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早朝の鍛錬の後、慌ただしく支度を済ませて牢舎へ向かった。


アレクシーからペットリィの様子も聞きたかったのだが、今朝はその時間すら惜しい。

『今日は時間が取れず済まない 私もペットリィのことは気にかかっている 明日聞かせてもらえるか』

「わかった あいつのことはとりあえず心配するな ありがとうレオ」


『また明日』

「ああ また明日な」



牢舎に着くと、すぐに奥の部屋へ案内された。前もってビョルケイ嬢を連れ出していたようだ。

『おはようビョルケイ嬢』

「王子殿下 おはようございます」

椅子の横に立って待っていたビョルケイ嬢を座らせて、向かいの椅子に腰を下ろした。


『結論から言おう 放免だ 学園にも復学できる』

私がここに来た時から真っ赤だった目に、大粒の涙が浮かんだ。

「ありがとうございます ご恩は決して忘れません 一生をかけてお返しさせて下さい」

『うん 続きはそのことだ ビョルケイ嬢 卒業まではここに住め ここから通い必ず三年で卒業しろ』

驚いて涙も引っ込んだようだ。瞬きを繰り返し口はぽかんと開いている。


「王宮に?私がですか?」

『詳しいことはロニーから話をさせる ここでする話でもないからな 後でロニーが迎えに来るだろう もう牢に戻らなくていい

 暫くこの部屋で待たせてやってくれ』

看守にそう告げて立ち上がった。


『次は学園で会おう』

折れ曲がったように頭を下げ続けるビョルケイ嬢を残して牢舎を出た。

彼女の母親も全く同じ姿をしていたな。不思議なところが似るものだ。




----------

「お待たせしましたビョルケイさん 行きましょうか」

主を学園に送り届けたロニーが再び牢舎に姿を現した。


牢舎を出て本宮へと向かう。訓練場が見えてきたところで左に曲がる。ここから先、主の供では決して歩かない道を進む。騎士の宿舎の裏手に同じような建物が建っている。簡素な扉を開いて中に入り、さらに廊下を進んで行く。そこは左右にたくさんの扉が並んでいた。

「ここです お入りください」

扉を開けて促すと、ビョルケイはそれに従った。


「今日からこの部屋をお使いください 王子殿下のご配慮で個室をご用意しました」

質素だが清潔な使用人用の部屋だ。ベッドと机を始め最低限の家具は揃っている。

「ここでの生活については 後程別のものから説明させます 先に殿下のお言葉をお伝えいたします」


「平日は学業を優先するようにとのことでございます 基本的に長期休暇の期間以外は仕事を与えないよう申しつかりました」


「説明が遅れましたが ビョルケイさんには本日より下女として仕えて頂きます これに関しても詳しい説明は後程別のものからあるでしょう 質問がございましたらそのものにお聞きください」



「今からタウンハウスにお連れ致します 必要な荷物をおまとめ下さい 殿下より許可を頂いておりますから今日持ち出したものはビョルケイさんの私物として認められます それ以外のものは全て財産没収の対象となりますことをご承知ください ご自身で運べる量を目安になさるとよいかと 学園で使用するものはそこに含めないよう申しつかっておりますのでご安心ください」



一息に説明を終えた。

「ロニー様ありがとうございます よろしくお願いいたします」

丁寧に頭を下げる。とても美しい所作だった。リーラの指導も無駄ではなかった。


「殿下が仰ったように 学園は必ず卒業なさって下さい 学園を出れば家庭教師の仕事に就くことができます ここで下女を続けるよりもよい暮らしができるでしょう」

兄のペットリィは騎士の称号を得ることが出来る。騎士団に入ることが出来なくても、貴族の専属護衛など道はいくらでもある。妹にも自分の力で生きていくことのできる力を身に付けさせたいという、レオ様のお心をこの令嬢が理解しているとよいのだが。



ロニーは再びビョルケイを伴い、今度は馬車の乗り場へと向かった。そこには既にタウンハウスへ同行する騎士が待機していた。

「お待たせ致しました よろしくお願い致します

 ビョルケイさん こちらの方々が今から同行する騎士の方です」


「ありがとうございます よろしくお願い致します」

ここでも丁寧に頭を下げている。騎士の表情も柔らかい。


「戻りましたら声をおかけください」

騎士にそう伝え、ロニーは仕事に戻った。そろそろ侍従から何か指示が来ているだろう。


今朝一番に主から預かった書面を陛下にお届けした。昨日の翡翠の件だ。てっきり帰宅後に口頭で報告なさると思っていたのだが、主は昨夜のうちに報告の書面を書き上げていた。


「ロニー 王子殿下への言付けをお願いします お戻り次第陛下の執務室へおいで頂くようにとのことです」

侍従が伝言を伝えに来た。陛下は大抵の場合、息子の従者への連絡には自らの従者ではなく侍従を遣わせる。


「かしこまりました 本日はお戻りが遅くなりますことをお伝え願います」

「承知しました では後ほど」

言い終えると侍従は僅かに微笑み、ロニーの肩をぽんと叩いて戻って行った。


今日主は八番街にお寄りになる予定だ。今年に入って初めてと言っていい私的な時間だ。これくらいは優先しても構わないだろう。主の予定の管理も従者の務めだ。



さて、ビョルケイが戻る前に彼女の上司となるものへ申し送りを済ませておかなければならない。主の指示を伝えに行くことにしよう。

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