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ベンヤミンと花を抱えて外に出た。

「予想はしていたけどレオ凄まじかったな 馬車が花で埋まっているんじゃないか?」

『花を渡すのは聞いていたが こんなに多いとは思わなかったな』

「レオは初めてだったもんな 俺は去年顔を出したからさ デニス兄も山のように貰っていたんだぜ それにしてもレオは桁外れだけどな」



馬車に向かって歩いていた先には一際大きな花束を二つずつ抱えた令嬢が二人、私達のことを待っていた。

「ご卒業おめでとうございます レオ様ベンヤミン様」

「ご卒業おめでとうございます レオ様ベンヤミン様」

一番会いたかった顔だ。


『ありがとうスイーリ ソフィア』

「ここにいたのかー ありがとうな」


「お渡ししたかったですが お二人ともいっぱいですね 馬車までお持ち致します」

「悪いなスイーリ」

そして四人並んで馬車まで歩く。


「なんだか実感湧かないな 秋になったらまたここを四人で歩いていそうな気がするのにさ」

スイーリとソフィアは少しだけ複雑な笑顔を浮かべ、何も言わずに歩き続けた。


馬車の前で待っていたロニーに持っていた花束を預けているところへ、ベンヤミンの従者が駆け寄ってきた。「ありがとな 頼むよ」とベンヤミンから渡された花を抱えて先に馬車へと戻って行く。


「レオ様 受け取って頂けますか 二年間ありがとうございました」

『ありがとうスイーリ』

「レオ様 大変お世話になりました お受け取り下さい」

『ありがとうソフィア』


ベンヤミンも二人から花を受け取った。

「ホールにいなかったからさ 二人は来ないのかと寂しかったんだぜ ありがとな」

「ホールには一度参りましたが とてもお二人には近づけませんでしたわ」

「ええ ヘルミ様とビルさんにはなんとかお渡しできたのですが」

そうだったのか。くそ、スイーリがいたことに全く気がつかなかった。でもここでゆっくり会えたからかえってよかったかもしれない。



『そろそろ帰ろう 二人はこれから夜会の支度で忙しいだろう』

「そうだな 帰るとするか」

ここでベンヤミン達とは一度別れて、スイーリと二人になった。


『馬車まで送るよスイーリ』

「はい ありがとうございます」

自分の卒業にはなんの想いもなかったと言うのに、こうしてスイーリを馬車まで送る僅かな距離で、何とも言えない寂しさが込み上げてきた。良かったな、私にも人並みに寂しいという感情はあったようだ。


くるりと振り返って立ち止まったかと思うと、スイーリはじっと私のことを見上げている。

『ん どうした?』


「しっかりと目に焼き付けておこうと思いまして 制服姿のレオ様は今が見納めですから」

そうだよな、私もスイーリの制服姿を見るのは今日が最後だと思っていたけれど、スイーリにとっても同じことだったな。

『ああ 私もスイーリの姿を見納めておくよ』



馬車の前でじっと向き合う姿は滑稽に映っただろうか。それでも構わないさ、スイーリが満足するまでここにいるよ。

「―素敵ですレオ様 しっかりと心に残しました」

『私も刻み込んだよ ありがとうスイーリ』



『帰り道に気を付けて 後で迎えに行く』

「レオ様もお気を付けくださいね お待ちしております」

スイーリが馬車に乗り込む姿を確認して、来た道を引き返した。




戻った馬車の中は文字通り花に埋もれていた。八番街に店を構える花屋でもここまでの数は揃えていないだろう。

「申し訳ございません 馬車をもう一台用意するべきでした」

ロニーが済まなそうに花をよけて、なんとか一人分の場所を空けている。

『ロニーが済まなく思うことはない 皆の気持ちだからな有難いよ』

「暫くの間ご辛抱くださいませ 直接本宮へお送り致します」

静かに扉を閉めて、ロニーは御者台へと急いだ。



本宮で馬車を降りる。馬車はそのまま鳶尾宮へと向かった。

『お二人をお待たせしているだろうな 急ごう』

ロニーと共に殿下の私室へと足早に向かう。


『大変お待たせ致しました ただいま戻りました』

陛下と殿下はテラスでお待ち下さっていた。

「おかえりなさいレオ 卒業おめでとう」

「卒業おめでとうレオ」

『ありがとうございます 無事卒業して参りました』

用意されている席に座り、やっと一息つけた。喉が渇いたな。



「レオは今日この後も長いからな 早速始めるか」

陛下が合図を送るとすぐに料理が運ばれてきた。

「ふふ 二日も続けてレオと食事を頂くのは珍しいわね」

その通りだ。学園を卒業しただけだと言うのに、多忙を極めるお二人の時間を二度も頂くとは。


『私のためにお時間を頂きありがとうございます』

「ふふ せっかくレオがそう言ってくれているから そういうことにしておこうかしら」

「そうだな そういうことにしておいた方がよいな」

お二人が顔を見合わせて笑っている。


「なんだ?わからないという顔をしているな そのうちお前にもわかる お前に子ができたらな」

『そう・・ですか』

確かによくわからない。でもお二人が笑っておられるから、これ以上恐縮するのは止めておこうと思う。


良い香りのする炭酸水がグラスに注がれた。淡いピンク色をしている。

一気に飲み干したかったが、お二人の手前半分ほど残して一度手を離した。旨いなこれ。

「ふふ 喉が渇いていたみたいね 美味しいでしょう?我慢しなくていいのよ」


バレていた。

『はい それでは遠慮なく頂きます』

グラスの残りを飲み干すと、すぐさま同じものが注がれた。


「最近ね シロップ作りが流行っているのよ」

殿下が同じ炭酸水を一口飲んでみせる。

「お茶会の時にね それぞれ自慢のシロップを振舞うの これは私のお気に入りよ」

『旨いですね 香りもいい』


「だろう?この香りは特別だからな」

何故か陛下が自慢している。絶対陛下が作ったシロップではないだろう。誰が作っているのかはわからないが、陛下ではないことだけは確かだ。


「このバラの名は私がつけたのだ 香りも素晴らしいし姿も大変美しくてな」

陛下がバラに興味がおありとは知らなかった。いやその前にこれがバラのシロップだと言うことも今初めて知った。

『そうでしたか すみません花にはあまり詳しくなく』


「いやなに 私も花にはうといのだがな」

今は時期が合わず咲いていないそうだが、鮮やかなピンク色をした大輪のバラの名はクイーン・イレネと言うそうだ。

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