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昼間のように明るいが、もう八時を少し過ぎた頃だ。

一度それぞれの客間に案内された皆が、再び集まり始める。


「とても素敵なお部屋でした ヒマワリをたくさん飾って下さってありがとうございますレオ様」

『気に入ってもらえてよかったよ アンナ』

勿論私の指示だ、と言いたいところだが、残念ながら取り仕切っているのは全てロニーだ。ロニーには女主人の能力すらも備わっているのか。



晩餐用のホールに入ると、夏のもてなしらしく、白いテーブルクロスの上には緑と白で涼し気にまとめられた花が飾られており、燭台もガラスで涼やかに統一されていた。

今夜もこの間の茶会のように少女趣味全開なテーブルなのでは、との不安は杞憂に終わったようで、ほっとしている。



最初の皿が運ばれてきた。初夏らしい色とりどりの野菜を中心に、いくつかの前菜が盛り付けられている。

よく冷えた白ワインが皆のグラスを満たしていく。

『じゃー乾杯』


グラスに口をつけようとした時、周りの目が異様なことに気がついた。

『どうした?』


「どうした?じゃないよー 乾杯って・・・それだけ?何か挨拶とかないの?」

目を剥いたイクセルが文句を言い始める。

『必要ないだろう 先週も会ったばかりだしな イクセルには昼にだって会っただろう』



なんだこの沈黙は。友人と飯を食うだけだろう?大層な挨拶など要らないじゃないか。

デニスがクツクツと笑い出す。それにつられてアレクシーも。ヘルミも堪えているのかいないのか、ナフキンで口元を覆っている。

「いいんじゃないか これがレオだろう?イクセル」

「だな それだけ俺達に気を許してるってことなんだからさ 大目に見てやれよ」


「それもそうだね うん確かにこれがレオだね」

なんだよ、勝手に納得して。

「うん 乾杯!」

「乾杯」「「乾杯」」


「旅行には行ったけれどさ 初めてだよね!王都でこうして皆で過ごすのって」

「そうだな この王太子宮に人が招かれるのも何十年ぶりのことなのだろうな」

「代が替わって初めて招かれたのが俺達なんだぜ そう思うと少し緊張しちまうな」


・・・・・

ああもうわかったよ!

『今日も集まってくれて感謝する 蛍が飛び始めるまでの時間楽しんでくれ』



「さっきよりはマシになったな」

「多少はな」

「どうだイクセル?」

「うん レオにしては頑張った方じゃないかなー」


なんでこうなった。

ニヤニヤとした視線を避けてワインを喉に流し込んだ。



「お!これサーモンだ 旨い!ワインと合うよ」

テリーヌを口へ運んだデニスが顔を綻ばせている。

「変わらないねー デニスのサーモン好き」

「だよな デニス兄は水出しといたってサーモンと合うって言いそうだぜ いやでも本当旨いわ」

一口目からなかなか好印象のようだ。私もここの料理人の作る料理を食べるようになってまだ数週間だが、気がつけば食事を楽しみに待つようになっていたくらいには気に入っている。


「この白と緑はなんのお野菜でしょう とても美味しいわ」

「アルヴェーン様 カリフラワーとアスパラガスでございます」

ヘルミの疑問にロニーが即座に返答する。


「まあ!これカリフラワーなのですね 甘くて味も濃くて 特別に作られたお野菜なのかしら」

「お口に合いまして幸いでございます」

サーモンとカリフラワーとアスパラガスの三層に仕立てられたテリーヌは、皆の胃袋を掴むのに十分な役割を果たしたようだ。


「このジュレも夏にぴったりな前菜ですね カラフルで見ているだけで楽しいわ」

王都近郊の直轄地、ドゥクティグ卿のいる地域で採れる野菜は、収穫したその日の午後には王都に届けられる。夏場はこうして新鮮な野菜をふんだんに食べることが出来るのだ。



前菜でひと盛り上がりした次には、スープが用意された。

運ばれてきたスープ皿の中には白くて丸いものがひとつ。


「ん?これスープ皿だよな」

「レオ様 こちらのお料理は―」

皆が不思議そうに皿の中を覗き込んでいる中、ベンヤミンが「あっ!」と小さく声を上げた。


「レオ!これってあの時の」

『そうだ』

ロニーが順にスープを注いで回ると、一斉に歓声が上がる。


「まあ!中から―」

「凄いや!こんなスープ初めて!」


ここの料理長はドゥクティグ卿の邸で修行を積んできたと言う。採用が決まりすぐロニーが向かわせたのだそうだ。他にも数名の料理人が約二年の間、ドゥクティグ卿の下で世話になっていたらしい。


「それは嬉しいな これからレオのところに来たらいつでもあの味が楽しめるってわけか」

「ベンヤミン様 レオ様の宮殿をまるでレストランかのように・・・失礼ですわ」

ソフィアがベンヤミンのことを窘めながらも、スイーリと顔を見合わせ笑っている。


「いえ 食べることは大切なことでございますから」

給仕中のロニーが自ら話しだすことは極めて珍しい。初めてのことかもしれない。

「こちらの宮にお移りになられましてから レオ様がお食事を抜かれることがなくなりました 良い料理長を得ることが出来まして私も安心しております」


こんな風に言われると本宮の料理長の腕が悪いのかと思われかねないが、決してそうではない。

ただ、ここの料理長の料理にも何かわくわくとさせる不思議な力があるのだ。ドゥクティグ卿の料理人がそうだったように。


「このことが知れ渡ったら 本宮からこちらへ異動希望を出す官僚が増えそうだな」

「騎士もな 再編成の要望が上がるかもしれないな」

勝手に来られても困る。ここに来るのは陛下から私が引き継ぐ政務の担当者だけで充分だ。


「いや待て うっかり聞き流すところだった」

アレクシーの声色が変わった。ちっそのまま聞き流せばよいものを・・・ロニーも余計なことを言う。


「レオ 飯を食わないとはどういうことだ?その話は聞いてないぞ」

なんでいちいちアレクシーに飯を食ったと報告しなければならないんだよ。


『聞いていなかったのか?抜くことがなくなったとロニーは言ったはずだが』

「今までは抜くことがあったと言うことだろう?いいかレオ 何度でも言うが身体が資本だ 大体だな―」

始まってしまった。こうなるとアレクシーの小言は長い。



お説教は次の料理が運ばれてくるまで続いた。

一人くらい助けてくれるものがいてもいいようなものを。

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