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「今日はこのまま失礼させて頂きますね」

放課後の食堂で集まっていたところへ、挨拶に立ち寄ったスイーリを送りに馬車まで向かう。


『ソフィアかイクセルに伝えればよかったのに わざわざ悪かったね』

一晩経ってようやく私も冷静になった。昨日はどうかしていた。あれだな、きっと寝不足が原因だ。寝付けない経験などしたことがなかったからあの時は気がつかなかったが、うんそれに違いない。その証拠に今の私はいたって正常だ。


「いいえ レオ様にお会いしたかったので」

『ありがとう 私も顔が見れて嬉しかったよ』


外に出て、周囲に人気がなくなるとスイーリが切り出した。

「今日はこれから王宮に参ります お父様に呼ばれております 陛下に謁見を申し込んでおられるのだと思います」

『そうか』

しまったな、まだ陛下には何も伝えていない。昨日のうちに報告するべきだった。


『後で会おう 待ってるよ』

「はい 支度に少し時間がかかるかもしれません」

『うん』

このまま立ち寄っても全く問題ないと思うのが本音ではあるけれど、令嬢には様々な準備が必要なのだということもわかってはいるつもりだ。


『私はベンヤミン達ともう暫く残るよ 気を付けて』

「はい 送って下さりありがとうございました」




~~~

「おかえりなさいませレオ様 本日これからダールイベック家の謁見がございます レオ様にも同席するようにとのことでございます」

『うん わかった』

毎日のように陛下と顔を合わせているダールイベック公が、わざわざ謁見を申し込んだのだ。ロニーはとっくにその理由を知っているのだろうな。


「レオ様 おめでとうございます」

「殿下 おめでとうございます」「おめでとうございます」

『ああ ありがとう』


ロニーだけではなく、既にゲイルとヨアヒムも知っていたのか。・・・早いな。

『どこまで広まっている?』

今日学園では全くその気配はなかった・・・はずだ。


「ご安心ください 陛下の最側近で止まっているはずでございます」

「はい 我々もたった今知ったばかりです!」

ゲイルとヨアヒムの曇りなき笑みがなぜか忌々しい。

『そうか―』


まあ仕方がない。王宮とはそういうところだ。後数日もすれば出入りの商人すら知るところとなるのかもしれない。



『先に陛下に会う』

「かしこまりました お時間を頂いて参ります」

自室へは向かわず、真っすぐ陛下の執務室へ足を向けた。

『いや このまま向かう』

事前の連絡なしで陛下にお会いするのは初めてのことだが、別に問題ないだろう。どうせ謁見で呼ばれているんだ。


『陛下 ただいま戻りました』

制服のままいきなり訪れても、侍従はいつもと変わらず落ち着いて柔和な笑みを湛えたまま応対をする。本当こういうところは完全に親子だよな、ロニーと全く同じ顔だ。 反対か。ロニーが侍従に似ているんだよな。


「殿下 おかえりなさいませ 陛下がお待ちでございましたよ」

「おお 帰ったか」

書類から目を上げた陛下が眼鏡を外した。執務中は眼鏡をかけておられたのか、知らなかった。


『遅くなりまして申し訳ございませんでした』

側まで近寄り頭を下げる。

「そうだな 一日早いと尚良かったな」

『はい・・・』

面目ない。


「何めでたい話だ あれこれと言うつもりはない 謁見の話は聞いておるな?」

『はい』

「略装で構わん 私もこのまま向かう」

『承知致しました』

「レオ」

腕を組んだ陛下が、時を得顔で背もたれに背を預けた。


『はい』

「良い判断だった」

『ありがとうございます』

「しかし事前に一言あっても良かったのではないか?幼い頃のお前なら―」

ああ長くなりそうだ。最初に謝ったじゃないか。


「いやすまん あれこれ言わぬと申したばかりだったな ところで婚約式はどうするのだ」

そうだ、そのことを話しておこうと思って先にここへ寄ったのだった。


『はい 書面だけで結構です 婚約式は行うつもりありません』

「そうか フィルの娘はまだ十六だったな」

『はい 来月で十七になります』

「ふむ 相わかった それでよい」

よかった・・・婚約まで盛大に披露目を持てと言われたらどう反論しようかと思っていたところだ。


『では一度着替えに戻ります』

「ああ 時間になったら呼びに行かせる」



自室に戻り着替えを終えて時計を見た。まだ時間はありそうだな。

今週末に会うことになっている視察同行者の志望書に手を伸ばした。既に一度目を通してあるものだ。その中から一枚を抜き取る。それはクラスメートのものだった。


前に一度専科進学で迷っていると聞いたことがあったな。あの時点ではまだ視察旅行の話は公になっていなかったと思うのだが、その時既に知っていたのだろうか。彼が志望してきたことは少しだけ意外だった。



「今日全ての方に案内をお出ししました」

熱い紅茶の入ったカップを差し出したロニーが言った。

『ああ ありがとう』


志望書の奥にあった書類を渡される。

「こちらは建築の計画案でございます 今日仕上がって参りました」

オリアンの邸をはじめとする一連の工事の計画案だ。これに関しても素人だからな。専門家が練った計画ならそれに沿って進めるのが一番いい。


『ロニーから見てどうだった?』

「はい レオ様がご提示なされた条件は全て満たしておりました 妥当だと思います」

『そうか それならこのまま進めてもらおう 工場長の邸だけは二人の意見を優先するよう伝えてくれ』

軽く目を通してサインをした。一日も早く工事に取り掛かりたい。


『最優先は宿舎と宿かな いつまでも教会を当てにするわけにもいかない』

「そうですね その二棟を最優先するよう伝えておきます」



一時間、いやそれ以上経っただろうか。ようやく陛下の従者が呼びに来た。

「王子殿下に申し上げます ダールイベック公爵以下三名様ご到着致しました 謁見室までお越しくださいませ」

『わかった』

上着を羽織って謁見室へと向かった。

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