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代官と工場長か・・・。


返上された土地は予想していたより広かった。川に沿った近隣の町もいくつか含まれている。それらの町のことは書面でしか確認できていないが、代官を置くのは工場のある町で構わないだろう。

その代官も夏までに探せば充分だ。元々代官の置かれていない町なのだ、急ぐ必要はない。それよりも工場が先だ。工場は今どうなっているのだろうか。主を失い稼働していないのだとしたら、工員達は収入を絶たれているということだ。早急に新たな責任者を決めて稼働させてやらねばならない。


しかし、そのまま引き継ぐ必要はないと陛下は仰った。つまりは改善せよと言うことだ。

裁縫師の見立てでは、さしたる特徴もない平凡な生地とのことだったビョルケイ工場製の絹織物だ。何かこの工場らしさを付けるとしたら何がよいだろう。



・・・・・

ド素人一人では何も浮かばないな。ここは裁縫師に頼るのが一番確実だ。


『ロニー この時間裁縫師はまだいるかな』

「すぐ確認して参ります おられましたらお連れしてよろしいでしょうか」

『ああ頼むよ』


素人なりに考えると、プリントは気が進まない。上質なドレスは全て刺繍で仕立てているはずだからだ。さらにビョルケイ産のプリント地にはよくないイメージがついている恐れが高い。工場の名称は変わるが産地を聞いただけで敬遠されるようなことは避けた方がいい。


絹織物は高級品だ。ならば中途半端はよくない。王宮裁縫師の創作意欲を刺激できるものにしなければ意味がない。


と、ここまでは考え付くのだが、ではどうしたらいいかと問われると全く思い浮かばなかった。


引き出しの中から小さな箱を取り出した。以前スイーリが空色の貝を詰めて贈ってくれた小箱だ。蓋には丁寧に刺された猫と花の刺繍が入っている。

もうこの際私利私欲に走るか。自分の望むものを作ってみるのも悪くないな。



「レオ様 お連れ致しました」

ロニーが裁縫師を伴い戻ってきた。以前ビョルケイ産の生地を見立ててくれた裁縫師だ。

『毎回遅くに呼び立てて申し訳ない 来てくれてありがとう』

「殿下お気遣い感謝致します ですがこの時間はまだ通常勤務の時間内ですのでお気遣い無用でございます」

『そうか それは良かった 今日も相談に乗ってほしい』

「かしこまりました」


席を勧め早速話を切り出した。

『以前生地を見立ててもらった工場を立て直すことになってね いくつか助けてもらいたいんだ』

「はい 何なりとお申し付けくださいませ」

『うん助かるよ まず一つ目にあの工場ならではの特色を持たせたい あの工場の生地に足りないものは何かおしえてほしい』


「はい 交易品の生糸で織られた生地そのものは悪くはありませんでした しかし凡庸で物足りなさは感じました」

『成程』

話が早い。今回の裁判についても詳しく知っているようだな。


やや間が空いて彼女は続けた。

「殿下のご希望をお聞かせいただけませんか?どのようなことでも構いません」

希望か・・・。

そこで先程考えていたことを話した。


『それから・・・ちょっと待っててくれ』

机の上に置いてあった小箱を取りに行く。

蓋を開けて彼女の前に置いた。


「これは・・・?!初めて拝見いたしました」

箱の中には貝で作られた三色のビーズが入っている。


『このビーズが引き立つ布を作りたい』

簡単にビーズの説明をした。このビーズの他にガラスビーズの職人も近々呼ぶ予定であることも含めて。


「殿下 私が口を出す必要もございませんでしたね 素晴らしいです とても良い生地に仕上がると思います」

裁縫師は笑顔を見せた。

「良い染色師を見つけて参ります 生糸の産地が重要と以前お話し致しましたが 水もまた大変重要でございます 現地へ赴き染めさせてみるのが一番確実でしょう」

『そうか ありがとう任せるよ』


「次回は染色師と共に参ります その時に殿下のご希望のお色をお聞かせくださいませ 徐々にお色は増やしていくとして最初は二~三色程度がよろしいでしょう」

『わかった あなたに仕立ててもらえるような生地を必ず作る』

「光栄でございます 是非お仕立てさせて下さいませ」


工場を任せられるものに心当たりがあるかも聞きたかったのだが、その染色師に引き受けてもらえるならそれが一番良い。まずは染色師を待とう。



その後ロニーと町の話をした。

『ビョルケイ母娘の暮らしていた家がどのくらいの広さか聞いておいてほしい』

「かしこまりました 工場長の住まいにお考えですか?」

『ああ とりあえず今ある空き家と言えばそれくらいしか思いつかなくてね』

母娘を住まわせていたのだ、粗末な家ではないだろうと思う。そしてもう一つの空き家、ビョルケイの本邸だった邸は代官の住まいにする方が良いだろう。


『宿もない町だからな 翡翠の調査を始める前にその辺りを整えることから始めたいと思う』

一時的に滞在するもののための宿とは別に宿舎も必要だ。流しの商人を頼るのではなく流通を整えて市場も置く。並行して代官の邸も公館として機能するよう建て増しする必要もあるだろう。やるべきことは山積みだ。



『はぁーようやく諸々が片付いて 卒業まで静かに過ごせると思っていたのにな』

「あの町とは今後も長い縁で繋がることになりそうですね」

『そうだな・・・』

こうなった以上一度は足を運びたい。夏に行くか。


『ロニー 次の夏にこの町へ行く』

「かしこまりました ご一緒させて頂きます」

できればそれまでに従者を増やし同行させたいと思う。いや違うな、増やすのではなくてロニーの代わりとなる従者だ。ゆくゆくロニーには従者を外れてもらうつもりだ。その為にも新しい従者を早く仕事に慣れさせる必要がある。


『ロニーが探してくれた従者も連れて行きたい』

「はい その時期でしたら問題ないと思います 先方にもお伝えしておきましょうか」

『そうだな・・・』

従者だから遠出の機会もあることは理解しているだろうが、就任早々数週間王都を空けることになるのだからな。何かと準備もあるか。

『数週間の視察予定があるとだけ伝えておいてほしい』

「はい 承知致しました」

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