表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
269/445

[269]

『この執務机はビル専用だ ざっと必要なものは用意しておいたが後は自由に使ってくれ』

執務室に入り、まず最初にそれを伝えた。


ビルは大きな目を更に見開いて驚いている。

『そうか ビルはボレーリン侯のところで従者の働きを見ていたのだったな ここでのことはロニーからは聞いていないか?』

首を傾げて眉を下げる。

「申し訳ございません 聞いておりませんでした」


『いや謝るようなことではないんだ

 私の従者は立っていることが仕事ではないからな 第一側でずっと立たれていては私が落ち着かない そしてただついて回るだけでは ビルである意味がない

 これからビルにも政務を回すから私の補佐をしてほしい 勿論それだけの待遇を用意しているからな』

今までも何度となくロニーに助言を求めてきた。私にとっての従者とは助言も諫言も与えてくれるものだ。


「ありがとうございますレオ様 有難く使わせて頂きます」

『うん こちらこそ頼むよ』


『そしてもう気がついているだろうが 隣はロニーの執務机だ』

これで説明は全てだ。これ以上の説明はないし必要もない。なのにロニーがその後を継いだ。


「最初レオ様はビルさんの机しか用意なさらなかったのですよ 酷いとは思いませんか?」

ロニーがなんとも哀れそうな表情を作り、ビルに訴えている。


「いえ私はたとえ専用の机を頂けなかったとしてもお側にいるつもりでしたが ええこの部屋には書類を広げられる場所はいくつもございますから」

最初はぽかんとしていたビルも、ここまでくると笑いを堪えるのに必死のようだ。


なんだよ、自分の執務室の方が集中できてよいだろうと思っただけなのに。

でもな、当面は従者と兼任してほしいと頼んだのも私だからな。それに、よくよく考えてみると陛下のお側にはたいてい侍従がいるよな・・・


なんだか分が悪そうな気配がしてきたので、黙って自分の机に向かった。まずは積まれている手紙から確認するか。

ロニーはビルを連れて執務室内の説明を始めた。



手紙読み進めていると、ビルから声がかけられた。

「レオ様がお戻りになりましたら呼び出すようにとリンドフォーシュ子爵様から言付かっておりました お迎えに行って来てもよろしいでしょうか」

『ああ頼む 部屋はわかるか?』

「はい伺っております」


十分ほど経っただろうか。子爵を伴ったビルが戻ってきた。

「殿下度々失礼致します 本日から息子が従者に就くと聞きましてご挨拶に参じました」

照れたように少し赤くなった顔が二人並んでいる。


「息子のヴィルヘルム=ハパラ・リンドフォーシュでございます」

『おめでとう リンドフォーシュ卿 ビル』

「おめでとうございます」

二人は顔を見合わせると、やはり赤い顔をして同時に頭を下げた。


「ありがとうございます

 未熟で不慣れな父親ではございますが 息子共々今後ともよろしくお願い申し上げます」

「よろしくお願い申し上げます」

この話を初めて耳にした時は、このような形に収まることはとても想像できなかった。リンドフォーシュ卿は間違いなく、ビルにとって最高の養父だ。今後もビルは四人の両親と上手くやっていくに違いない。



挨拶を終えると卿は執務室へ戻って行った。そして入れ替わりのように第二騎士団の団長とゲイルが、新人騎士五名を引き連れてやってきた。今日はこの調子で終わりそうだな。



「殿下 改めまして本日配属になりました第二騎士団新人騎士のご紹介に伺いました」

五名が順に所属先と名前を告げる。


『王宮警護を頼む 頼りにしている

 オルサーク卿とダールイベック卿はハルヴァリー小隊か 世話になることも多いと思う よろしく頼む』

新人騎士の配属は事前に知らされている。この二人が鳶尾宮に来ることも、ヴィルホと相談のうえで決めたことだった。


ロベルト=オルサーク、男爵家の次男でアレクシーとは騎士科の同期だ。今年の騎士科卒業生は三名とも第二騎士団に配属になった。


本宮配属の三名が団長と共に本宮へ戻って行き、ここにはゲイルと新人二名が残った。

「殿下 二人の配属をご報告致します

 オルサーク卿はラツェック分隊 ダールイベック卿は私の隊に所属させます」

『そうか 今日は隅々まで見せてやってくれ ハルヴァリー卿案内を任せるよ』


「承知致しました

 ―殿下にハルヴァリーと呼ばれるのはなんだかまだこそばゆく感じますね」

『慣れてくれよ そう言われるとこちらまで気恥ずかしくなるじゃないか』

ゲイルと顔を見交わして、お互い苦笑いした。


この宮の主となり、そして間もなく成年王族になる。いつまでも子供のように名前で呼ぶわけにはいかないからな。

ゲイルも今では小隊長、鳶尾宮所属騎士のトップだ。敬意を持って接することは悪いことではないだろう?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ