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「大変お待たせを致しました レオ様 素晴らしいドレスをありがとうございます」

ほんのり頬を染めたスイーリが扉の奥から姿を見せた。


くるぶしが隠れるようなロングドレスは成人して初めて着ることが出来るそうだ。今スイーリが纏っているドレスは、後ろから見るとロングドレスのようだが、前丈は膝がようやく隠れるほどの長さだ。フィッシュテールという名のデザインらしい。成人前と言うことで裁縫師がこのようなデザインを勧めてくれた。


スカートの内側が、以前贈った靴と同じアイスブルーの生地で仕立てられていて、私の上着の襟とカフスも同じ色だ。スカートの裾と、上着、そしてウエストコートには金糸の刺繍が施されてある。

この国で金糸の装飾で飾ることが出来るのは、国王夫妻のみだ。だが唯一この一番細い金糸、銀糸は貴族にも使用が認められている。細い糸を撚り合わせて使うことは禁じられていたりと、細かな規則がある面倒な装飾ではあるが、華やかさでは群を抜いている為か大変な人気だ。


パリュールもやはり成人してようやく許される装飾だ。今夜スイーリの首や耳を飾る宝石はない。

替わりにドレスの上半身には真珠のように輝く白い貝殻のビーズが無数に縫い付けられている。そして首元はレースのハイネック仕立てになっていて、そこには誕生日に贈った三日月形のブローチが飾られていた。

よかった、イメージしていた通りに付けてくれている。


肘上まで隠れるレースの手袋をつけ、美しく結われた髪には白いバラがいくつも咲いていた。

ひとつの欠点もない。今宵誰もが貴女に目を奪われるだろう。


今夜の舞踏会の主役は、今日卒業を迎えた令嬢達だとも言えるが、誰だって自分のパートナーを一番美しく見せたいものだろう?スイーリ、間違いないよ貴女が誰よりも美しい。



ついスイーリに見とれていたが、ふと顔を見ると放心しているかのようで、それでいて瞳だけはギラギラとして見えた。どうしたのだ?

『スイーリ とても美しいよ 白いドレスがよく似合っている』

私が何も言わなかったせいかもしれない。見とれてしまい言葉も掛けてやれなかった。


なのにそれでもスイーリは返事もくれなかった。足にもまともに力が入っていないのか、頼りなさげに立ち尽くしている。

『スイーリ?もしかして具合がよくないのか?それなら無理をせずに―』

「レオ様―」

言葉が重なってしまった。同時に話しだしてしまったようだ。


『あ 済まない 今なんと?』

感極まった様子のスイーリは、両方の手を握り締めてそれを震わせている。


「ああ・・・なんて尊い・・・レオ様が白い衣装を着ていらっしゃる・・・この目で見る日が来るとは思っていなかったわ・・・尊すぎる・・・」

スイーリがいつもより一オクターブは低い声で何やら唱えている。


『あ・・・えーとスイーリ?具合が悪いのではないのだね?』

少しの安堵と巨大な不安で困惑していると、後ろから大笑いが聞こえてきた。


「言ったろ?スイーリが喜ぶだろうって おいスイーリ少し落ち着けよ ドレスが台無しだぞ」

はっ?今スイーリは慌てていると言うのか?見慣れぬスイーリの雰囲気に戸惑っていたが、アレクシーは落ち着き払っている。兄にとっては珍しくない光景だとでも言うのだろうか。


はっと我に返ったようにスイーリが瞬きを繰り返した。

『レオ様 あまりの美しさに我を忘れてしまいました 尊すぎます 今日まで生きてきて良かったです やっぱりレオ様以上に白が似合う方はいないわ 眼福過ぎて目が潰れる・・・』


スイーリのはずなのにいつものスイーリと何かが違う。尊い・・・?目が潰れる・・・やっぱりどこか・・・

『スイーリ やはり無理をせず今夜は休んだ方が―』

「レオ」

今度はアレクシーが私の言葉を遮った。


「こいつさ たまにレオのこと話し出すとこうなるんだよ 多分どこも悪くないからもう少し落ち着いたら連れて行ってやってくれ じゃないと大変なことになりそうだ」

そうなのか?どこも悪くないのなら置いていく理由はない。今夜のスイーリは王都の端から端まで連れて自慢したくなるほどに美しいのだから。

『わかった

 スイーリ まだ時間があるから一度座ってはどうだ?支度で疲れただろう?』


「おい!聞こえたかスイーリ!こっち来て座れ!」

怒鳴り声に近いアレクシーの声で、ようやくスイーリがこちらへ足を動かしてくれた。


「はい レオ様お待たせ致しました お揃いで用意頂いたのですね とても嬉しいです 嬉しすぎて私・・・少し変でしたか?」

よかった、やっとスイーリが帰って来てくれたようだ。今ならもう私の言葉も聞こえるだろう。

『いや とても美しいよ 早く皆に自慢したくてたまらない』


恥ずかしそうに俯いて赤くなる様子を見ていると、もう大丈夫のようだ。

「てっきりレオ様は正装でいらっしゃると思っておりました」

『うん アレクシーにも同じことを言われたよ』


「ドレスはアイスブルーなのだと思っていたのです」

ああ、先に贈った靴がその色だったものな。正面から見た時に、足元はこの色の方が合うだろうと言うので任せたのだ。私はどんな色でも似合うと思っていたけれど。


「箱を開けた時 真っ白なドレスで驚きました」

その時のことを思い出したのか、嬉しそうに笑う様子を見ているとほっとした。

『ああ それで私が正装だと思ったのか』

白は着たくないと言ったことがあったものな。レオ(あいつ)に対抗して意地を張ったりなどくだらないことをしたものだ。


『このビーズで飾ったドレスを一番最初に着てほしくて それで白いドレスを贈ろうと思ったんだよ』

「ありがとうございます 私のためにレオ様も白い式服を着てくださったのですね」


『一度くらいは着てみてもいいかと思ったのだが さっき鏡を見てうんざりした』

「うんざり?何故ですか?」


『似合わな―』

「似合います!」

驚いた。スイーリにもこれほど大きな声が出るんだな。またアレクシーがケタケタと笑い出した。


「いえ似合うなんてレベルの話ではありません レオ様専用のお色に指定して全ての貴族に着用禁止令を出したいくらいです」

凄いことをさらりと言うな。スイーリにこんな過激な一面があるとは知らなかった。



「お前達さ 普段こんなこと話しているんだな いやレオはいつもと変わらないんだけどさ スイーリお前・・・」

アレクシーが最後まで言い切ることが出来ずにゲラゲラと笑っている。そこまで面白かったか?



「兄様 いつからそちらにいらしたのですか?」

驚いたように目を瞠る様子を見る限り、今この瞬間までアレクシーの存在に気がついていなかったらしい。



あんぐりと口を開いたまま呆然としているアレクシーと目が合った。

「いいんだ 俺はこの先道端の草のように誰にも気がつかれることなく お前達を護衛するのが仕事なのだからな それとな 安心しろスイーリ 俺もう白い服は着ないわ」


アレクシー、知っているとは思うが専任騎士の制服は白だ。

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