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『スイーリ 十七歳の誕生日おめでとう』
「ありがとうございます」
こうして二人で作り上げたケーキを見ながら乾杯をした。
キャンドルを吹き消すかを聞いたら、「もう少しこのまま眺めていたい」そうだ。可愛いな。
「とっても楽しかったです お菓子作りがこんなにもワクワクすることだって知っていたら もっと早くに始めるのだったわ」
カールの提案は、物珍しさもあってそれなりに楽しめる余興になるとは思っていたが、ここまでスイーリを喜ばせるとは想定していなかった。
『スイーリが楽しめたのなら良かった カールの提案だったんだよ』
「まあ!カールさんにはお礼を言わなくては!
レオ様 また今度教えてくださいますか?次は何がいいかしら」
何故か私が教えたことになっている。絞り袋の持ち方を少し説明しただけで、後は全てスイーリの力だぞ。
でもスイーリが嬉しそうにしているからいいか。菓子作りはもうすることもないだろうと思っていたが、いつかスイーリと二人で作るのも悪くない。
『ケーキを切る前にこれを』
スイーリの前にプレゼントの箱を置いた。
「ありがとうございます 二つも?ですか?開けてみてもいいですか?」
今年はわけあって箱が二つになった。少し大きな箱の上にもう一つ小さな箱を重ねて置く。
『うん 開けてみて』
最初に小さな箱の包みを解く。これは過去に何度か贈ったことのあるクーレンミッキの作品ではない。クーレンミッキでは扱っていない石だからだ。
「あっこの石は・・・レオ様 これは以前レオ様がノシュールの周年祭でお付けになっていたものと同じ宝石ではありませんか?」
よく憶えていたな。
王太子に受け継がれているものと同じ、真夏の青空のような色をしたこの宝石は、この国では一切流通していない。王家が独占しているからだ。父である陛下と私の瞳の色に酷似しているのは偶然だ。
今年はこの石を贈ることが出来る。
成年前の贈り物だから清楚なものをと依頼して作らせたこのブローチは、比較的小ぶりな石を用いて三日月型にデザインされている。この特別な空色の宝石は、石と石を繋ぐように配置されているダイヤモンドにも負けることなく美しい光を放つ。
「レオ様の瞳のお色・・・嬉しいです ありがとうございます とても綺麗」
『気に入ってもらえてよかった スイーリに似合うよ もう一つも開けてみて』
「はい 二つもありがとうございますレオ様」
『うん』
「可愛い!こちらにも同じ宝石がついています!なんて素敵なの!」
もう一つの贈り物は靴だ。アイスブルーの絹地で作られた夜会用の靴。飾りにやはり同じ石をふんだんに使っている。
『この靴と揃いのドレスも贈りたかったのだが 間に合わなかったんだ
スイーリ この靴を履いて卒業舞踏会のパートナーになってもらえないか?』
箱ごと胸に抱き抱えていたスイーリが、こぼれ落ちそうなほどの笑顔を見せた。
「大変光栄なお話をありがとうございます 喜んで務めさせて頂きます」
『ありがとう ドレスは完成したら届けるよ 楽しみにしていて』
「はい とても楽しみです 嬉しい・・・ありがとうございますレオ様」
『こちらこそ パートナーを引き受けてもらえて嬉しいよ』
これを身に着けたスイーリを連れて歩けることが、私にとってどれだけ誇らしく、そして待ち望んでいたことか、今のスイーリには多分わからないだろうね。きっとスイーリが噛み締めているその何倍も、私は今喜びに満ち溢れている。
大切な私の婚約者。
スイーリ、今この国でその宝石を身に着けることが出来る令嬢はただ一人、貴女だけなんだよ。
「レオ様 私からもお渡ししたいものが」
少しだけお待ち下さいね、とスイーリが室内で控えている彼女の侍女の元へと向かった。
「お待たせ致しました これを
受け取って頂けますか?」
手のひらにちょうど乗るくらいの大きさの箱、白いアザレアが描かれた包み紙で丁寧に包まれ、緑色のリボンが掛けてある。
『ありがとう ―驚いたな スイーリの誕生日に私までプレゼントを貰うとは
今開けてもいい?』
「はい 是非ご覧ください」
リボンを解いて包み紙を開く。黒い革張りの箱の蓋を開けると、中には大粒のダイヤモンドが二つ収められていた。
「婚約指輪のお返しに選びました お使いいただけると嬉しいです」
『ありがとうスイーリ 大切にする』
それはカフスボタンだった。
「同じ石を身に付けたくて あっでもハートの形はレオ様には喜ばれないかなと思いまして 形だけは違うのですが
・・・いつお渡ししようと迷っているうちに今日になってしまいました」
身に着けるものを貰うってことは、思っていた以上に嬉しいものだな。
『うん 嬉しいよ 毎日使う 早く使いたい』
「そう仰って頂けて私も嬉しいです お揃い ですね!
今日だけでお揃いが二つも出来ましたよ!」
そうか、揃いのものをそこまで喜ぶことも知らなかったな。考えてみたら五年間一度も贈ったことがなかった。
思いがけなかったプレゼントの交換が終わり、いよいよケーキにキャンドルを刺す番が回ってきた。二人で一本ずつ刺していく。
『来年は誕生日を直接祝えなくて済まないな 特別な年なのに・・・』
一年後の今日、スイーリが成人を迎える日に私はどこかの領地にいる。スイーリに祝いの言葉を直接伝えることができるのは、クリスマス近くになってからだ。
「離れていても私は婚約者様と気持ちが繋がっていますから
どこかの町で思い出して下さいね 私もレオ様のお誕生日はいっぱいお祝いをします どこにいても届くようにたくさんお祝いをしますね」
『うん ありがとう 離れて誕生日を迎えるのは最初で最後だろう 一度くらいはそんな年があってもいいかもしれないな どこの町にいようと誕生日を祝うよ 約束する』




