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当たり前だが、叙任式に参列するのは何も他国からの賓客ばかりではない。

陛下は国内全ての貴族に召集をかけた。今年の夏は国中の貴族が王都に集結するのだ。


王都に邸を持たないものは叙任式に間に合うようギリギリに到着する。王都の宿はどこも満室だ。

そしてタウンハウスを有するものの中には、混雑を避けて早めに到着するものも少なくない。


王都から最も遠い領地を治めるボレーリン侯爵もその一人だった。

「殿下 ボレーリン侯爵が本日王都に到着され 現在国王陛下と謁見中でございます 陛下との謁見後 鳶尾宮にて王子殿下に謁見賜りたいとのことでございます」

陛下の従者が侯爵の到着を伝えに来た。

『わかった』



鳶尾宮に移り一ヵ月ほどになるが、私は宮での時間をほぼ私室で過ごしている。

さて、どこで会おうか・・・


『ロニー ここでいいよな?』

この宮にも謁見室は一応備わっている。だけどなー自分の父より遥かに年長の、祖父と言ってもいい年齢の侯爵と一対一で謁見室に入るのは気が重かった。


同意してくれるものと信じて疑っていなかったのに、ロニーは渋い顔をしている。

「せめて執務室でお会いになっては如何でしょうか」



・・・そうか、本宮でも居住エリアに外部のものが立ち入るのは稀だ。私も宮の主になった以上公私の線引きはしっかりとするべきだ。

『そうだな わかった これを機に執務も向こうに行ってやるようにするよ』

資料室も図書室も、必要なものは全て執務室の周囲に揃っている。私室に持ち込む方が間違っていたのだ。数時間のためだけに執務室まで行くのが面倒だった、というわけじゃない。本当だ。


そうと決まれば早速移動しよう。机の上に広がっていた書類を全てまとめて立ち上がった。



ついでに資料室に立ち寄りいくつかの資料を取り出す。

陛下からは早々に全ての直轄地管理を渡された。向こう三年はほぼ王都を不在にすると言うのに問題ないのだろうか。まあいい、そんなことは陛下も承知のことだ。その上で渡されたのだから、私は出来る時に出来ることを全てやる、それだけだ。


現在二十四ある直轄地のうち二十三にはそれぞれ担当官がいる。その二十三名の官僚も既に鳶尾宮へ異動済だ。


始めに着手するのは自分が任されている二十四番目の直轄地だ。その視察を終えてあの地の方針が固まり次第、順に残り二十三ヵ所の精査に取り掛かるつもりでいる。直轄地は代官による差が激しいからな。全てがドゥクティグ卿の町のように整備されているわけではないはずだ。





~~~

『ボレーリン侯爵 長旅ご苦労様 長年に渡る国境警備に感謝する ボレーリン領に変わりはないか?』

「王子殿下 遅い時間にも関わらずお時間を頂き有難うございます 有難いお言葉に感謝致します 幸い国境の町も平和そのものでございますぞ これも陛下の類稀なる治世の賜物と感謝の限りでございます」

『それは何よりだ』


確か七十を超えたはずだが、ピンと伸びた背筋といい、いまだ第一線の武人と言われても納得してしまうほどの貫禄だ。矍鑠とは侯爵のためにある言葉かもしれない。



ビルのことも私から話しておいた方がいいだろう。

『卒業後ヴィルヘルム=ハパラに来てもらうことになったんだ 私の従者を任せようと思う』

「お取立てに感謝致します あの子はワシにとって孫のようなものでしてな あの子が殿下の従者に・・・感慨深いものがありますな」

驚かないのだな。予想でもしていたのだろうか。ビルは余程侯爵に大切にされていたらしい。先程まで以上に表情も柔らかい。孫のように思っていると言うのも大袈裟ではないようだ。


『来年ボレーリン領を訪問する時 ビルの両親にも会えたらと思っている』

その頃、ビルには既に別の両親がいるのかもしれないが、産み育ててくれた二人に会うことが道義に反することはないはずだ。


「殿下のお越しを心待ちにしておりますぞ お見せしたい場所もいくつもございましてな がビルの両親ならばその前にお連れ致しましょう」

『いや・・・侯爵もそう頻繁に領地を空けるわけにもいかないだろう 来年私が行く時で構わないさ』

往復にかかる日数を考えると、年に二度も行き来することは無駄としか思えない。



「二人は今頃寮でビルに会っております 今回同行させて参りましてな」

なんだって?!王都に来ているのか。それならばビルのことだ。早速あの話も切り出していることだろう。

『そうだったか ではビルも交えて一度時間を取ろう』

「承知致しました 拙宅へご一報頂ければ直ちに登城致します」


この口ぶりだと侯爵自ら連れてくるつもりのようだ。そこまで目をかけているというわけか。画家を王都まで同行させることだけも充分驚きに値するが。


『出来る限り早く時間を取りたいと思うが まだ学生の身分なもので身体が空くのが遅い時間になる 申し訳ないがそれでも構わないだろうか』

「はい 殿下のご厚情に感謝申し上げます」


近日中に連絡をすると約束してこの日は終了した。




『ロニー リンドフォーシュ子爵はまだビルと面識はなかったな?』

「はい そのはずでございます 子爵に一報入れましょうか」

リンドフォーシュ卿も今回鳶尾宮に異動してきた官僚の一人なのだ。引退が近いため、負担の軽い部署へ配置替えになったとのことだが、都合がよいと言えばよいよな。


『この機会を逃せばビルの両親と会う機会はないだろうから 一度顔を合わせる方が良いのではないだろうか』

「はい私もそう思います」


『まあ まずビルに話を聞いてくるよ 卿は毎日ここにいるからな』

ビルが縁組に前向きだとしても、両親が反対している可能性もゼロではない。今日ビル達がどんな会話を交わしたのか、それを聞いてから動いても遅くはないだろう。

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