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学園の正門を馬車は滑るように進んで行く。

夜会とは言ってもこの時期のこの時間はまだ昼間のように明るい。


馬車を降りてスイーリと入り口を目指す。全ての参加者が到着した後で、そこはすっかり静まり返っていた。

真っすぐに控え室へと向かう。


「来たなレオ スイーリ うわー!レオマジかよ!完全に白鳥の王子様じゃないか」

何言ってるんだ?


「本当だ!まんま白鳥の王子様だね!レオが白を着るの初めてじゃない?僕は初めて見たよ!凄いや!」

何が凄いんだよ、いやそれよりなんでここにイクセルがいるんだ?


『私のことなどどうでもいいだろう イクセル お前は何故ここにいる?』

すると眉を八の字にしたヘルミが代わりに説明を始めた。

「イクセル様にパートナーを務めて頂いたのです その・・・どうしても参加されたいと仰いまして」


成程な。

卒業生から誘われ参加するものだと思っていたが、まさか自分から売り込む下級生がいるとは驚きだ。

「そんな目で見ないでよレオ だって見たいじゃないか!」

『ヘルミ気の毒に』

「俺も同じこと言った」

「酷いや!二人とも!」

ヘルミを中心にスイーリとソフィアがクスクスと笑っている。


「スイーリ様 素晴らしいドレスですね 真珠がこんなにたくさん!ホールに入ったら更に輝くと思いますわ」

「ありがとうございますヘルミ様 でもこれは真珠ではないのですよ

 ヘルミ様のロングドレスも拝見できて嬉しいです 金青はヘルミ様の色って感じがするわ」

「ソフィア様 黒は珍しいですね 素敵です なんて美しいドレスなのかしら」


令嬢達がドレスを褒め合っているところにベンヤミンが走り寄った。

「だよな!ソフィアに似合ってるだろう?いやーレオ達も黒なんじゃないかってヒヤヒヤしてたぜ まさか白だとは思いもしなかったな」


ソフィアとベンヤミンは黒いドレスと式服を着ている。よく見るとドレスの上半身はベージュで、黒の繊細なレースが幾重にも重ねられている。普段淡い色のドレスを着ていることの多いソフィアにも、この黒のドレスはとても似合っていた。ベンヤミンが悩んでいたドレスだよな?



「アルヴェーン様 ご入場のお時間でございます」

ヘルミの順番が告げられた。藍色の式服を着たイクセルが隣に並ぶ。どうやら即席パートナーのイクセルも、ヘルミから色だけは合わせるよう言われていたようだ。

「ではお先に失礼致します お待ちしておりますね」

「待ってるね」



控え室に残っているものも僅かだ。イクセルがいなくなっただけで途端に静かになった。

「スイーリ様 先程真珠ではないとお話しでしたが・・・」

そうだ、ソフィアは真珠が好きだったよな。


「はい これは本邸の湖で獲れる貝から作られたビーズなのですよ」

「まあ!真珠とは別の貝ということですか?」

「そうなのか?そんな貝があるのか?」

ベンヤミンまで前のめりになっている。


「ええ レオ様がお進めになっている装飾なんです」

ニッコリとこちらに笑みを向けながらスイーリがビーズの説明を始めた。


「あ・・・そういやダールイベック領に行った時やたら貝殻を拾っていたよな それか!」

『ああ クリスマスマーケットでばったり会っただろう あの時ちょうど職人と話を終えたところだったんだ』


「いやーまさかそのために貝を拾っていたとはな 俺もデニス兄もてっきり思い出作りだとばかり思っていたぜ よく考えたらレオがそんなことするはずないもんな」

またもやなんとも言えない感想を言ってのけたベンヤミンを押しのけるように、ソフィアがスイーリの隣に座った。


「レオ様スイーリ様 こちらは私共も手に入るようになるのでしょうか」

『勿論だよ ソフィアに気に入ってもらえたのは嬉しいな』

「ええレオ様

 ソフィア様 他にもお色があるのですよ」

「まあ!」

二人はすっかりドレスの話に夢中だ。最初はスイーリのドレスの話を、そして今はソフィアのドレスの話で盛り上がっている。


「お二人にとてもお似合いです ベージュの地には金糸で刺繍が刺してあるのね レースもとても繊細で美しいわ」

「ありがとうございますスイーリ様 黒のドレスは殆ど着たことがなかったのですが 大変着心地がよいものですね」

ソフィアの言葉は色とは関係ないような気がしたが、気のせいだなきっと。


「ねえスイーリ様 お二人がお見えになった時ベンヤミン様とイクセル様が仰っておられましたが 私も真っ先に白鳥の王子様が浮かびましたわ」

まただ、ソフィアまで同じことを言っている。


『さっきからなんだ?それ』

三人が揃ってきょとんとした顔をしている。いや聞いているのは私の方なのだが。


ソフィアとスイーリが同時に口を開こうとした時、僅かに早くベンヤミンが大きな声を上げた。

「えっ?おいまさか知らないのか?白鳥の王子様だぞ?」

『ああ 知らん 初めて聞いた』



「・・・・・まさかこの国で白鳥の王子様を知らずに育った人間がいるとはな」

「レオ様 大変有名な絵本の題名です」

「物語の最後で白い衣装に身を包んだ王子様が 今日のレオ様にそっくりで」

「王宮の図書館にも置いてない本があるんだな?!・・・でも国中の子供が読むような絵本だぞ?」


そんな目で見られても知らないものは知らない。

()は絵本を読むような歳ではなかったからな。その誰もが知っている絵本を読まずに育ったのは私じゃない。



「ノシュール様 ご入場のお時間でございます」

ベンヤミンは立ち上がりざまに私の肩をぽんと叩いた。

「ま 気にするな

 先に行ってるぜ」

「レオ様スイーリ様 お先に失礼致します 中でお待ちしておりますね」

いや気にしないけど。全然気にもならないけれど。



そして控え室に残ったのは私達だけになった。

「ふふ レオ様でもお読みになっていない絵本があったのですね」

『酷いなスイーリまで そんなに有名なのか?』

「ええ この国の子供は皆それを読んで育ったというお話しも そう大袈裟ではないのですよ」

『そうなんだ』


レオ(あいつ)が手に取ることがなかったのならば、私が知らないのは当然だ。陛下から言われたあの言葉がなければ不思議に思ったかもしれないが、レオは絵本など読まない子供だったのかもしれないな。



「王子殿下 ご入場のお時間でございます」

『さて ようやく美しいスイーリを自慢できるな 行こうか』

立ち上がりスイーリの手を取った。

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