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「レオ様 門から続く両脇の樹はリラですか?」

『うん全てリラの樹だ もう少し早く招待できればよかったな』

ひと月前には白や紫の花がぎっしりと咲いていたのだが、今はもう残っている花はない。


「素敵ですね 満開の頃には良い香りが漂っていたのでしょうね とても好きな花なんです」

『いつか満開の頃にも招待するよ ヘルミ』



六月の上旬、私は引越しをした。今日は披露目も兼ねて新しい宮で初めての茶会を開いている。

「ここがレオの宮か」

「どことなくレオらしさがあるな」

「二階も見せて!」


茶会の前にざっと宮の中を案内する。

「廊下から中庭が見えるのがいいですね 開放的ですし明るくて清々しく感じます」

「温室もあるのですね!」

『後で庭も案内するよ』


公用のエリアを一通り案内してからサロンに入った。私室と執務室以外の内装はほぼ任せきりだったため、それなりの華やかさはある。私に選ばせていたら医務室か何かと勘違いされそうだからな。

「まあ!可愛らしいサロン!」

「バラの良い香りがします 素敵ー素敵です!」


「これ レオの趣味?・・・じゃなさそうだね」

「どう見ても違うだろう 茶会デビューの令嬢が用意したみたいな席だな」



令嬢達と男共の感想の温度差が激しい。

この宮で客をもてなすのは今日が初めてだ。全て任せると言ったのは私なのでこれを受け入れるしかないが、なんとも乙女な仕様で、私が招かれた立場だったとしても気恥ずかしくなるようなセッティングだった。

『練習台にさせて済まないな ここの侍女達の好みのようだ』

ニコニコと笑みを浮かべて並んでいる侍女達に聞こえないよう、小声で言い訳をする。



皆が席に着いたところで茶を用意した。

『喉が渇いているだろうと思って一杯目だけは冷たいものを用意した』

霜のついたガラスのカラフェから紅茶が注がれる。


「いいねー冷たいものが飲みたいなって思っていたんだ」

「そろそろ夏も近いな 冷たいものが欲しくなる季節になったよな」


「レオ おめでとう!」

「おめでとうございます レオ様」

『ありがとう そしてようこそ 今日は楽しんでいってくれ』


紅茶を飲んだ令嬢達が目を合わせて笑顔を浮かべている。

「この味懐かしい 邸ではどうしても同じ味にならなくて」

「はい あの時の味は今でも憶えていますわ」

「あの日以来私もこれが大好きになりました でもやはり同じ味にはならないのですよね」


こんな時、次に話すものは一人しかいない。

「ねえねえ 何が懐かしいの?僕達にもおしえて?」


「イクセル様 このアイスティーに何が入っているかお分かりになりますか?」

アンナがイクセルに質問返しをする。

「これ?んー甘酸っぱいよね なんだろう・・・ベリーだとは思うけれど」

「リンゴンベリーのシロップですわ 私達が初めてレオ様にお会いした時出して頂いたお茶なのです」

「あの日のことは今でもしっかりと憶えております」


今日このアイスティーを選んだのは、彼女達が言うように初めての茶会のことを想ってのことだった。

初心に帰るというのでもないが、あの時と季節もほぼ同じ、多分私も懐かしさを感じていたのだろう。それにしても全員が憶えていたとは思わなかった。

あれから八年、か。

長かったようでもあり、過ぎてしまえばあっという間だったな。



「レオ様 このスイーツはカールさんが作られたのですか?」

アンナは既にスイーツのチェックを始めていたようだ。目尻が少しだけ下がっているところを見ると、見た目には合格を出してくれたらしい。

『いや ここの製菓長はブルーノと言うものだ カールが自分の右腕だと言っていたよ』


厨房の料理人は殆どロニーが探してきたもの達なのだが、製菓だけはカールがこの男を採用してほしいと推薦してきたのだ。


「カールさんのようでカールさんではない気がしていたのです スッキリしました」

そう言うとアンナは皿の上にいくつかの菓子を取り分けた。


『凄いな 何故わかったんだ?』

「クリームの絞り方やデコレーションの仕方でなんとなくそう感じました」

焼き菓子は全くわかりません、とアンナは笑いながら付け加えた。


大したものだな。それも含めてスイーツ好きと言うわけなのか。スイーツ女王の異名は伊達ではないな。

『アンナ 味も採点してやってくれ カールの元で働いていたからそう変わらないはずだけれど』


「旨いぜ なあソフィア」

早速チーズのタルトを食べていたベンヤミンが、ソフィアに同意を求めている。いや少し待ってやれよ、ソフィアの皿はまだ何も乗っていないぞ。



数年前までは月に何度も集まっていたこの仲間達とも、随分と会う頻度が減った。とは言ってもアレクシーとは毎朝鍛錬で顔を合わせているし、学園へ行けば週に数回皆で昼食の時間を過ごしている。

一番会う機会が減ったのはデニスだな。


「デニス様にお会いするのは久しぶりの気がします」

「お変わりありませんでしたか?」

令嬢達も同じことを考えていたらしい。


「そうだよな 俺は寮で毎日会ってるけどさ って俺だって久しぶりだろう?」

納得いかない顔でアレクシーが付け加えた後半部分は綺麗になかったことにされた。


「レオは卒業後は益々多忙になるだろうからな こうして集まれる機会が次いつになるかわからんな」

『来年の三月までは出来る限り時間を取るよ 私が会いたいからな』

デニスは卒業後はオースブリング家に入ると言っていた。

アンナも私達が留学から戻る頃には、パルードへ発つだろう。九人で会える時間はそう長くは残っていない。



「それじゃあ次の約束も決めておかないとね!」

「叙任式の前にあと一度は集まりたいですね」

「久しぶりにアルヴェーン家の犬達の様子も見に行きたいな」

「是非いらして下さいませ ご用意いたしますわ」

「ありがとうヘルミちゃん レオも決定でいい?」


感慨にふけている場合ではなかったな。先のことよりも今は目の前にあるものを大切にしよう。

『ああ 私も犬に会うのが楽しみだ 必ず参加するよ』

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