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[237]spin-off

入学式の前日、俺は王都に着いた。

町の大きさに、そして人の多さに驚いた。俺の育った町も、領主様がいらっしゃる領で一番大きな町だ。人の多さにも慣れていたつもりだったけれど、王都は桁違いだ。こんな都会で俺はやっていけるのだろうか。


王都に知り合いはいない。

領主様から頂いたペンやインク、ノートの束で当分は困ることはないだろうが、それが尽きたら買い物に行かなくちゃいけない。それまでにお店の場所を教えてもらえる友達くらいは作りたいな。

その夜は制服の着方を何度も練習してから寝た。



入学式。俺の二つ隣に座っておられるのが王子殿下だ。

王子殿下は絵本の中の王子様そのもののようなお方だった。平民には決していないキラキラと輝くような金色の髪がとても印象的だ。俺は本当にこの方と同じクラスに入れたんだ。


殿下が壇上に上がられた。殿下がこの学年の主席だ。俺達の主席。なんだか自分のことまで誇らしく思えた。俺は殿下と同じ学年なんだ。ボレーリンの学園長が言っていた言葉の意味が今ならはっきりとわかる。


『三年後 一つの憂いも残すことなく卒業できるよう互いに励もう』

殿下のお言葉はとても短かった。その短さゆえに一文字一文字が深く心に刻まれる。励もう、決して憂いを残すことのないよう精一杯励もう。



入学式が終わると教室へ戻って、すぐに授業が始まった。学園で初めての授業は俺の大好きな国史だった。国史の次は算術。その二科目を受けると昼休憩の時間になった。

教科書やノートを片付けて席を立とうと思ったら、早くもクラスが二つのグループに分かれていることに気がついた。

一つは俺の隣、王子殿下とノシュール様だ。ノシュール様が殿下を責め立てているみたいで驚いたけれど、殿下の方はそれをのんびりと躱しておいでだ。どうやらお二人は冗談も言い合えるような仲らしい。そしてもう一人、お二人と親しいご様子のご令嬢。確かアルヴェーン様。他のご令嬢が羨望の眼差しで見詰めている。


もう一つのグループはそれ以外の全員だ。ちらとそちらを見ると、俺を手招きしている。鞄を持って慌ててそちらへ向かった。

「今から王子殿下をお誘いして食堂へ行こうと思うんだ」

「初日だからさ クラスの結束を固めたいって言うか お前も王子殿下とご一緒したいだろう?」

「はい お誘いくださいましてありがとうございます ご一緒させてください」

良かった、誘ってもらえた。俺に声をかけて下さった方が、殿下にお声がけをして俺達は全員で食堂へ向かうことになった。


殿下の指示で二つのテーブルに分かれる。俺は遠慮して殿下から離れた場所にいたのだけれど、殿下がこちらのテーブルに来られたためご一緒させて頂けることになった。俺が王子殿下と同じテーブルに着くなんて、いいのかな、本当にいいのかな。


順番に自己紹介をしていく。俺以外は全員貴族だった。そうだよな・・・王都の学園のしかもAクラスだ。俺が平民だと知ったらここにいる方達はどう思うだろう。順番なんて来なければいい、時間切れになってほしい、そう願ったけれど、とうとう俺の番が来てしまった。

「ヴィルヘルム=ハパラと申します。あの・・・このような席に着かせていただいて申し訳ありません 私は平民です」

段々と声が小さくなっていく。顔を上げることも出来なかった。けれど、すぐに返事をしてくださった方がおられた。


『ヴィルヘルム・・・ビル せっかくの自己紹介に口を挟んですまないが 何について申し訳なかったのだ?私達は今同じクラスになった者同士親睦を兼ねて昼食を共にしているところだよ』

王子殿下だった。恐る恐る顔を上げると、真っすぐに俺の顔を見ていた。一見厳しい目つきのようだったが、俺はこの目をよく知っている。いつも俺のことを大切に見守って下さっていた領主様と同じ目だ。


『ところで試験の時には見かけなかったね どこか別の学園で受けたのかな』

続けられたお言葉に驚いた。既に全員の顔を憶えていらっしゃるのか。俺がいなかったということもご存じだということは。


「はい 私はボレーリンの学園で試験を受けました」

その後も殿下との会話は続いた。王子殿下と俺が話しをしている。それも俺の話を。

『なんでも相談してくれ クラスメートとしてできることは手伝うよ そしてきっと他の誰に尋ねても同じように手を貸してくれるはずだ』


何よりも有難い言葉を賜った。殿下が俺をクラスメートとしてお認めになったのだ。それを同じテーブルの皆さんにもしっかり聞こえるようお話し下さった。


クラスの方々が俺を避けることなく接して下さるのは、初日のこのお言葉があったからだと俺は信じている。レオ様、このお若さでなんと思慮深く洞察に富んだお方なのだろう。殿下のお側で学べと言われたのは勉強のことだけではなかったんだ。


この頃から俺は、将来レオ様にお仕えしたいと考えていたのかもしれない。

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