテーブル か?ちょっと違うな・・・変わった形だ』


「えへへ これはね この国にまだ一台しかないオルゴールなんだ」

『オルゴール?こんなに大きいのか?』

オルゴールと言えば片手に収まる程度のものだと思っていた。目の前にあるオルゴールだというものは、家具ほどもある大きさだ。


「僕としては音楽に関係あるものを贈りたかったんだよね けどレオに楽器を贈っても困るだろうなと思って そうしたらさ ちょうどこれの噂を聞いたんだよ ちょっと見ててね」

イクセルが蓋を開けると、美しい音楽が流れ始めた。


「まあ!」「これがオルゴールの音なの?!」

令嬢達の驚く声に混じって、デニスとベンヤミンも食い入るようにオルゴールを見ている。

オルゴールとは思えないほど複雑な音色だ。

『とても美しい曲だな 初めて聴く曲だ』


「えへへ そう言ってもらえると嬉しいな 他にもね ここを交換すると他の曲も流せるんだよ」

これ一台で五種類もの曲を演奏できるらしい。こんなオルゴールがあるとは知らなかった。


「でも僕の一番のお勧めはこの曲だよ 僕が作った曲なんだー全部はまだ完成していないんだけれどね」

『この国に一台しかないオルゴールから流れるのがイクセルの曲なのか 素晴らしいものをありがとう このサロンに置いて誰でも聴けるようにしよう』

せっかくなので、このままオルゴールを流すことにした。オルゴール独特の柔らかな音色がなんとも心地いい。


「素敵な曲ですね イクセル様 未完成と仰っておられましたがこの後にまだ続くのですか?」

音楽家らしく、アンナはイクセルの作曲したというこの曲に興味があるようだ。


「そうなんだよ この曲で専科の推薦を狙うつもりなんだー」

「まあ!イクセル様も専科に進まれるのですね!」

「そうなのかイクセル?」

アンナだけではなく、デニスもアレクシーも驚いている。声には出していないもののヘルミやソフィアもやはり意外そうに目を丸くしていた。



「あれ?僕話してなかったっけ?」

「聞いてないぜ」「聞いてないな」「初耳です」「はい初めて伺いました」

一斉に詰め寄られてはイクセルですらもたじろいでいる。


「そ そんなに驚くこと?騎士科じゃないよ?僕が進むのは芸術科だよ?」

その言葉に一瞬治まりかけたざわめきも、ベンヤミンの一言で再びざわつき出した。

「イクセルは政治学科だと思ってたからさ」

そうだよな、進学するとすれば政治学科だろうな・・・口々に同じことを言っている。



「僕は芸術科に行くよ 大丈夫!父上も納得してくれているからね 皆十年後の僕に期待してよ

 ねっレオ!」

『ああ 期待しているさ』


「はい!僕の話はここでおしまい さあ次に行くよ!レオは長椅子に戻ってね」

イクセルの仕切り直しで皆苦笑を浮かべながらも、元居た席に戻った。


「次は私ですね」



ヘルミからは印章が彫られた銀のティーセット、ソフィアからは陶器で作られたボタンを一式、ベンヤミンにはホベックでのみ採れるという希少な香木と香炉を贈られた。



「さて いよいよスイーリちゃんの番だね」

イクセルの声に、立ち上がって侍女から箱を受け取ったスイーリが私の前に来た。

「完成品ではなく 皆様のような貴重なお品でもなくて恐縮なのですが 心を込めてご用意致しました」

『ありがとうスイーリ 開けてもいい?』

皆も興味津々と言った様子で箱を見守っている。


箱を開けると、きっちりと畳まれた布が入っていた。

取り出して広げると、布は紺色とクリーム色の二枚で、どちらにも非常に手の込んだ見事な刺繍が施されていた。紺色のは上着とパンツの揃い分だろう。クリーム色の方はきっとウエストコートだな。ボタンの分の刺繍も十分なだけ刺されている。


令嬢達から感嘆の溜息が漏れた。

「とても美しいわ」「レオ様に大変お似合いの色でございますね」「素晴らしい技術だわ」

スイーリはと言うと、恥ずかしそうに顔を赤らめている。


『スイーリ ありがとう とても嬉しいよ

 何年掛かったんだ?スイーリの作品だね?』

全員が驚きの声を上げた。アレクシーもこれは知らなかったらしい。


「はい 入学した頃から準備しておりました お仕立ても済ませることが出来ればよかったのですが」

王都の仕立屋で私の寸法を知る店はない。このことはスイーリも勿論知っているはずだ。


『学園の勉強だけでも大変な量だというのに たくさんの時間をかけてくれたのだね ありがとう』


その時ふと気がついた。この布・・・

『急いで仕立ててもらうことにするよ 必ず間に合わせる』

スイーリが嬉しそうな笑顔で頷いた。

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