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今日は放課後にメルトルッカ語の勉強会がある日なのだが、来客がある私は欠席だ。

『ベンヤミン済まないな 今日は先に失礼するよ 次は参加する』

「うんわかった 皆にも伝えておくわ また明日な」



急いで馬車へ向かった。

「レオ様 おかえりなさいませ」

『うん 二人はもう来ているのか?』

「はい お見えになっております」

早いな・・・。伝えた時間通りに来てくれてよかったのに、随分と待たせたのではないか。



王宮に戻り、そのまま二人の待つ部屋へ向かう。

『遅くなって済まなかった よく来てくれたな』


出された茶に手を付けることもなく、カチコチにかしこまって座っていた二人の職人が慌てて立ち上がった。

「お目通りが叶い 光栄でございます」

「拝謁を賜り 誠に光栄でございます」


『堅い言葉は不要だ あなたがヘルベルト=サディークだね 長旅ご苦労だったな』

「は はい!あ・・・いいえ 私などのために素晴らしい馬車をご用意頂いてありがとうございました」

両手を太ももに張り付けたまま微動だにせず、口だけをようやく動かしているようなサディークだ。


『二人とも まずは座ってくれ 立ったままでは話しにくい』

今度は慌てて椅子に座り身体を強張らせている。参ったな・・・


『今日来てもらった理由はもう聞いているだろうが 見た方が早いな 加工を頼みたいのはこの貝だ』

サディークの前に三つの貝殻を並べた。以前ガラス職人のクレメント=バルトシュが加工したビーズも横に置く。


するとサディークは職人魂に火がついたのか、今までの鯱張った態度が嘘のように饒舌になった。

「おお!これが!クレムから聞いていた以上だ!素晴らしいな おお!この白いのが磨くと真珠になるってやつか!うわーお前も腕上げたな これなんて俺より上手いんじゃないか?」

「お おい・・・」

隣に座っているバルトシュが青い顔をして慌てている。

クリスマスマーケットで会った時のバルトシュもこんな感じだったな。職人とはこういう気質なのかもしれない。


『どうだ?サディーク 引き受けてもらえるか?』

「はい!是非やらせて下さい よろしくお願い致します」

サディークは二つ返事で加工を引き受けてくれた。


『後で今用意できる貝を全て見せよう 空色のものは一年分だ 次に拾えるのは秋になる 白は夏と冬の二回獲れるそうだ ピンクのものは年中獲れると言うから港に集めておこうと思っている』

「ありがとうございます 全て俺が持ち帰ってもよろしいのでしょうか」

『ああ そうしてくれると有難い』

サディークと貝の話をしていると、扉を叩く音が聞こえた。

『来たな』


裁縫師がビーズを見に来たようだ。

『ロニー サディークに貝を見せてやってくれないか?私は裁縫師にバルトシュを紹介する』

「かしこまりました ではサディークさん一度貝を見にお連れ致します」

二人が貝の確認に向かったところで、裁縫師に席を勧めた。

『彼が先日話したガラスビーズの職人だ

 バルトシュあなたの作品を見せてもらえないか?』

「は はい!」


バルトシュは鞄から浅い箱を取り出した。蓋を開けると中は細かく仕切りがされていて、色とりどりのビーズがキラキラと光を放っていた。

「これは・・・とても丁寧な仕事ですね」

裁縫師は用意してきた白い手袋をはめて、慎重にビーズをつまみ上げた。

「色の種類も大変豊富ですね」

裁縫師が言葉を発する度に、ぴくりと肩を揺らしながら目を皿のようにして裁縫師の指先を凝視している。


「殿下 正式に取引をさせていただいてもよろしいでしょうか」

『私の許可は必要ない バルトシュどうかな?王宮との取引を受けてもらえるか?』

皿のように見開いていた目は今度は点になってしまった。


しばらくの間、呼吸すら止まっているのではないかと心配になるほど微動だにしなかったバルトシュが、ようやくひとつ瞬きをした。

「は・・・・・はい!ありがとうございます!よろしくお願い致します!」


「殿下素晴らしい職人をご紹介いただき 感謝申し上げます

 早速こちらを買い取らせて頂きたいのですが バルトシュさんの作られるビーズの種類はこれで全てですか?」

「は!いえこれは一部です 毎回全く同じとは行きませんが他の色もございます」

「ではこちらの希望の色をお作り頂くと言うことは?可能ですか?」

「ある程度は はいご希望に沿えるものを用意できるよう努力します!」

バルトシュの工房は王都にある。頻繁な打ち合わせにも対応できるだろう。


今日用意してきたビーズは全て買い取ることで話がまとまったようだ。

「次回までこの箱もお預かりしてよろしいでしょうか 便利ですね このような箱があることを知りませんでした」

格子状に仕切りの入ったその箱は、内側に布が貼られていてビーズを仕分けしながら保管するのにぴったりだ。なんとこの箱もバルトシュの職人仲間の作品らしい。職人の繋がりは素晴らしいな。

裁縫師はその箱を作った職人にも依頼を希望した。



バルトシュと裁縫師の話がひと段落した頃、貝を確認していたロニーとサディークも戻ってきた。

「レオ様 予想以上の量で驚かれたご様子でしたよ」

ロニーの耳がピクピクと動いている。笑いを堪えている時のクセだ。

『それは済まなかった サディークの望む分だけ運ばせよう 残りはここで保管しておくから必要になったらいつでも請求してくれ』

「ありがとうございます 全て持ち帰ることが出来ればよかったのですが・・・」



『サディーク 私はこれを貴族だけのものにするつもりはない バルトシュのビーズのように広く愛されるものになればと考えている まずは自由に作ってみてくれ 完成したものはアルムグレイン家を通してこちらへ送れるように話をつけておく』

「かしこまりました 戻りましたらすぐに取り掛かります」

『うん 楽しみにしているよ』



アルムグレインの令息とは週に三度ホベック語の授業で顔を合わせている。今は諸事情で別のクラスだが一時は同じクラスでも学んでいたルーペルトだ。彼から伝えてもらおう。



・・・クレメントにヘルベルトにルーペルト。

アルムグレイン領は'ト'で終わる名前が多いんだな。偶然か?

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