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その時私はベーレング語の復習をしていました。なかなか憶えられない単語があって、繰り返し書き取りをしていたのです。


ノックが聞こえました。誰かしら?カリーナではないみたい。

カリーナは私の侍女です。彼女のノックだけは聞き分けることができて、今の音はそれとは違っていました。


「どうぞ」


入ってきたのは家令のテオドルでした。


「お嬢様 王宮より書簡が届きました」


「私宛てに?」


「はい お嬢様宛てでございます」


愚問だったわ。家令が私の部屋まで来たのですもの、私宛てに決まっているじゃない。余程ベーレング語で頭が煮詰まっていたのね。



「レオ様からね!もう次のお茶会があるのかしら?」


「いえ、王子殿下ではなく国王陛下からの書簡でございます」


今度は正しく驚きました。国王陛下自らが私宛てに認められたと?一体どのような内容なのでしょう?目の前に答えはあるのに、あまりの驚きで手を伸ばすことすらできませんでした。


「え・・・」


「陛下から私宛てに?お母様かヴィルホ兄様ではなく?」


「はい 間違いございません」


そう言って渡された書簡には確かに私の名前だけが書かれてありました。


「ありがとう」


少し指先が震えましたが、それを受け取ります。見たことのない蝋印が押してありました。これが国王陛下の御印なのですね。

ペーパーナイフを取り出し封を切りました。そこには一行だけ


ー 明日の夕刻登城するように ー



どれくらいそうしていたのでしょう、封筒と便箋を持ったまま立ち尽くしていたようです。「お嬢様?」とテオドルの心配そうな声が聞こえました。


「明日の夕刻登城せよと仰せだわ」


何せそれしか情報がないのです。かいつまむことすらなく書いてあるままを家令に伝えました。


「奥様にお伝えして参ります」


「ええ お願いー」


すぐさま踵を返すテオドルでしたが、一瞬焦りの表情を見せたことが余計に私を不安にさせます。テオドルのあのような表情は初めてみました。


何があったの?お茶会で何か失敗したのかしら?私何をしてしまったの?


パタパタと足音が聞こえたかと思うと、青い顔をしたお母様が入ってこられました。


「スイーリ 今聞いたわ」


「お母様 私ー」


足はガクガクするし、腕は震えが止まりません。


「落ち着いてスイーリ。まだ悪いお話しと決まったわけではないわ」


「でもこれしか書かれていないのですもの。何かしてしまったに違いないわ。お母様 私どうしたらー」


差し出した書簡にお母様も目を通しました。でもね、数秒もかからないのよ。たったの一行ですもの。


「大丈夫落ち着いて。お父様にも使いを出しましょう。嗚呼どうしてこのような時に領地へ行っているのかしら」


お父様は領主の仕事があるため、しばらく王都を留守にしているのです。


「お母様、お父様にはお伝えしなくて結構よ。お父様のお耳に届くまで何日も掛かってしまうわ」


「ええ、でもこのような重要なことをお伝えしないわけにはいかないわ」


ダールイベックで陛下自ら呼び出しの命が出されたのは、私が最初ですものね。いずれはお父様の耳にも届ける必要があるでしょうけれど、届くころには全てが終わっている気がするの。ううん、今お父様が王都にいらしたとしても結果は変わらないと思うのよ。


「明日、私がお城から戻ることができたらお伝えしてください」


「スイーリ!」


でもお母様は決して「そんな冗談よして」とは言いません。呼び出しの理由如何では2度とこの邸に戻れないかもしれないということを、お母様も理解していらっしゃいますから。


もう書き取りどころではなくなりました。怖い、レオ様に会いたい。

震える私をお母様は優しく抱きしめてくださいました。そのまま背中をトントンとあやすようになで続けてくれます。そうした後ふと思い出したように離れたかと思うと私の両肩に手を置いて


「スイーリ、これは悪いお話しではないわ。何か咎があったのだとしたら 明日の夕刻などと時間を空けるはずはなくてよ」


「そ、そうなのでしょうか?」


もう藁にでもすがる気持ちです。そうよね、そう信じたいです。


「大丈夫、お父様も私もついています。あなたは何も心配しないで登城の準備だけしておきなさいね」


「わかりましたー」



とは言ってもとても落ち着くことはできません。食事も喉を通らず、ほとんど眠れぬまま朝を迎えました。

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