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『ビルに養子の話?』


視察の面談を終えた後ロニーが切り出したことは、到底予想できた話ではなく私を混乱させた。



リンドフォーシュ子爵―先王の時代から王宮に仕えてきた老官僚だ。私も名前はよく知っている。

その子爵夫妻に子はなく、子爵の代を持って爵位を返上する予定でいることも聞いていた。


「それとなく話をしてみたところ リンドフォーシュ子爵もビルさんのお名前はご存じでした」

『そうか』


「いくつかの条件を提示されましたが 養子の話を前向きに検討したいとの返事も頂いております」

『条件とは?』


代々官僚として仕えてきた貴族であるため、財産は王都の邸宅のみであり、引退後も夫妻が生きている間はそこで暮らすつもりだと言うこと。そして存命の間同居はしないということ。葬式は頼むが、その後の墓参りは不要、そして同じ墓に入る必要もないとのことだった。


『そうか』

一見冷たいようだが、最大限ビルのことを尊重しているようだ。ビルにとって決して悪い話ではない。



『養子はビルの希望なのか?』

「いいえ 私が先行して動きました」

『そうか』


ロニーはお節介でこのような行動をとる男ではない。ビルにとって必要だと判断したから、先に根回しをしたのだろう。



『この件に関して私に言えることはない ビルの判断に任せる』

「では今日お話しさせて頂いても」

『ああ もちろん構わない だが返事は急かすな』

「承知致しました」


私がこの立場ではなく、ビルのただの友人の一人としてこの話を聞いたとしたら、あまりいい気はしなかったかもしれない。彼には遠く離れたボレーリンの地に両親がいる。詳しい話を聞いたことはなかったが、ビルが両親を大切に想っていることはよくわかる。

視察ではボレーリン領も訪れる。その時両親と相談してからでも遅くはない。


『一つだけいいか?』

「お聞かせくださいませ」

従者のことを知り尽くしているロニーが持ち出した話である以上、それを否定するつもりはない。だから私は反対するわけではなかった。


『ビルがこの話を受けた場合 ハパラの名は残してやってほしい』

養子になったからと言って実の両親と縁を切ることはない、だろう?


「はい 必ずお伝え致します」

そう言うとロニーは柔らかく微笑んだ。



『では戻ろうか ビルも迎えに行かなければな』

自室に戻り、ロニーは図書館へビルを迎えに向かった。



ロニーとビルはワゴンを押して戻ってきた。

「昼食をお持ちしました」


『ああ ありがとう ビル ここで食べていこう 向こうはまだ忙しないからな』

「ここがレオ様の私室ですか 私がご一緒してよろしいのですか?」


『ビル 他のものはわからないが私の従者は共に食事をすることくらいある 言っただろう ビルは大切な友人でもあると だから遠慮する必要はない』

「ありがとうございます ご一緒させて頂きます」


ビルと話している間に、ロニーが手早くテーブルを整え終えていた。

今日は給仕の必要がない簡単なものをと頼んでいたから、三人でゆっくり出来るだろう。

『ありがとうロニー ロニーも座ってくれ』

「はい 失礼致します」



数時間が過ぎたことで、私の頭も再び回転し出したようだ。ビルに聞いておきたいことが今度は頭に浮かぶ。

『ビルは卒業後ボレーリンへ戻るのか?』


「いいえ 即従者の仕事を学びたいと思っています」

『そうか では部屋も用意しておかないとな 今日決めてしまおう』


『ところで二人はいつから会っていたんだ?』

ロニーとビルが会っていたことは全く知らなかった。初めて会ったのは私が池に落ちた時か?



「初めてお会いしたのは入学してすぐの頃です ロニー様が寮にお見えになりました」

そんなに前から面識があったのか。

『そうだったのか 全然知らなかった』


「ビルさんを他に取られてなるものかと思いましてね 早々に動きました」

ロニーは涼しい顔をしているが、その通りだと思う。実際方々から声がかけられていることだろう。


『ロニーに感謝するよ そしてビル

 この選択を決して後悔はさせない 私もそのために努力していく』




----------

宮を一通り見て回った。一週間前の今日は全く人けのなかった宮も、今日は多くのものが忙しく動いていた。

「本宮もそのうちご案内致します レオ様の使いで行き来する機会も多いでしょうから」

「はい よろしくお願い致しますロニー様」


ビルの部屋はロニーの隣になった。

以前ロニーに部屋の希望を聞いたとき、階段横の部屋をと言われていたが、後になってその場所はゲイルから強い要望があり、護衛のうち二人の部屋に充てることになっていた。その為当初の予定より私の部屋と近い場所に変更していたのだ。

『こちら側の部屋は眺めがいい あの池の向こうにはもうじき桜が咲く

 ・・・その桜を見ることが出来るのは何年か先になるだろうけれどな』


来年は桜が咲く前に出発する。その次の春を迎えるのはメルトルッカだ。

『そうか ビルにはメルトルッカへも来てもらわなくてはならないな』

「はい お供させて頂きます」


『・・・・・・ビル

 そうだな・・・ ビルも留学するか?今からでも充分選考に間に合うだろう ビルはメルトルッカ語を履修しているからな』

「お・・・私が留学ですか?」

目を丸くして驚いている。


『専科を諦めさせたからな 代わりと言う訳ではないがせっかく留学の資格が取れる年齢なんだ どうせ行くなら留学の方がいいだろう 同時に従者もこなせとは言わない 安心してくれ』

「は はい」


『まだ時間はあるから考えてみてくれ』

「わ・・・わかりました! ありがとうございます」

『うん では戻ろうか』

「はい」



本宮に戻り、私の部屋の前でビルと別れた。

「ではビルさんをお送りして参ります」

『ああ ロニー頼む ビルまた明日』

「レオ様 今日はお時間を頂きありがとうございました」


今からロニーはビルと話をするのだろう。二人は何度か会っているようだし、ロニーならば高圧的な物言いはしない。ビルに考える時間を与えてやれるはずだ。

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