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私は自分のことを短気ではないと思っている。


忍耐強いとまではいかないかもしれないが、それなりに感情を押し殺す術も身に着けているつもりだ。


しかし、そろそろ限界も近い。私は知らなかったのだ。初めての従者がロニーだったため、基準がロニーなんだ。それがどれほど稀有な存在だったのか、今回身をもって知った。

いや勿論今までだってロニーがどれほど有能な人物なのかは知っていたさ。

しかし、従者と名乗るからには多少の差はあれど、皆それなりの実力を身に着けているだろうと思い込んでいた。


ロニーが一を聞いて十を知るとするならば、彼らは一は一のままで当然だと思っているような人物だった。

陛下の執務室で見かけないわけだ。


陛下がわざわざあの二人を選んだわけではないだろう。きっと陛下の下には他にもいるはずだ、あのような従者が。



今日もロニーへの報告を綴る。

ロニーが安心して休暇を続けられるよう毎日報告を渡すと言ったのは私だ。

しかし書くことがない。その代わりに、ロニーが復帰したら任せたいことを綴った走り書きの方が、日に日に長くなっていった。


~今日も新しい報告はない。私ものんびり過ごしているから、ロニーも自分の時間を有意義に使ってくれ。



報告することがないのは事実だ。手紙一通安心して託すこともできず全てが滞っているからだ。

マンネルは約八ヶ月、フェルダールに至っては三年近く陛下の従者をしているのだ。今まで彼らは一体どんな仕事を任されて来たのか、不思議で堪らない。


スコーグに報告を渡して私も部屋の外に出る。

「殿下 どちらへ?」

夜勤の騎士が近づいてきた。


『気晴らししてくる ジェフリー付き合ってくれるか?』

「はい!喜んでお供させて頂きます!」


訓練場には明かりが灯っていた。数名ずつ、二つのグループが鍛錬をしている。

ジェフリーは騎士の中でもかなり気さくな性格だ。今夜の当番が彼で良かった。

剣を取って戻ってきたジェフリーから一本受け取る。



~~~

「殿下ありがとうございました」

『こちらこそ 付き合ってくれて助かった』

一時間くらいだろうか、たっぷり汗を流して溜まっていた鬱憤も一緒に流れ落ちたような気がした。


「夜勤は退屈なんですよ でも今夜ばかりは当番に当たっててツイてました」

退屈なのは良いことだ。騎士には多少憂鬱かもしれないがな。

『私もジェフリーがいて良かったよ 今夜は走る気分じゃなかったからさ』

全ての騎士が鍛錬に付き合ってくれるわけでもない。無理やり付き合わせても、幼い子供を相手にするかのように扱われては、気晴らしどころか余計ストレスが溜まるだけだ。


「―原因は あのお二人ですか?」

物怖じしない男だ。ズバズバと核心をついてきて心地よくすら思う。

『まあな 悪いやつらではないのだが』

そうなのだ。どちらも決して悪意のあるような人物ではない。従者には向いていない、と言うだけだ、多分。


「典型的な貴族だと自分は思いますね うちの父も似たようなもんです」

『そうか』

典型的な貴族、か。それもそうだよな。彼らは決して従者修業に来ているわけではないからな。平たく言えば箔付けだ。国王の従者を務めていたという肩書を持って当主を継がせたいのだろう。くだらないよな。


そうだ、時期が来れば戻る人間だ。そうだな、逆にそのことを利用すれば。

残り数日を彼らと共に過ごす意味をようやく見つけたような気がした。

『ジェフリー 明日の帰りの馬車の御者を務めるものに伝えておいてくれないか』

・・・・・・

「はい!お伝えします」



~~~

翌朝

「殿下 いってらっしゃいませ」「いってらっしゃいませ」

『行ってくる

 今日は帰りに見に行きたい場所がある 二人も付き合ってくれ』

「承知致しました」「ご一緒させて頂きます」

いつも仮面のような二人の表情が、心なしか嬉しそうに見えた。



----------

馬車は王宮を通り過ぎ、貴族街を抜けて南門に通じる道をひた走る。

こちらから話しかけるまで口を開こうとはしない彼らも、少しソワソワしているようだ。

突き放すつもりはないが、親し気にする必要もない。彼らが何を知りたがっているのかはわかるが、私は静かに本を読み続けた。


馬車が止まった。何している?着いたぞ?

立ち上がり降りようとしたところで、ようやく慌てた二人が動き出した。

「お待ちください 扉をお開けします」

開いた扉の先では苦笑いを嚙み殺したようなゲイルとヨアヒムが立っていた。


「ふ 船に乗るのですか?」

しびれを切らしたのか、とうとうフェルダールが話しかけてきた。

『違う 用があるのはこちらだ』


ここは運河の船着き場だ。久しぶりに訪れたが、随分と進んでいる。

マーケットの建築現場を見て回る。訳が分からないと言った表情を浮かべながらついてくる二人に説明をする。

『これはマーケットの建築をしている 一階が店舗で二階が居住用だ 奥の建物は宿だ』

「このような場所にマーケット ですか」

『ああ ここだからだ』


このマーケットの意図をざっと説明した。

『来年この国を周ってここで扱う品々を探してくる どうだ?二人が勧める品はあるか?』

マンネルはベーン領に邸を構える子爵家だが、フェルダール家は領地を治める伯爵家だ。自分の領地のことならばいくらなんでも把握しているだろう。


「このマーケットで扱う品々は輸出も可能ということですね」

『そうだ ここからはノシュールの港も ダールイベックの港へも繋がる 王都だけではなく販路はどこまでも広がっている』


「フェルダールの品もお取り扱い頂けるのですか?」

『勿論だ 推薦したいものがあれば聞かせてほしい』

ようやく初めてフェルダール公子とまともに会話した気がする。


帰りの馬車では二人との会話が弾んだ。彼らが私のところへ来て九日目のことだった。

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