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数週間が過ぎた。朝アレクシーと鍛錬をして学園へ向かう。放課後には皆で集まったりスイーリと寄り道をして過ごす。残り半年を切った学園での生活が、当たり前に過ごしていた頃の日常に戻ったことが嬉しかった。


ビョルケイ嬢とはたまに学園の中ですれ違うがそれだけだ。表情から判断するだけだが、決して暗い顔はしていなかった。新しい生活にもそれなりに慣れているといいと思う。


ペットリィも一時は腫れ物のように扱われていたようだが、従来の本人の腰の低さもあってか、今では周囲も以前と変わらぬように接しているらしい。


そして一人留め置かれていた使用人は、結局のところ深いことは何一つ知らなかった。カトゥムスとも面識はなかったとのことだった。彼は他の本邸使用人と同じく六ヵ月の労役刑となり、その本邸に残されていた第一夫人クローニも、マニプニエラ同様十年の労役に加え王都とダールイベック領からの追放に決まった。


心配されていたケイトウの花=ベレンドアステンは未開封だった。ロニーが密偵達に確認したところ、グレーンが瓶に開けられた様子はなかったと断言していたため心配はしていなかったが、実際その通りだった。この国に持ち込まれたのがあの一瓶だけであったと信じたい。


いくつかの疑問を残しつつもこうして一連のビョルケイ事件は完結した。



二月も終盤に差し掛かった頃になって、ようやくダールイベック公爵が王都に戻ってきた。

そのことを最初に聞かせてくれたのはスイーリだ。

「レオ様 お父様が昨日お戻りになりました 港からたくさん貝を取り寄せて下さっていたのですよ」

スイーリの出した手紙は無事公爵の元へ届いていたようだ。入れ違いにならなくてよかった。


『そうか やっと帰ってこれたのだな わざわざ取り寄せてくれたのか有難い』

「はい 三種類充分な数があります いつでも王宮にお運びしますね」

『ありがとう いや取りに行かせるよ 公爵にも礼を伝えなくてはな』

これで職人を迎えに行く手筈も整った。後ひと月もすれば寒気も緩む。それを待って迎えに行くようにしよう。



と、のんびりと計画を立てているところへ思いもしなかったものが舞い込んできた。

「レオ様 お戻り次第陛下が執務室へ来るようにとのことです」

『わかった 何の話かは聞いているか?』

「いえ 私には知らされておりません」

なんだろう?とりあえず着替えだけを済ませて執務室へ向かった。


『陛下 ただいま戻りました』

「ああ 急に呼んで悪かったな」

陛下の向かいの席にはダールイベック公爵の姿があった。公はすぐさま立ち上がり深く頭を下げた。

「殿下 ご無沙汰しております 昨日王都に戻りました」

『おかえりダールイベック公 貝を集めてくれたと聞いたよ ありがとう』

「お役に立てましたら幸いでございます」


「なんだ?また新しいことでも始めたのか?」

陛下の目が楽しそうに揺れた。そうだ、この話はまだしていなかったな。

『はい 計画中です』


「その話はまたじっくり聞かせてもらおう 今日呼んだのは別の件だ」

『はい』



「レオ 直轄地をひとつ任せる」


・・・え?


今?



まだ私は学園に通う学生の立場だ。半年を切ったとは言ってもれっきとした学生だし成人もしていない。

なのに今?なのか?

困惑のあまり返事も忘れていると、陛下が愉快そうに続けた。

「どの地かわかるか?当ててみよ」


わかるわけがない。

『申し訳ございません 見当がつきません』


「ビョルケイのいた町だ あの一帯をお前に任せることにした」

『えっ?』

驚いてダールイベック公の顔を見た。公爵は柔らかい笑みを浮かべたかと思うと表情を引き締めて、またも深く頭を下げた。

「殿下 よろしくお願い致します」


「フィルがな どうしてもあの地を返上すると言って聞かないのだ」

困り果てたような声色をしている陛下だが、その実新たな獲物を捉えた猛禽類のような表情をしていた。

「私に協力できることがございましたら何なりとお申し付けくださいませ とは申しましても 既に殿下の方があの町に関して熟知なさっているかと存じます」



()()()()次第だが あの町はこれから大きくなる 工場もレオが管理せよ そのまま引き継ぐ必要はない お前の好きなようにやって良い」


『しょ・・・承知致しました』



圧に負けて承知してしまった。


「今回新たに直轄地となった箇所は後程地図を渡す 正式な引き渡しは七月の予定だ それまでに代官や工場を任せるものを選任しておけ 川の調査も暖かくなってきたら先に進めておくとよいだろう」

『かしこまりました』


「少し早いがな 良い機会だ お前なら出来る自信を持て」

『ありがとうございます ご期待に沿えるよう努力して参ります 七月までに準備を進めます』

「ああ 頼んだぞ」


『では失礼致します』


そうだ、公に伝えておきたいことがあった。

『ダールイベック公 陛下をよろしく頼むよ 公の帰りを指折り数えるように待っておられたからな』

二人が声を上げて笑う場を後に自室へと急いだ。

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