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日曜日の夜は週に一度家族が揃う時間です。お帰りが深夜になることもあるお忙しいお父様も、日曜だけは早くお戻りになります。


今夜の晩餐はお母様のお好きなシャンパンで始まりました。私とお義姉様は、最近お義姉様がお気に入りの、エルダーフラワーシロップの入ったレモネードを頂くことにしました。


「アレクシー 一週間変わりはなかったか?」

寮でお住まいのアレクシー兄様の近況を聞かせて頂くことから始まるのもいつものことです。

「はい 最後の模擬戦の日程が決まりました」


次の日曜日に模擬戦があるということは以前にお聞きしていましたから、その次の話のようです。とうとうアレクシー兄様も三ヵ月後には騎士になるのね。兄様は小さい子供の頃からレオ様の専属騎士になるのが目標でしたから、間もなくその夢が叶うのね。

ちょっと、ほんのちょっとだけ羨ましいわ。毎日レオ様と過ごせるようになるのね。


でももう私は・・・

テーブルの下で左手にそっと触れてみました。家族が揃うこの場で話すのが一番いいと思い、指輪をつけてきたのです。お食事が終わったら聞いてもらおう。



そうだわ、その前にあれをお父様にお聞きしようかしら。

レオ様に王太子宮のお名前の意味をお聞きしたかったのに、教えて頂けなかったのです。あの時レオ様は口元を抑えて顔を背けられてしまったのよ。それほど聞いてはいけない意味なのかしら?

そんなはずないわよね、王太子のお住まいになる宮の名前なのですもの。気になるわ。


「お父様 イチハツの意味を教えて頂けませんか?」

お肉を切り分けていたお父様が手を止めました。

「そうか スイーリは今日王太子宮を見せて頂いたのだな」

「ええ とても素晴らしかったわ」


お父様とヴィルホ兄様はもうご存じとのことでしたが、お母様達はまだご存じではなかったようです。

「王太子宮のお名前ですか?」

「そうだ 鳶尾宮と言う」

「なんだ獅子宮にしなかったのか」

ふふ、アレクシー兄様もそのことを思い出したのね。あれはノシュール邸でのお茶会だったかしら。宮の名前で悩んでおられたレオ様に皆で提案したのが獅子宮だったわね。レオ様は全力で否定なさっていたけれど。


「それでお父様 イチハツとは何の言葉なのでしょう?」

「ああ アイリスの名前だそうだ」



えっ?


「一番最初に咲くアイリスが鳶尾と言うそうだよ 殿下は陛下に似ず風流なお方だ」

「まあそんなことおっしゃって 陛下に罰せられても知りませんよ」

「陛下はあれでいいのだよ」

お父様とお母様が笑い合っていますが、耳には入って来ませんでした。


アイリス?偶然・・・ではないわよね。一番最初のアイリス、初めての・・・・・

レオ様、もしかして私のために?



それであの場所でプロポーズを?


宮の名前までもが贈り物だったのですね。

ああ・・・


まだお食事の途中よ、泣いては駄目。でも胸がいっぱいで幸せなんて言葉では言い表せないほど幸せで・・・



「スイーリどうしたの?

 まあ あなたその指輪!」

お母様に見つかってしまいました。お食事中なのにごめんなさい、もう堪えきれないみたいです。涙が溢れてきました。

「はい 今日レオ様にプロポーズして頂きました」


「おめでとうございます! スイーリ様」

「おめでとうスイーリ!」

お義姉様とアレクシー兄様の声が同時に聞こえました。

「ありがとうございます お義姉様お兄様」


「おめでとうスイーリ 良かったわね」

お母様も目を潤ませています。

「ありがとうございます お母様」




「そこの二人はどうしたのかしら?可愛い娘と妹を祝福してあげることは出来ないのかしら?」

お母様が笑いながらお父様とヴィルホ兄様を窘めます。


「スイ・・・ズイ・・ズイーリ・・・・・良がったな・・・おめでどう・・・」

涙で鼻声のヴィルホ兄様は、お義姉様が差し出したハンカチで顔を覆ってしまいました。

「ありがとうございます ヴィルホ兄様」



「じあわぜになれ ズイーリ・・・」

「もうー明日結婚するわけではないのですよ しっかりして下さいまし」

隠すこともせずぽたぽたと涙を落とし続けるお父様。お母様が側に寄ってそっとハンカチで拭って差し上げています。




お食事どころではなくなってしまったお父様とヴィルホ兄様。もう一度乾杯だ!と開けた新しいシャンパンを飲み干すまでお二人は泣きっぱなしでした。



そんなお食事がようやく終わって紅茶が注がれた頃になり、お父様もやっと落ち着いて下さったようです。

「叙任式に間に合わせて頂いたのだな 良かったなスイーリ これでお前も安心できるだろう」

「はい?叙任式・・にですか?」


レオ様の王太子叙任と婚約。直接は結びつかないことのように思うけれど、そうではないのかしら。

「ああ・・・

 いやそうだな お前もいずれ知ることになるのだから 今話してやった方がよいな」

な、何があるというの?でもお父様が良かったと仰るのだから、私にとって良いことなのよね?


「叙任式に列席される国賓だがな 大半の国は王女連れだ 王女単身の国もある」

それを聞いて顔色が変わったのはアレクシー兄様だけでした。

「まあ無理もない話だ ステファンマルクと縁続きになりたい国はパルードだけではないからな」


「それに殿下はあのご容姿だ 実際にお会いになった王女達がどうなるかは火を見るよりも明らかだろう」

ヴィルホ兄様まで神妙な顔をなさってしまいました。


「そんなことは関係ないさ レオはスイーリに夢中だからな」

「ええ スイーリ様はもうれっきとした婚約者なのですもの 何も心配することはございませんわ」

アレクシー兄様もお義姉様もありがとうございます。大丈夫です、私も何も心配はしていません。


「そうだ二人の言う通りだ 殿下が今婚約を交わそうとお思いになったのも 恐らくはそのことが関係しているだろう この国の風習は他国にも広く伝わっている 先王が王家も例外ではないということをお示しになられたからな お前がしっかりと殿下をお支えしていれば誰とて近づくことは出来ないだろうよ」



「とても深く愛して頂いているのねスイーリ 嬉しいわ」

「当たり前ではありませんか母上 どれほどレオがスイーリのことを大切にしているか」

アレクシー兄様のこの言葉は、私達ダールイベックにはとても重い言葉でした。そうです、私は一生を捧げてお支えしても足りないほどのものを、既にレオ様から頂いていますから。



「スイーリ 明日私を訪ねてきなさい 少しくらい遅くなっても構わない しっかりと身支度を整えてくるのだ」

「わかりましたお父様」

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