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無人の宮を後にして、本宮へと続く路を並んでゆっくりと歩く。

『最初は後一年待つつもりだった』


かつてはこの国にも、生まれる前から結婚相手が決まっていることが珍しくない時代があったらしい。

だが現代は成人前に婚約を交わすものはほぼいない。父上の時代でも既にそれが一般的だったそうだ。

だから私もスイーリが成人する来年まで待つつもりではいたのだ。


ついさっき自分の中に潜んでいた強い独占欲を自覚したばかりだが、それが理由ではなかった。


―三ヵ月後に迫った王太子の叙任式。

父上は叙任式をしなかった。それ以前の代は何代にも渡り新王の即位と王太子の任命が同日だったため、叙任式を単独で執り行うことはなかった。

よってステファンマルクで王太子の叙任式が行われるのは数世紀ぶりのことなのだそうだ。そのため父上いや陛下は相当に大規模なものを計画しておられる。一年以上前から数多くの国に招待状を送り、そのほぼ全ての国から参列の返答があった。



他国の要人が列席するその場で、スイーリを正式に婚約者として紹介したかった。それも独占欲のひとつだ・・・と言ってしまえばその通りかもしれない。

それと― いやスイーリが承諾してくれた今となっては、理由などどうでもいいな。



「ありがとうございます レオ様が視察に出発なさる時 私は婚約者としてお見送りができるのですね」

そうだな、一年近く離れて過ごすことになるけれど、婚約と言う目には見えなくとも確かな絆が、離れている時間の支えになればいい。


『うん 長い婚約期間になるが メルトルッカから戻ったら結婚しよう』

「はい」

繋いだ左手に自然と力が篭った。スイーリもしっかりと握り返してくれている。



「レオ様 王太子宮のお名前はもう決まったのですか?」

何年前だっただろう・・・茶会の席で散々揶揄われたことがあったな。獅子宮にしろと言ったのは誰だったっけ。あの時スイーリまでそれに同意していたことを憶えている。


『ああ決まったよ 鳶尾宮にした 七月に発表するらしい』

「あっ先に伺ってよかったのですか?」

『うん 秘匿されているわけではないから心配しないで

 ダールイベック公やヴィルホも既に知っている』


「良かった 安心しました  あの・・・レオ様?」

遠慮がちに上目遣いで名前を呼ばれる。

スイーリ・・・もう今日の私は限界なんだ。そんな顔で見ないでくれよ、お願いだ。


目を逸らし、明後日の方を向いたまま返事をする。

『うん 何?』


「イチハツとはどういう意味かお伺いしても?」

その言葉に思わずたたらを踏んでしまった。

「あっ!大丈夫ですか?」

繋いだままだったスイーリの手も勢いよく引っ張ってしまう。全く何やってるんだ、スイーリが転ぶところだっただろう。


『それは・・・鳶尾の意味は・・・・・』

首まで熱くなっているのがわかる。何故今ここで聞くんだスイーリ。



『済まない 今は言えない

 ・・・帰ったら公爵に聞くか調べてくれ ごめん』





その後本宮に戻りスイーリと茶を飲み、帰りは邸まで送り届けたはずなのだが、何を話していつ送って行ったのかもよく憶えていない。

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